バレエ&オペラ&クラシック

有吉京子の『SWAN』を観る(8) ~ルシィの『ボレロ』 / ジョルジュ・ドンに捧ぐ

2010年5月1日

言わずと知れたバレエ漫画の金字塔。地方のバレエ教室の一生徒に過ぎなかった聖真澄が、ロシアの名教師アレクセイ・ミハイロフをはじめ、数多くの強敵や天才との出会いを通して、世界を代表するバレリーナへと成長していく物語。単なるスポ根的展開にとどまらず、人生とは何か、芸術とは何かを問いかける、深く哲学的な内容に仕上がっている。バレエに興味のない人や男性が読んでも学ぶところは多い名作だ。

その名作漫画『SWAN』を読むのではなく観よう、というのが当サイトの企画です。

今、本が手元にないので、セリフなど細かいところはうろ覚えになっていますが、順を追って説明してまいります。

STORY

国際バレエコンクールで、天才リリアナに迫る実力を発揮し、見事に銀賞を勝ち取った聖真澄。
彼女は、男性ソリスト部門で金賞を受賞したレオンのパートナーとして、NYに渡ります。
モダン・バレエの雄で、名振付家のジョージ・バランシンの舞台に出演する為です。

しかし、クラシックしか知らない真澄にとって、モダン・バレエは技術も感性も全く異なる世界。
バランシンのレッスンを受けるものの、身体がついてゆかず、真澄は今までにない挫折感を味わいます。
しかも、レオンの相手役は、最初からベテラン・ダンサーのマージに決まっていて、真澄はレオンの強い要望で、あくまでテストに呼び寄せられただけだと聞かされ、愕然とする真澄。

「私にはモダンは踊れない。ずっとバランシンのダンサーとして踊ってきたベテランのマージにはとても叶わない――」。
真澄は弱音を吐きますが、「そんな事は、自分で考えろ」とレオンは冷たく突き放すだけ。

そんな彼女に優しく接してくれたのが、レオンの友人で、優秀な男性ダンサーのルシィでした。
どうしてもモダンのリズムがつかめない真澄が、
「モダンは、クラシックと違って、感情表現が無いんですもの」
とつぶやくと、
モダンには感情表現が無いだって? 君はモダンをまったく理解してないよ!モダンほど自分を表現できる踊りはないのに!
ルシィは真澄を連れて、夜のバレエ・スタジオにやって来ます。

そして、モダンを理解できない彼女の前で踊ってみせるのが、モーリス・ベジャールの振り付けによる不朽の名作『ボレロ』(ラヴェル作曲)。

演技の後、「初めてこのバレエを観た時は……」と興奮気味に語られるルシィの言葉は、実際にこの舞台を生でご覧になったであろう有吉京子先生の感動と衝撃そのもので、他のエピソードにはない圧倒的な熱っぽさで描かれています。

ルシィのモデルは、言うまでもなく、モダン・バレエ史に残るカリスマ的ダンサー、ジョルジュ・ドン。
モーリス・ベジャールの分身として、その世界観をあますことなく具現化し、同性愛関係が噂されたほど強い結びつきがありました。
(ちなみに、モダン・バレエ振付家と男性ダンサーの同性愛的悲劇を描いた『ニジンスキー寓話』は、ベジャールとジョルジュ・ドンの関係がベースにされているとのことです)

特に、ベジャールの最高傑作であり、世界中の名だたるダンサーが熱望してやまない『ボレロ』は、ジョルジュ・ドンの代名詞といっても過言ではありません。

まるで宗教儀式を思わせるような円卓の舞台と、それを取り囲むダンサー。
スポットライトで徐々に照らし出される円卓のジョルジュは、まるで神託を告げる御巫のように荘厳、かつ官能的で、この世のものとは思えぬ神秘性を放っています。
このカリスマ的な演技により、ジョルジュ・ドンの名声は不動のものとなり、今もなお世界中のファンに愛され続けています。

