チャイコフスキーのバイオリン協奏曲が輝くハートフル・コメディ映画『オーケストラ!』

2017年9月14日映画, 感動ドラマ

この作品は、私もそんなに期待してなかったのですが、見事に予想を裏切られました。
特に東欧に住んでいるので、ロシア人の暮らしや社会慣習の描き方がツボにはまりすぎて非常に面白い。
昼からウォッカ、アルバイトで人を集めてプロパガンダ、所構わず騒ぐ、商売する、金、金、金、etc。本当にそのもの。アンドレイが暮らすアパートのキッチンも、本当に雰囲気が出てます。東欧も今でもこういう作りの建物が多いですしね。年金アップより家賃の方が高い、というのも。

それでいて泣かせるところは泣かせる。脚本が非常によく練られています。
DVDではフランス語とロシア語両方なんですよね。
できればオリジナル音声で見た方が面白いんだけど、日本語の吹き替えも上手です。楽しんでください。

作品紹介

クラシック音楽をテーマにした映画と言えば、やたら高尚だったり、やたらシリアスだったり、こちらも身構える作品が主流で、「音楽は良かったけど、なんか疲れた」と感じることも少なくありません。

その点、寄せ集めオーケストラのどたばたパリ公演の模様を描いた『オーケストラ!』は、笑いあり、涙あり、の上質な映画。

根底にはシリアスな要素を含みながら、暗さや重さはまったく感じさせず、そのくせ最後は自然に泣けるという、フランスらしいエスプリの効いた作品に仕上がっています。

物語は、ロシア・ボリショイ交響楽団のリハーサルから始まります。うっとりと指揮をするアンドレイは、実は劇場清掃員。でも、30年以上前は、由緒あるボリショイの常任指揮者として名声を築いていた一流の音楽家でした。

そんなアンドレイは、パリのシャトレ座から送られてきた出演依頼のFAXを盗み読み。同じ交響楽団の仲間でチェリスト、今は救急車のドライバーをする親友のサシャを巻き込んで、かつての仲間でオーケストラを再結成し、「ボリショイ交響楽団」を装って、シャトレ座に出演することを画策します。

ソ連のブレジネフ政権下、ユダヤ人排斥に逆らった為にオーケストラを解散させられ、指揮者としての栄光も失ったアンドレイ。でも、クラシック音楽に懸ける気持ちは、当時の仲間も同じです。

アンドレイとイヴァンは、市場の売り子やポルノ映画のアフレコに身をやつす昔の仲間を掻き集め、かつての劇場支配人で、ユダヤ人排斥に加担していた共産党員のイヴァンを担ぎ出し、ロマ族であるコンサート・マスターの力を借りて、パリに乗り込みました。

アンドレイの強い希望で演目は「チャイコフスキー:バイオリン協奏曲」。ソリストにはクラシック界の新星として人気を集めるフランス人の美しいヴァイオリニスト、アンヌ・マリー=ジャケが指名されます。

しかし、由緒ある「ボリショイ交響楽団」とはとても思えないような楽団員のハチャメチャぶりに、リハーサル早々嫌気がさしてしまうアンヌ・マリー。彼女を説得しようとしたアンドレイも冷たく突き放されてしまいます。

そんな彼らのやり取りを黙って見ていたアンヌのマネージャーのギレーヌは、一通の手紙と共に「バイオリン協奏曲」のスコアを彼女に手渡します。

ついにコンサート当日となり、不安を胸に指揮台に上がるアンドレイ。

アンヌもその傍らに立ちました。

タクトが振り上げられ演奏が始まりますが、どの楽団員も音がハチャメチャ、客席からはざわめきが起きますが、次第に演奏が熱気をおび、奇跡のコンサートへと生まれ変わるのでした──。

↓ 奇跡と感動のエンディング。ネタバレが気にならない方はぜひ。

この作品の醍醐味は、とことんデフォルメされた「ロシア人」のキャラクターにあります。

インド人のカレー好き、フランス人の浮気者、アメリカ人の脳天気、イタリア人のラテン気質、日本人=サムライ、等々。誰もがイージーに思い描く人種や国民のイメージってありますよね。

この作品では、「酒飲み」「ヘンクツ」「貪欲」「身勝手」といったロシア人のイメージがとことんデフォルメされ、洗練されたパリの劇場に土民のように上がり込んでくる様が笑いを誘います。

たとえば、「ボリショイ交響楽団御一行様」を飛行場に迎えに行って見れば、機内で酔っぱらった赤ら顔のロシア人が空き瓶片手に民謡を大合唱しながらゲートから出てくる、ホテルに着けば我先にフロントに押しかけルームキーを奪い合う、シャトレ座のマネージャーには小遣いをせびり、リハーサルそっちのけでキャビアの行商に出る、等々。ロシア的なものに興味や知識のある人が見たら、「あるある!」と吹き出しそうなエピソードのオンパレードで、西欧先進国から見ればピンボケしたような楽団員達のドタバタを見るだけでも価値あり。数ある「ロシア人おちょくりギャグ」の中でもかなり高度な部類に属するんじゃないでしょうか。

だからといって知性も品性もないわけではなく、楽器を持てばさすがロシア文化の神髄を汲むボリショイと嘆息せずにいないほど。

Amazonレビューの中には、「一度のリハーサルもせず、何十年ぶりの合奏で、あんな完璧な演奏ができるわけない」という声もありましたが、業界さんに言わせれば「プロって、そういうもの」だそうですよ。私には計りしれませんが・・。

