海を越えた『おむつカバー』 ネット通販に涙がこぼれた日

2004年の夏、長男を出産した。

言葉の通じない海外での出産。

しかも、施設は、トイレットペーパーも内診台のカーテンもない、昭和40年代を思わせるようなポーランドの公立病院。

陣痛の間は、廊下の隅の寝台で過ごし、お産が終わった後も、血だらけのまま放っておかれた。
分娩台はフラットな寝台で、自分で両膝を抱え込むようにして産み、会陰切開も日本のそれとは比べものにならないくらい深く、大きく、あまりの痛さに再診したら、一ヶ月は痛みで座れないのが当たり前だ、とも言われた。

授乳指導もなく、沐浴指導もなく、看護婦時代の知識と経験だけで育児を開始。

貧血でふらふらの上、会陰部の痛みで歩くこともままならず、授乳のために身体を起こすのがやっとの状態で家事もこなし、赤ちゃんのお世話もし……夫もずいぶん頑張ってくれたけど、一、二時間おきにお腹が空いては泣き叫ぶ赤ん坊を前に、いつしか夫婦の会話もなくなっていった。(お互い、あまりに疲れすぎて、話す気力もなかった)

そんな中、もっとも重く心にのしかかったのが、おむつの問題。

もちろん、紙おむつはいろんなメーカーのものが出回っており、品質も悪くない。

でも、夫の希望もあって、長男は布オムツで育てた。

その方が肌にいいからと、お互いにそれが当たり前だと思っていた。

とはいえ、オムツ専用の布を売っているわけではない。

赤ちゃんのゲップ用の綿タオルを折りたたんで使うしかなかった。

アメリカ在住の義姉さんに頂いたお下がりの布も何枚かあったが、新生児にフィットする大きさではなかった。

おむつカバーも、一種類だけ手に入れることができたが、薄いビニール製の安物で、オシッコが出ると、たちまち表にしみ出してしまう。
義姉さんから頂いたお下がりも、サイズが大きすぎて新生児には使えない上、ビニール製は蒸れるからと、夫が使うのを嫌がった。

いつもオシッコがしみだした状態で、着替えと洗濯の回数もハンパではなく、産後疲れの身体にのしかかるような辛さだった。

そうして、日本のベビーショップのサイトを覗いてみれば、当たり前のように良質なおむつカバーが売られ、「布おむつがいかに素晴らしいか」というコメントが輝いている。

悔しかった。

私だって日本に居れば、可愛いおむつカバーを買い揃えて、もっと楽しく育児出来るのに。

何度もそう思った。

その頃は、通販の海外転送サービスもそれほどメジャーではなく、そういうことを調べる時間も無かったから、オシッコが衣類にしみ出す度に、溜め息に暮れる毎日。

そのうち、紙おむつを使いたい私と、絶対的に布おむつを主張する夫の間で口論が始まり、生後一ヶ月も経つ頃には、おむつノイローゼのようになってしまった。

生後一ヶ月の子供を抱いて日本に帰ろうかと、思い詰めたこともあった。

*

そんな時、たまたま検索で引っかかったネット通販のベビーショップに、『海外発送、承ります』という一文を見かけた。

一瞬、目の錯覚かと思い、何度も何度も「発送方法」の項目を読み返したが、確かに「海外発送」と書いてある。

ショップの名前を見れば、見たことも聞いたこともない、地方のベビーショップ屋さん。

本当なの??

でも、私にとっては、その一文だけが頼りだった。
すがるような思いで新生児用のカバー4枚と、Mサイズのカバー4枚を買い物カゴに入れ、備考欄に「ポーランドですが、よろしくお願いします」と書き添えて、注文ボタンを押した。
注文は自動的に受理され、翌日には注文確認のメールが届いた。

それから1週間も経たなかったと思う。

丁寧に梱包された商品がEMS(海外エクスプレス便)で届けられた。

商品には、タイプで打たれた手紙が添えられていた。

「遠くポーランドから注文を承りましたこと、社員一同、驚きを感じると共に、当社の商品がお客様の育児のお役に立ちますことを願ってやみません」

そのような内容だった。

柔らかく、見た目も可愛いおむつカバーの感触を何度も掌に味わいながら、あまりの有り難さに涙が止まらなかった。

*

使ってみると、さすが、Made in Japan。

抜群の手触りに、見事なフィット感。

軽くて、動きを妨げないのに、漏れはがっちりガードして、衣類の湿りは全くなし。

今更ながら、日本の工業製品の、隅々まで神経の行き届いたデザインと高度な技術に感嘆せずにいなかった。

そうして、私のおむつ問題は一挙に解決し、息子のお尻に可愛くフィットしたカバーを眺めては、「よかったねぇ」と我知らずつぶやく毎日。

と、同時に、こんな東欧の僻地まで丁寧に商品を届けて下さり、しかもお手紙まで添えて下さったショップの担当さんの心配りが、痛いほど胸にしみた。

*

これが日本なんだ。

世界有数の工業国に発展を遂げた真髄がここにあるんだよ、と。

いつか息子に語れる日が来ればと思う。

売り手と買い手がが顔を合わせることのないネット通販にも『心』はある。

それをつくづく実感した、ネット・ショッピングだった。

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