ローランド島

10-3 建築と社会とCivilization

2016年10月11日
ローランド島

マックスとエヴァの招きでローランド島を訪れたヴァルターは、ローレンシア島とは異なる華やかな町並みに感嘆する。
しかし、島面積の大半が山地で占められ、用地不足は深刻だ。
公営の集合住宅に入りきれない人が、安全性の確立されていない水上ハウスに住んでいる事を知り、ショックを受ける。

「水上ハウスって、小型船舶を改装したもの?」
「たとえるなら『水上の箱物』ね。工場で生産されたムーバブルハウスを丸ごと沿岸に運んで桟橋で連結するの。海洋リゾートも裏に回ればそんな光景がごろごろしてるわ。私たちは沿岸のタウンハウスに住んでるけど、短期で出稼ぎに来ている人や、金銭的に余裕のない層はたいてい水上ハウスに住んでいるわ。もちろん『水上ハウス、イコール底辺』というわけじゃないけど、住環境としては欠点も多いわね。子供や身体の不自由な人、高齢者には桟橋は危険だし、海水による腐食や浸水の恐れもあるわ。雨天時には水位も上昇するし、何年も経てば数センチから数十センチは杭ごと海底に沈下する。火事や倒壊に見舞われたら、脱出できずに命を落とす人もあるでしょう。陸地の住居の方が絶対安全というわけではないけど、危険性は水上ハウスの方がはるかに高いでしょうね」
「改善の余地はないのかい?」
「難しいわね」エヴァは息を吐いた。「ローランド島はキュウリみたいに細長い上、八割が山岳でしょう。道路の敷設だけで莫大なコストがかかるし、造成地に向かない箇所も多いわ。にもかかわらず、インフラの整った用地や見晴らしの良い一等地はオフィスや観光、高級住宅に優先されて、一般向けの住宅地は後回し。ローランド島には現在、一時雇いの労働者も含めて三万二千人が居住してるけど、永住者はたったの三割、大半は企業関係の短期滞在者や長期出張者とその家族で仮住まいだから、行政も雇用者も定住を目的とした一般居住地の整備に本腰を入れないのよ。仮住まいの人たちも『二、三年のことだから』と問題視しないしね。でも、アステリアの海洋開発が進めば、ここに永住する人も増えるわけだから、今のままでいいはずがない」
「じゃあ、現在開発中の住宅地というのは……?」
「大半が高級住宅の分譲地よ。もっとも、そこに本当に住宅が建つかどうかは不明だけど」
「どういうこと」
「土地だけ買うのよ。投機目的で。これから土地価はまだまだ上昇するから、今がお買い得というわけ。その上、アステリアは経済特区で様々な優遇制度があるからね。通常、トリヴィアの市民権を持たない者が領内の土地を購入するには不動産取得の制限があるけど、ローランド島はハードルが低いの。不動産の仲介手数料は無料だし、税金も安い。自分が住まなくても、商業物件として人に貸し出すことも可能だし、購入から一年以内に建築着工の義務もない。買うだけ買って遊びが利くから、トリヴィア外部からの投資も非常に多いのね。用地だけが次々に転売される現象も起きているわ。本当に住まいが必要な庶民は住宅不足で困窮してるのに」

マックスは商業複合施設『ハーバーランド』の建設に従事している。
仕事場を訪れたヴァルターは施工監理に興味を示す。

「施工管理の仕事は面白い?」
「面白いとか、面白くないとかの問題じゃない、『やらねばならぬ』の世界だ。一つ一つに莫大な金が掛かってる。設計と違って、いったん施工したものはやり直しが利かないからな。ひと度現場を任されたら図面通りに仕上げるだけだ」
「どうしてこの仕事を?」
「単純な話さ。オレが子供の頃、街の裏手に広大な裸地があった。サッカー場が幾つも作れるほどの空き地だ。それが土地開発の対象になり、あっという間に集合住宅やショッピングセンターが建てられた。わずか数年の間に一五〇〇人が移り住み、一つの町が生まれたんだ。その様をつぶさに見ながら思った。これこそまさにcivilization(シビリゼーシヨン)だと。これほど大きなプロジェクトを誰がどんな風に管理するかにも興味が湧いた。十五になったら、ほとんど迷わずにその道を行ったよ。まるでブルドーザーに導かれるみたいに」
「これだけの規模の建設現場を一元管理するのは大変だろうな」
「馴れたらそうでもない。他の業種と一緒だ。管理部長がいて、各部署の責任者がいて、それぞれが持ち場を指揮しながら縦横の連携を図る。それに今は『CoManager』という高機能な施工管理システムがあるから、たいがいのことはオンラインで解決できる。各部の工程表や進行状況、建設コスト、稼働中の重機や作業員数などがリアルタイムで表示されるので、いちいち現場に問い合わせなくても、パソコン一台で全体の状況が把握できるんだ」
「なるほど」
「それに設計図の変更や細かい部分の修正も、各自が所有するPCやタブレット端末で同時に確認できるし、オンラインでの共同編集やミーティングも可能だ。昔に比べれば信じられないほどマネージメントシステムが進歩している。唯一コントロールできないのは天候ぐらいだ。雨が降ったら、ひたすら止むのを待つしかない。まあ、そこいらが人間の限界というやつさ」

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Product Notes

私が「建築」や「土木業」に興味を持ったのは、『談合』のニュースがきっかけです。

80年代、バブルで景気がよかった頃、『談合』という言葉を聞かない日はありませんでした。
それも平成のように、五億、十億などという半端な金額ではなく、数百億単位だったように記憶しています。

「だんご三兄弟」の歌が、「談合三兄弟」=ヤクザ・政治家・ゼネコン に聞こえたほど。

ローランド島   ローランド島

一方で、当時は、安藤忠雄さんが人気で、「コンクリート打ちっ放し」の建物が続々と登場しました。

代表作の「姫路・文学館」
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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Himeji_City_Museum_of_Literature03s3200.jpg#/media/File:Himeji_City_Museum_of_Literature03s3200.jpg

そして、私が一時期、住んでいたアパートも「コンクリート打ちっ放し」だったのですが、「ローカルな建築賞をとった」という割には、住み心地は最悪。見た目はモダンだけど、刑務所みたいな部屋の作りで、これが建築賞? と奇異に感じたものです。

絵や音楽と違って、駄作でも町中に永久に残るわけですから、ダメ建築は芸術の中では一番罪深い。

だからこそ、本当は一番真剣に論じるべきはずなのに(巨額の予算も動くので)、国民も鈍感になって(審美眼においても、社会正義においても)、何事も「なあなあ」で煙に巻かれているような気がする今日この頃です。

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