ウミガメ

6-4 何度でもこの人生を生きたいと思う『永遠の環』

2016年9月10日

潜水艇から出た二人は西日の輝くヘリポートに足を運ぶ。
「西に西に飛び続ければ、一巡りしてまた元の場所に戻ってくる。果てしないように見えて、全ては一つに結ばれている。Ring der Ewigkeit ――『永遠の環(The Ring of Eternity)』みたいに。沈む夕陽も海の向こうでは朝日になる。この世に終わりも始まりもなく、すべてのものは形を変えながら永遠に廻るという意味だ」
と教えるヴァルター。

「父はいつも言ってたよ。どんなに辛く、悲しくとも、何度でもこの人生を生きたいと願う――『これが生なのか、よし、それならもう一度』と心の底から思えた時、本当の意味であらゆるものから自由になり、魂の幸福を得ると。だが、俺にはよく解らない。『よし、もう一度』なんて到底思えないし、なぜそれが心を自由にし、魂に幸福をもたらすかも。俺に解るのは一つだけ、沈む夕陽も海の向こうでは朝日になるということだけだ」

それから、互いの気持ちを確かめ、 「いつか、お互いに心の底から好きだと思えるようになったら、その時、もう一度、恋人同士のキスをしよう」と約束する。

「今、君は俺の気持ちに拘っているけれど、君自身は今ここで俺に『愛してる』と確信もって言えるかい? 心の底から、偽りなく」
「……それは……」
「だったら俺も同じだ。心から愛してないのはお互いさま、君も傷ついたかもしれないが、俺も君に心底から愛されているとは思わない。親切心は本物だろうけどね」
 だとしても、一方的に奪われて、傷ついた気持ちはどうなるのだ?
 それもお互いさまと納得するしかないのだろうか。
「あなたの言う通り、『愛がない』というなら私も同じでしょう。だけど、あんな風にされたら、女性は期待してしまうわ。中途半端に興味を持たれるぐらいなら、永久に無視された方がいい。自分に理屈で言い聞かせられるほど、私も大人じゃない……」

一方、ヘリポートの語らいはコントロールルームからも丸見えで、ダグにも嫌みを言われる。

「本当にプラットフォームの構造を理解してるなら、ヘリポートが管制室や応接室から丸見えだってことぐらい、すぐに分かるはずだ。それに気付かないということは、全体を見てない証拠だ」
「娘が行方知れずになれば、誰でも真っ先に管制室に行く。プラットフォームの中が一目瞭然だからな」
「そうだろうよ。だが、ミッションに関しては誰もが切実だ。お前みたいに自分の沽券と虚勢で動いてるわけじゃない。一体、どれだけの人間が採鉱システムに携わっているか、正面から見た事があるのか」
「だからこそ慎重に考えている」
「見ているのは自分の周囲三メートルだけだろ。お前、ここに来てから一度でも機関部や管制室を覗いたことがあるか? ブロディ船長もオリガも、一度もお前からミッションについて質問されたことは無いと言っていた。食堂で顔を合わせても、他人の振りで通り過ぎるってな。プロテウスとオペレーションルームだけでミッションが完結するわけじゃあるまいし、お前、ちっとは全体ってものを考えたらどうだ。調査船ではそれで通ったかもしれないが、ここはそれよりもっと大きいプラットフォームだぞ」

そんな中、ミセス・マードックがヴァルターに優しく諭す。

「彼らも技術的なプロジェクトをマネジメントする力はあるけど、収支計算、コスト管理、人員の再配置、関連企業との連携など、経営面では弱いわ。そして、そのことは彼ら自身が一番よく知っている。採鉱事業が本格化して、いっそう数字が求められるようになれば、経営に長けたゼネラル・マネージャーが必要になるでしょう。そうなれば、自分たちが真っ先にお払い箱になることを本気で心配してるのよ。にもかかわらず、あなたは主任会議の直後に美人のお嬢さんとヘリポートでデートでしょう。事情を知らない者が見れば、『何をやってるんだ』と思うわよ。主人も若いオペレーターも、いちいち口に出して言わないだけで、内心では大変なプレッシャーを感じているから」
「みなジム・レビンソンの悪口を言うけれど、やはりプロジェクトの要には違いないのよ。採鉱システムの構造から水中作業の行程まで、全部そらで言えるのは、レビンソンとうちの主人ぐらいだもの。そんな人を欠いて平気なはずがない。そんな中、プロテウスを使うの、使わないの、テスト潜航がどうこうと根源的な問題で振り回されて、末端のスタッフにしてみたら『いい加減にしてくれ』と思うわよ。もちろん、それはあなた一人のせいではなく、足並みを揃えることができない主任クラスの責任なのだけど」
「でも、あなた方は仕方ないでしょう。突然、プロジェクトリーダーがなくなるという事態に直面したのですし」
「それは理由にならないわよ。小さなグループワークならともかく、これほど大きなプロジェクトになれば、いつ何が起きてもおかしくない。計画書通り完璧に運ぶ方が珍しいでしょう。重要な任にある人が突然病に倒れたり、月末には納品されるはずの物資が先方の都合で何週間も先延ばしされたり、関連省庁の担当が変わった途端、あれもダメ、これもダメと突っぱねられて手こずったり。こちらがどれほど綿密な計画を練って、万全の体勢で臨んでも、思わぬ外部の要因に足を引っ張られるのが当たり前。その度に右往左往していては、とてもじゃないけどプロジェクトの指揮などできない。レビンソンの拳も想定外には違いないけど、それでも予定通り完遂するのが主任クラスの責務よ。仮に、大統領が急死しても、国政は閣僚の手で明日も滞りなく運ぶようにね」
「あなたも一度、頭を真っ新にしてみない? ダグやガーフの言動には怒りを禁じ得ないでしょうけど、それでもやらねばならぬ。どんな状況でも完遂するのがプロだと思うわ。サッカーを御覧なさいよ、しょっちゅう仲間割れや契約金で揉めてるけど、勝つ時は勝つでしょう」

彼もまた見方を改め、自分からスタッフに溶け込む努力を始める……。

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Product Notes

潜水艇のパイロットも狭き門だと思います。(軍隊の潜水艦は除く)
なり手は少ないだろうけど、若い人には目指して欲しいですよね♪

↓ これはアメリカ・ウッズホール海洋研究所の『Alvin』です。1986年にタイタニック号の潜水調査を行ったので有名ですね。
潜水艇 アルヴィン
Photo : http://henryhill2.com/Portfolio.Technical.04.html

アルヴィンの内部。

Alvin 潜水艇
Photo : https://goo.gl/GowTKt

alvin 潜水艇
Photo : https://goo.gl/hFMl6y

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