この『ボレロ』を描きたいが為に、有吉先生は「ルシィと真澄の恋」を設定されたのではないかと思うほど、このパートには熱が入っています。
「闇から浮かび上がるダンサー」のイメージを見事に具象化し、まるでボレロのリズムが聞こえてくるかのような有吉先生の筆力にも敬服。


ジョルジュ・ドンの『ボレロ』を一躍有名にしたのが、映画『愛と哀しみのボレロ』です。
音楽家や舞踏家など、四つの家族の激動の45年間を描いた秀作で、ラストで踊られるボレロは映画史上に残る名場面と言われています。


こちらはおまけ。『海賊』のソロです。
海賊というよりは、「ユニセックスな天使」という感じ。
この世のものとは思えない造形美ですね。


§ 『ボレロ』に関するDVD・CD

モーリス・ベジャール&ジョルジュ・ドンのまさに後世に残る傑作を収めた珠玉の一枚。
ベジャール入門編としてはもちろん、ジョルジュのファンにとっても絶対に見逃せない作品。
「ボレロ」はもちろんのこと、マーラーの「アダージェット」も音楽が素晴らしい。
彼らが映像の世紀に生を受け、まさに絶頂期の踊りをこうして録画して残せたのは奇跡としか言い様がない。
1. ラヴェル:ボレロ
2. マーラー:交響曲第5番~第4楽章アダージェット
3. 交響曲第3番~第4楽章~第6楽章「愛が私に語るもの」

男性に対して「白い妖精」などという表現が適切かどうか分からないけど、そんな風に呼びたくなってしまうピュアで透明感のある演技。
ボレロでは神秘的なリードダンサーを演じたドンが、ここでは愛らしいほどにイノセントな魅力を醸し出している。


関連アイテム

露、仏、独、米で活動していた音楽家、舞踏家の4つの家族が、過酷な戦争時代を過ごしながらも踊り、演奏に身を投じた激動の45年間を綴るクロード・ルルーシュ監督によるドラマ。
45年間にわたる彼らの人生をドラマティックに描いている。
物語は1930年代のモスクワ、パリ、ベルリン、ニューヨークに始まる。4人の芸術家たちは戦争に遭遇し、過酷な戦後をも生き抜く。そして1980年、ユニセフのチャリティ・コンサートのためにパリ・トロカデロ広場に彼らは集まる。
ラスト17分における、ボレロに乗って踊るジョルジュ・ドンの躍動する肉体が圧倒的。そして苦難を乗り越えた、それぞれのエピソードの登場人物たちが一堂に会する姿は感動的とさえ言える。なおこの作品には上映時間4時間23分にわたる、さらに長尺な「完全版」も存在する。(斉藤守彦・Amazonレビューより)
この作品は通して見たことがないので、コメントのしようがないのですが・・やはりラストの『ボレロ』が圧巻です。
現在、中古で1万5千~2万円の値がついています。

私もずいぶん以前にちょろっと読んだだけなので、詳しくは覚えてないのだけれど、天才振付家モーリス・ベジャールと彼の美神であるジョルジュ・ドンとの芸術的かつ同性愛的な結びつきにインスパイアされて描かれた作品であることは確か。
物語も、天才的な青年ダンサーと振付家(確か)の葛藤を中心に描いており、ハッピーエンドの物語ではない。
『Swan』に比べてより芸術色の濃い作品なのでバレエ通向きかも。

ボレロをクラシック・ミュージックとして楽しむなら、こちらのCDがお薦め。
フランスの粋なセンスが光るデュトワ&モントリオールの演奏は、現代的で、ベタつかず、音質も抜群。
「ボレロ」の名盤はたくさんあるのだが、「亡き王女のためのパヴァーヌ」「ラ・ヴァルス」など、ラヴェルの名曲をまとめて楽しむなら、このCDは堪能できる。ラヴェルの入門編としてもおすすめ。
1. ボレロ
2. スペイン狂詩曲
3. 「ダフニスとクロエ」第2組曲
4. 亡き王女のためのパヴァーヌ
5. ラ・ヴァルス

Photo : https://www.pinterest.com/pin/77898268525349237/

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