ウミガメ

6-11 破砕機と集鉱機の降下と水中の接続作業

2016年9月10日

十月十五日の接続ミッションにさきがけ、破砕機と集鉱機の海中降下、および水中でのケーブル接続作業が行われる。

 清々しい朝日が立ち上る中、全長八メートル、高さ三・八メートル、幅四メートルのビートル型破砕機が甲板東端のAフレームクレーンまで搬出されると、数人のオペレーターが作業台や梯子を使って、機体上部の真ん中に直径四センチの金属製パワーケーブルを固定する作業を始めた。
 それと同時に、機体の数カ所にクレーンの巻上げ用ワイヤーロープを固定する。
 全ての取り付け作業が完了し、安全が確認されると、運転台に合図が送られた。
 クレーン脇の運転台では熟練のオペレーターが慎重にコントローラーを操作し、ゆっくりとAフレームを海側に回転させる。次いで、全長八メートルの破砕機が海上に降り出され、機体のバランスを保ったまま海面に着水すると、白い水しぶきを上げながら海中に降下を始めた。重機の降下と共にウィンチも回転を始め、完全な制御下で徐々にロープを繰り出してゆく。
 作業の模様は、タワーデリックのオペレーションルームとブリッジの管制室でモニタリングされ、映像はエンタープライズ社の採鉱事業部にもイントラネットで中継される。
 ヴォージャは縦八〇センチ、横五〇センチ、高さ六〇センチで、高性能の水中カメラと小回りの利く二本のマニピュレーターーを備えている。今回の任務は深海の状況を把握し、破砕機が海底に着底したら、Aフレームクレーンの金属製パワーケーブルを操縦用のアンビリカブルケーブルに付け替えることだ。
『ヴォージャ』のオペレーションを担当するマルセルはオペレーション・リーダーのノエ・ラルーシュとメインコントローラーに付き、計器の状態を確認する。ライト、カメラ、マニピュレーター、電気系統、油圧システム、すべて正常と判断されると、ムーンプールのチームに合図を送り、降下を開始する。
『ヴォージャ』を繋ぐアンビリカブルケーブルも全長三〇〇〇メートルだ。
 高さ三メートルに及ぶケーブルストアウィンチ、ドラムケーブルエンジン、エンジン制御室は下層レベルのマイナス1からマイナス2にかけて設置されている。
 エンジン制御室の操作により、『ヴォージャ』の降下が始まると、水中カメラの視界もあっという間に闇に包まれ、一分間に平均三〇メートルから四〇メートルの速さで破砕機を追いかける。順調に進めば一時間四〇分ほどで水深三〇〇〇メートルに達する予定だ。
 マードックは破砕機の操縦担当者と連係を取りながらカブトムシのようなカッターヘッドを持ち上げ、前後左右に旋回させた。動作に異常は無く、遠隔システムも円滑に作動している。
 次にカッターヘッドを下げ、クラストを実際に削ってみる。
 長さ五〇センチの鋭いピットが一面に取り付けられた球状の二つのヘッドを回転させながら、鉱物の皮のように基礎岩を覆うクラストを削り取っていく。
 たちまち微細な堆積物が砂煙のように巻き上がり、ヴォージャのハイビジョンカメラは埃を被ったように視界が遮られた。代わりに至近距離から高分解能の水中音響カメラで海底面の様子を撮影し、リアルタイムで分析したデータ画像を見てみると、クラストが細かく砕かれ、ローラーで均したように破砕機の通り道に堆積している。
 だが、商業的に価値のあるクラストだけがきれいに削られているかどうかは、海上に引き上げてみないと分からない。クラストと一緒に無駄な基礎岩まで大量に吸い上げ、収益より運営コストの方が嵩張るようでは到底採鉱事業として成り立たないからだ。その評価に少なくとも数ヶ月から一年は掛かるし、市場の反応も含めれば、それ以上の歳月を要する。プラットフォームに『数字に強いゼネラルマネージャー』が必要なのはその為で、ダグやガーフィールドが今度の身の振り方について覚悟を据えなければならない所以でもあった。

全行程は滞りなく進み、前のプロジェクト・リーダー、ジム・レビンソンが指揮した時のテスト時に比べたら、オペレーターの動きもスムーズだ。
マードックはそれらの要因を『運』という言葉で表わす。

「言葉は悪いが、レビンソンがいなくなって運が向いたということ?」

「スポーツでも、ビジネスでも、『運か実力か』という話になるだろう。運と言えば人間の努力など何の意味も無いみたいだし、逆に実力だけでは説明のつかない部分もある。僕だって『採鉱システムに成功した秘訣は何ですか』と訊かれたら、「努力半分、運半分」と答えるよ。今日が好天に恵まれたのも運なら、今ここにレビンソンではなくお前が居ることも運に違いない。――つまり、そういうこと――どんな事も自分一人の努力では成り立たないし、ある部分は運に左右される。その不可思議を謙虚に受け入れることで、機知や忍耐力も磨かれる。でないと、万一失敗した時、自責の念に押し潰されるし、逆に成功すれば天狗になるだろう。努力半分、運半分と大きく構えることで、自分も周りも追い詰めることなく、いつかは成功のチャンスを掴めると理事長は教えたいのだろう」

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Product Notes

こちらが実際に水深3000メートルに無人機を海中降下する様子です。
本作に登場する集鉱機や採鉱機は7メートルから9メートルの大きさで、パワークレーンを使いますが、有策無人機の降下はこんな感じです。

一般的な無人機のウィンチ。
水深数千メートルまで到達するような規模だと、ウィンチの大きさも大人の身長の何倍にもなります。

ケーブル ウィンチ 無人機
Photo : https://www.shgroup.dk/systems-products/winches/rov-winches.html

無人機 ROV ケーブル ウィンチ
Photo : https://goo.gl/QRjemy

実際に日本で運用されている『かいこう』のパンフレットが参考になると思います。
興味のある方はぜひ。
http://www.godac.jamstec.go.jp/catalog/data/doc_catalog/media/be_sp-kairei_all.pdf

かいこう 海洋調査船

無人機の海中作業のオペレーションの一例です。

ウォールの写真
Photo : http://www.oceaneering.com/rovs/top-10-rov-questions/

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