反抗

「『金が欲しかった』だと?」 土曜の夜に、彼が息子を捕まえて問いただすと、スティーブはふてくされながら、「そうだよ」と答えた。 「何の為に?」 「父さんに関係無い」 「関係無いことはないだろう。酒場でアルバイトなんて、親に隠れてこそこそと。いつからやってたんだ?」 「……」 「いつからやってたと聞い …

 

建築と音楽

「”形”はどうやってお父さんの頭の中に生まれるの?」 「ある日、突然、結晶するんだよ」 「”結晶”?」 「そう……ニーズ、コンセプト、立地条件、周囲の景観、予算、工法……様々な材料を、頭の中の鍋釜にぶちこんで、想像力というサジでかき回しながら、朝夕かけ …

 

己の極限に挑む

「本当に好きなのねえ、ピアノが」 「『好き』なだけなら、まだいい。あの子は本気で己の極限に挑もうとしているから、質が悪い」 「もし、それを突破したら?」 「また次の壁が現れる」 「……」 「芸術は非情だよ。生涯、己の極限に挑み続けなければならない。絶えず新しいものを生み出す為に、我を離れ、精神を飛ば …

 

ピアノと天才

「何であんな奴がいるんだろう。ウォルフガング・アマデウスと同じだ。……神様に選ばれたんだよ」 スティーブは足元の土を蹴った。 「もう『至高の光』を目指すのは止めるか?」 「僕には一生かかっても、あんな風には弾けないかもしれない。弾いても、弾いても、神様は一生、僕には振り向いてくれないかもしれない。そ …

 

空への憧れ

……いうなれば、熱帯地に生きる人が、極寒地での人々の暮らしを映像や文字で知り、“大変そうだ”“寒そうだ”と感じても、所詮は遠い世界のことでしかないのと同じである。 だが、空には憧れた。どこまで行っても突き当たりの無い広がりと青い輝きに。彼が日頃目にする“空”といえば、ドーム上方の内壁に映し出された、 …

 

都市は一つの人格である

「都市は一つの人格である」 それが、彼の都市建築に対する理念だった。 優秀な集団が、独自の機能と特性を持つ“個”の密実な連携によって形成されるように、都市もまたかくあらねばならない。 個々の建物が孤立し、繁雑に密集しているだけでは、都市は生きた機能を発揮しないのだ。従来の都市は、無秩序で統制されない …