ウナギの味と『ウナギ屋さん』

昔、ウナギは、スーパーではなく「うなぎ屋さん」で売っていた。
白い大きな桶の中にたくさんウナギが泳いでいて、その中から活き の良いのを選ぶと、店のおじさんがその場でさばいて、調理してくれるのだ。

にゅるにゅるしたウナギが、絡み合い、突っ張りあいながら、白い桶の中で泳ぎ回っている様は、子供心に楽しくもあり、不気味で もあった。どうして大人は、こんなにゅるにゅるした生き物を好んで食べたがるのか、不思議で仕方なかった。

そうして桶に顔を突っ込むようにして、姉と二人、ウナギを眺めていると、母がその傍らで「これ、ちょうだい」とクールに言い放つ。すると店のおじさんはひょいとウナギを捕らえ、奥の調理場に連れて行くのだ。

数分後、炭火で焼かれて、茶色い蒲焼になると、
「ああ、ええ香りや。はよ家に帰って、ウナ丼しょうな」
母は上機嫌で包装された蒲焼を買い物カゴに入れる。しかし私と姉はなんともいえない複雑な気分で、母の後をそぞろ歩いた。なぜなら、それはさっきまで確かに生きて泳いでいたからだ。

それでも母が雪平鍋に容器に入ったタレをあけ、ウナギの頭を加えて煮立てると、そそるような匂いが立ち込める。ヘソの上でお腹がぐうぐう鳴り始める。そうなると、私も姉も死んだウナギのことなどすっかり忘れて、錦糸玉子を作る手伝いをしたものだ。

食卓に並んだウナ丼は、身がしっとりとして、口の中でとろけそうに甘かった。ピリっと香ばしい中にも後引くようなまろやかさがあった。

今のスーパーは何所からウナギを仕入れてくるのか知らないが、皮はゴムのように厚くて硬いし、身もボロボロして、舌触りがいまひとつだ。いつのまにウナギはこんな人工的な味がするようになったのだろうと悲しくなってしまう。
それに、パック詰めにされたものばかりで、ウナギがどんな風に泳ぎ回っているか、知らない子供もいるのではないだろうか。

今や養殖や輸入が主流で、天然のものは滅多に口に入らないと聞く。
しかし一度覚えた本物の味は、何年経っても忘れないものだ。

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