6-2 大学生とリーダーの決断 娘も経営も思うに任せぬもの

アルとMIGの重役、そしてリズは、視察のため、採鉱プラットフォームに向かう。
だが、洋上のリズの表情は冴えない。先日の出来事が彼女の心を曇らせていた。
そんな娘の様子をアルは注意深く観察し、あの男をどうしたものか思い巡らせる。

 あの人も随分手慣れた感じで、どこに真心があるのかも分からない。
 恋人は何人くらいいたのだろう。
 彼と付き合った女性はみな幸せだったのか。
 いろんな疑念が浮かんでは消え、彼女をひどく不安にさせた。
 だが一方で、彼を信じたい気持ちもある。
 彼女の動揺に気付くと、彼は心から謝り、慰めようとしてくれた。父が彼女を呼ばなければ、気持ちが落ち着くまで抱きしめてくれただろう。
 もっとも、それは愚かな期待で、彼の方はなんとも思ってないかもしれない。 だけども、忘れられない。
 あの男、マストに吊せるものなら吊してやりたい。
 ただ娘の様子を見る限り、一方的に傷つけられた訳でもなさそうだ。
 ゆえにアルも黙って様子を見ているのだが、どこまで許していいものか。
 再びアルが娘を見やると、娘はじっと窓の外に顔を向けたまま、祈るように海を見詰めている。
 それが恋であれ、好意であれ、これ以上、娘を惑わすことは許さない。
 仕事に私情を持ち込まぬのは鉄則だが、こと娘のことになると、アルでさえ判断の切っ先が鈍るようだ。

一方、ヴァルターはプロテウスの整備をしながらも、リズに対する周囲の反応が気になって仕方ない。
やきもきしながら仕事をしていると、へんちくりんな格好をした大学生が目の前に現れる。
それが接続ミッションでパートナーを務めるという、エイドリアンだった。

「本気で接続ミッションを請け負うつもりなんですか」
 エイドリアンが憮然と言った。
「俺が請け負うことに何か問題でも?」
「心配なんです。あなたみたいな人と潜るのが」
「心配というなら、俺も同様だ。学生アルバイトに操縦のアシストできるとは到底思えない」
「僕は十五歳の時からプロジェクト・リーダーのジム・レビンソンさんに付いてプロテウスに同乗してました。テスト採鉱も三度経験して、三度とも接続作業を成功させています。もっとも七割はレビンソンさんの手によりますけど、それでもあなたより実際を知っているつもりです。機械の操作にも慣れています」
「そりゃあ優秀だな。だがプロテウスの操縦はクルージングボートとは違う。メガヨットもお前が乗って来たんだろう。プラットフォームの船着き場はマリーナのバースとは訳が違う。お前も、お前の仲間も、遠洋の怖さが分かってないんじゃないか」
「僕が操船したんじゃありません。それにちゃんとブロディ航海士に接舷の許可も頂いています」
「平日の昼間からメガヨットで遊び回るボンボン集団に頼まれたら嫌とは言えないさ」
「皆が皆、遊び回っていると決め付けないでで下さい。僕は仕事で来たんです」

カンファレンスではプロテウスのテスト潜航をめぐって議論がなされる。
アルはヴァルターの立場に同情しながらも、最後はリーダーとしての立場を貫く。

「レビンソンに替わって新しいパイロットに接続ミッションを任せることにしたが、パイロットいわく『テスト潜航』が必要だという。その理由について、主任会議の議事録を参照し、二、三の部署長から話を聞いたが、いまひとつ説得力に欠けるというのがわしの率直な意見だ。その点について、どう思うね」
 誰も口を開かず、アルがヴァルターに意見を求めると、ヴァルターは先の主任会議で主張した事をもう一度繰り返し、テスト潜航の必要性を説いた。
 アルは黙って聞いていたが、
「では、もしお前の予想に反する結果に終わったら、どう始末をつけるのかね」
と鋭い口調で切り返した。
「お前は『テスト潜航することで、新たな発見がある』と主張するが、めぼしいものは見つからず、人手と経費の無駄遣いに終わったら、どう埋め合わせするつもりかと聞いているんだ」
「それは……」
 彼が口ごもると、アルは皆の顔を見回し、
「もう一度、単刀直入に聞こう。現段階の技術力で絶対的にテスト潜航が必要だと同意する者は挙手してもらいたい」
「テスト潜航したいお前の気持ちも分かる。それなりに意義が有ることも理解しているつもりだ。だが、わしは、レビンソンの件も含めて、ダグとガーフには非常に厳しい態度を取っている。先月、これ以上、経費の無駄遣いをするなら降格も厭わないと道破したのも本当だ。わしの考えを言えば、本採鉱の接続ミッションは予定通りプロテウスを使ってもらいたい。だが、どうしても操作に自信がない、テストしなければ潜れないというなら、無人機に任すか、エイドリアンに主要な操作を替わってもらえ。当日、お前がプロテウスに乗らなくても解雇するようなことはない。甲板作業を手伝えば十分だ。己のプライドか、全体の利益か、どちらが大事かよく考えろ」
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Product Notes

作中のプラットフォームは割と短期間にローテーションが組まれていますが、現存のオイルリグでは何週間、何ヶ月、ぶっ通しで滞在するのが一般的。
今はITも発達して、家族や有人といつでもオンラインで話せるので、昔ほど疎外感は無いと思いますが、それでもストレスは溜まるでしょうね。

プラットフォーム
Photo : http://www.mirror.co.uk/news/uk-news/oasis-singing-oil-rig-workers-6617150

女性も洋上プラットフォームで当たり前のように勤務できるのが成熟した職場(社会)の証ではないかと。
プラットフォーム
Photo : https://goo.gl/uSxSXj

日本では石油リグの仕事はありませんが、欧州やアメリカに行けば、石油リグの求人はたくさんあります。半年近く拘束され、激務だと思いますが、特殊技能は身につくし、遊び歩いて散財することもないし、独り者にはおすすめかも。

ちなみに、作中のプラットフォームの従業員は、事務や経理=アステリア・エンタープライズ社、技術職=MIGエンジニアリング社、MIGインダストリアル社と、職務によって所属が異なります。

石油リグ プラットフォーム 求人

ちなみにサラリーは、なかなかいいですよ。

実質六ヶ月間の勤務(=拘束)で、平均、約4万5千ドル。
オフの時は副業すればいいし。

The offshore vacancies are mainly for roughneck and roustabout jobs. The offshore job pays are actually for 6 months work – the rest of the time is in on-shore breaks and the entry level salaries start from around $45,000.

オペレーターになれば、さらに給料アップ。

– A crane operator usually gets a salary of $68,000
– An Assistant Crane Operator usually gets a salary of $61,000

詳しくは、http://www.joboilrig.com/oil-rig-job-vacancies/をご参照下さい。

ウォールのPhoto : https://texaslimey.com/2015/12/26/memory-number-forty-seven/

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