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ドラマの主軸であるアンドレイとアンヌ・マリーの関係については、途中まで「先が読めちゃうなぁ」という感じの話運び。単純に流れだけ追っていると、「これって、よくある『実の娘(昔の恋人の忘れ形見)』ってやつ?」と思うけど、これが制作側の狙い目。

実はもっと奥の深い真実が隠されていて、それがチャイコフスキーのバイオリン協奏曲に乗って徐々に浮かび上がるんですね。

で、普通、このパターンでゆくと、お涙頂戴+怒濤のエンディングとなるんですが、この物語にはまだまだオチがあり、それが愉快痛快な元楽団員たちのリベンジとなって、最後まで笑わせてくれる。実に完成度が高いです。

「心の清涼剤」という言葉がありますが、この「オーケストラ!」はまさに心に涼風の吹く爽やかさ。

フランスってこんな映画を作る国だったかな、と見直したくなる一本です。

ちなみに原題は『Le Concert』。コンサートと協奏曲のコンチェルトを掛け合わせた題名になっています。

いわば、ブレジネフ政権時代のユダヤ人排斥でバラバラにされた楽団、家族、そして音楽家の夢が、チャイコフスキーのバイオリン協奏曲に乗って一つに紡がれ、再び美しいコンチェルトを奏でる──といった感じでしょうか。

近頃の「感動大作」には飽き飽きしちゃった──という方に強くおすすめします。

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この映画を見ていると、つくづく思うのは、「過ぎ去った時代へのノスタルジー」。たとえそれが歴史的に悲劇であっても、自分や仲間が一所懸命に生きた時代のことは忘れないし、いつでも心はそこに帰って行く──ということです。

確かに事実だけ見れば、ユダヤ人排斥の時代も、共産党が絶対的な権力をもち、粛清が行われていた時代は、誰にとっても悲劇の時代であり、ひとかけらの希望もないかもしれない。でも、そんな悲惨な時代にあっても、一人一人は夢や希望や信念をもち、幸せを信じて精一杯生きていた。もう一度、悲惨な時代に戻りたいわけではないけれど、当時の『ひたむきな気持ち』や『強い連帯感』を懐かしむ気持ちはどこの世界も共通ではないでしょうか。

もちろん、アンドレイと仲間達が音楽をいとおしむ気持ち、とりわけアンヌ・マリーへの思いはノスタルジーなどではなく、現在も進行形。決して「懐かしさ」から今回のパリ・シャトレ座公演を決行したわけではありません。

それでも、どこか、「古き佳き時代」に回帰しようとする部分が感じられて、いったい人は時代に作られるのか、あるいは時代が人に影響するのか、と、まるで「卵が先か、ニワトリが先か」みたいな問答をせずにいないのです。

あるいは、人は、時代には関係なく、どこにでも幸せを見つけ、どこからでも生き甲斐を探してくる、本当は逞しい生き物なのかもしれません。

公式サイトとトレーラー


興味のある方は、映画「オーケストラ!」公式サイトへ。

空港へのシャトルバスを予約し、前金も渡したのに、定刻を過ぎても現れないバス。
結局、数キロ離れた空港までゾロゾロ歩いてゆくハメに。
「これぞロシア」みたいな一場面。
またそこで待ち受けているロマ一族がとんでもないことを・・^_^;

オーケストラ

関連アイテム

クラシックの名曲の数々にのせて贈る、奇跡の感動作。「まるで、本物のコンサートを聴いているかのよう」。チャイコフスキー、モーツァルト、シューベルト、シューマン・・・愛すべきリベンジ楽団の大逆転に、笑って、泣いて、拍手喝采。本作には、チャイコフスキー、モーツァルトなど数々の名曲の数々が贅沢に使われている。コンサートのシーンはパリのシャトレ座の全面協力を得て撮影され、ヴァイオリン指導にはフランス国立管弦楽団の第一奏者サラ・ネムタヌ、音楽監督には多くのバレエ音楽を作曲し『サガン 悲しみよこんにちは』などを手掛けたアルマン・アマールを迎え、本物のコンサートに匹敵する迫力と感動をうみだした。

これは本当に拾いものでした。私もそこまで期待してなかったのですが、「見てよかった!」の一言に尽きます。
役者たちの楽器吹き替え演奏も迫真の演技。特に新星ヴァイオリニストを演じたメラニー・ロランが素晴らしかった。

Amazonレビューより。

2009年フランスの大ヒット映画「オーケストラ!」(原題:Le Concert)のオリジナルサントラ。劇場で観た映画はたいへん面白く、また楽曲の扱いも巧みで感心させられた。それを追体験しようというクラシック愛好家は、本作購入を真っ先に検討されるのでは。

最初に書いておくと、映画で抜粋版が使われたチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、このCDでも全長版ではなく12分強の演奏。つまり原曲の第二楽章はまるごとスキップされている。おなじく、マーラーの巨人もモーツァルトのピアノ協奏曲21番も、劇中とほぼおなじ長さで収録されている。

その三曲の演奏はブダペスト交響楽団。おなじ都市名を名前に冠するオケとしては「~祝祭管弦楽団」が著名だが、こちらは別の楽団だ。ただし演奏はひじょうに巧い。というか、映画のつくりそのままに、ツボを押さえた美味しい演奏。チャイコフスキーのソリストはSarah Nemtanuという人で、フランス国立管弦楽団の公式サイトhttp://sites.radiofrance.fr/によれば主席とのこと。ヒロインの演奏指導(演技上の)も担当されたそうだが、演奏の巧さはこのサントラでも確認できる(ただし、しつこいようですが抜粋版です)。

……とのこと。

私もヴァイオリンのソリストがすごく気になってたのですが、首席奏者ですか。納得です。

初稿:: 2012年2月8日