有吉京子の『SWAN』を観る(9) ~真澄とレオンの『牧神の午後』

2016年8月25日バレエ&オペラ&クラシック

言わずと知れたバレエ漫画の金字塔。地方のバレエ教室の一生徒に過ぎなかった聖真澄が、ロシアの名教師アレクセイ・ミハイロフをはじめ、数多くの強敵や天才との出会いを通して、世界を代表するバレリーナへと成長していく物語。単なるスポ根的展開にとどまらず、人生とは何か、芸術とは何かを問いかける、深く哲学的な内容に仕上がっている。バレエに興味のない人や男性が読んでも学ぶところは多い名作だ。

その名作漫画『SWAN』を読むのではなく観よう、というのが当サイトの企画です。

今、本が手元にないので、セリフなど細かいところはうろ覚えになっていますが、順を追って説明してまいります。

STORY

ルシィの『ボレロ』を通して、ほんの少しモダン・バレエへの入り口が見えてきた真澄。
バランシンのテスト演技では、レオンと『スコッチ・シンフォニー』を好演し、その可能性を十二分に見せつけたにもかかわらず、レオンの相手役はやはりマージに決定してしまいます。
しかし、その場でレオンが「真澄が相手でなければ踊りません」と公言したことから、レオンまでもチャンスを失い、これからどうなるのかと不安でいっぱいの矢先、もう一人の名振付家、ジェローム・ロビンスから、「君たちのペアに大きな可能性を見た。よければ、『牧神の午後』を踊ってみないか」とオファーを受けます。

二人は快諾したものの、モダンという新たな道をめぐって、レオンと真澄の心はすれ違うばかり。

迷う真澄に手を差し伸べようとしないレオンの冷淡な態度とは裏腹に、友人のルシィはあふれんばかりの優しさをもって彼女に寄り添います。

そんな二人はやがて恋に落ち、真澄はレオンから離れて、ルシィとパートナーを組もうとします。
しかし、ダンサーとして相性が合うのはやはりレオンであり、真澄の心は、恋のパートナーであるルシィとレオンの間で激しく揺れ動きます。

そんな真澄の葛藤に気付いたルシィは、やはりダンサーとしての真澄を大切に思う気持ちから、身をちぎられるような思いで真澄を諦め、もう一度レオンと踊るようにすすめます。

レオンとパートナーを組み直した真澄は、それまでの遅れを取り戻すように稽古に打ち込み、ついにNYの晴れ舞台で成功を収めます。

「そうしてふと横を見ると、いつもかたわらにあなたの姿を見つけるだろう……」(うら覚えです、ごめんなさい(x。x)

この時語られるレオンに対する気持ちが、物語のまさに最終章、「永遠のパートナー」の巻でリフレインされます。
今はまだその愛と信頼に気付いていないけれど、ダンサーとして、また人生の伴侶として、いつも傍らにあるのはレオンであることを真澄が予感する場面です。

原作では、レオンが真澄をリフトアップする場面が2ページ見開きで描かれていて、大変な迫力です。

ところで、ロビンスの『牧神の午後』って、どんなバレエなのでしょう。
ここでは実際のロビンスの振り付けを見てみましょう。


非常に短い動画ですが、二人の深く静かなパートナーシップがしみじみと伝わってきますね。
激しい愛の表現ではないけれど、魂の奥で結びつくような確かな絆が感じられます。
真澄とレオンの演技もこんな感じだったのでしょうね。
ライブで観てみたいものです!!

ロビンス版を全編見てみたい方は、こちらのリンクでどうぞ。
1955年の白黒映像ですが、真澄とレオンの舞台を想像しながら見ましょう。
そうすれば、なぜ有吉先生が二人の為にこの作品を選ばれたのか、分かるような気がします。
ロビンス版は、オリジナルとはかなり異なるモダンな演出ですが、牧神に対するニンフの恐れを描くのではなく、少しずつ歩み寄る二人の愛の高まりを描いているんですね。
真澄とレオンの、あの2ページ見開きのリフトのシーン「この限りない緞帳の中で(……でしたっけ?)」目に浮かぶようですね。

※こちらの動画は削除されました。
いろいろ見てみたい方は『Afternoon of a Faun』(+ ballet)で検索してみて下さい。

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こちらはヴァツラフ・ニジンスキー振り付けによるパリ・オペラ座のオリジナル版。

けだるい夏の午後、笛を吹いて気を紛らわそうとする牧神の前に、沐浴に行くニンフが通りかかります。
牧神はその美しさに引き付けられて、側に駆け寄りますが、ニンフたちは驚いて逃げ出してしまいます。
しかし、その中の一人だけが興味を示して、牧神に近づきました。
牧神は、思わず彼女を抱きしめますが、彼女もまた怯えて逃げ去ったのでした。
一人取り残された牧神は、ニンフが落としていった布をかき抱きながら、自らを慰めるのでした。


※その他の動画が見たい場合は『L’aprés midi d’un faune』で検索して下さい。

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バレエなのに、床面をベタベタと歩いたり、エジプト壁画のように動きがギクシャクとしていたり、初めて見た人は相当戸惑ったことでしょう。
極めつけは、演目の最後、ニンフが残していった布をかき抱きながら自慰に耽るという設定。
振り付けを担当した伝説のバレリーナ、ニジンスキーによって初めて上演された時は、あまりに衝撃的なエンディングにブーイングの嵐で、さすがの興行師ディアギレフも慌てたと言い伝えられています。

こちらは伝説の初演をドラマ仕立てに再現したもの。
もし本当にこのように踊られたのだとしたら、大変な騒ぎだったことは容易に想像がつきます。

『牧神の午後』に関連するCD・書籍

個人的にデュトワが好きなので、ドビュッシーもデュトワ版をお薦めします。
こちらも現代的で、爽やかに聴ける(意地悪く言えば、万人受けする)一枚です。
収録曲は、
1. 交響詩「海」
2. バレエ「遊戯」
3. 交響的断章「聖セバスティアンの殉教」
4. 牧神の午後への前奏曲

バレエ漫画に関しては、有吉先生と人気を二分する山岸涼子先生によるヴァーツラフ・ニジンスキの伝記マンガ。
天才であるがゆえの孤独、そしてあまりに哀しい最期を、山岸先生らしい深く鋭いタッチで描く名作。
いつものことだけど・・読後、胸にずしーんときます。

Photo : https://www.nycballet.com/ballets/a/afternoon-of-a-faun.aspxバレエ 牧神の午後