ローランド島

10-1 愛と疑いは一緒に居られない 『エロスとプシュケの寓話』より

2016年10月10日
ローランド島

ヴァルターはローランド島に暮らすマックスとエヴァに再会する。
エヴァは彼を一途に思い詰めるリズの心中を察し、『恋』と『愛』の違いを説いて聞かせる。

「あの、ご主人とはどんな風に……?」
「マックスと知り合ったのは三十三歳の時よ。私は高級住宅を手がけるデザイン事務所に務めていて、マックスはサンパシフィック社の現場主任だった。オーストラリアに居た頃、有名女優の別荘の設計を手掛けたことがあってね。私にとって名誉な案件だったわ。ところが引き渡しの段階になって『イメージと違う』と文句を言い出してね。リビングの壁の色が白すぎるとか、寝室に波の音が響きすぎるとか。光や風の加減で印象が変わると、打ち合わせの段階で納得済みだったのに、いざ実物を前にしたら、あれも気に入らない、これも気に入らないのオンパレード。私のオフィスに直接文句を言いに来て大変な騒ぎになったの。その時、力になってくれたのがマックスよ。最初、ヘルメットに作業着姿でオフィスに現れた時は、埃をかぶったテディベアみたいで全然タイプじゃなかったんだけど、一緒にクレーム対応に当たるうちに、人間の大きさに惹かれるようになったね。――プロポーズされたのは三度目のデートの時よ。突然、『オレと結婚してくれ』とか言い出すの。私、ビールを吹きそうになって、『お互いのことをよく知りもしないのに、ふざけないで』と怒ったわ。するとマックスが真顔で言ったの。『君がどんな人間かは君のデザインを見れば分かる』。その一言で私も落ちちゃった。それから建築のこと、仕事のこと、人生のこと、いろいろ語り合ううちに確信したの。この人となら手応えのある人生を生きられると。まあ理想の王子様とはいかないけど、今は甘い囁きより三度の食事、家に帰っても仕事、仕事で、夫婦というより戦友という感じだけど、私のパートナーはマックス以外に考えられない。私たち重戦車隊の同志なのよ」
「想いが深すぎるのよ。お嬢さんはきっと誰よりも情感豊かで、心優しい方だと思うの。それだけに、一度誰かに恋をしたら、どっと想いがあふれてコントロールできなくなるの。彼のことが好きで、好きで、たまらない、どんな事をしてもこの人と一緒になって幸せになりたい、それこそ朝から晩まで彼のことばかり考えてるんじゃない? 仕事の時も、お風呂の時も、何をしていても」
「克服しようとしてるんです。心の底から信じよう、強くなろうって。でも時々、どうしようもなく不安で、嫌なことばかり考えて……」
「分かるわ。私も同じだった。いつも不安で、愛される自信がなくて、いつ嫌われ、捨てられるかと、びくびくしてた。あの時のことは、今でも思い出すと胸が苦しくなるくらほど。本当に最悪の恋愛だった」

エヴァはリズの思いを「恋しているだけ」と指摘する。

「たとえば、あなたの思い描く幸福は、彼があなたと結婚してここに定住し、名実ともにお父さまの右腕になることじゃない? ――咎めてるんじゃないのよ。私があなたの立場でも、きっとそう望むわ。だけど、彼の願いはそうでなかったとしたら? それでもあなたは彼を応援することができる? たとえば、彼がステラマリスで大きな仕事のチャンスを得て、いよいよ故郷に帰るとなった時、それを心から祝福できるかということよ。あるいは迷わず彼に付いて行くか」
「……」
「厳しいことを言うようだけど、あなたはそれを肯定できるようにならないと、自分で幸せを壊してしまうような気がするの。どんなことをしても彼を自分の元に引き留めようとして、彼が嫌がるような振る舞いをしてしまうの」

エヴァは『エロスとプシュケの寓話』になぞらえ、愛と信用の大切さを説く。

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Product Notes

『エロス(クピ
ド)とプシュケの寓話』はギリシャ神話の中でも有名なエピソードなので、興味のある方はぜひご一読下さい。

二人の姉に「お前の夫は怪物だ」と吹き込まれ、不安に耐えきれずに夫の姿を見てしまうプシュケ。

彼のことは信じたいけれど、「本当は愛されてないのかも」「他に交際している女性がいるのではないか」などの不安から、彼のスマホを覗いたり、上着のポケットを探ったりしてしまう行為と同じですね。

疑えば愛は消え、愛すれば疑いは消える。

ギリシャ神話の時代から、女性は不安や疑念に苦しんできたのかもしれません(また、それに振り回される男性も)。

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Photo : http://greekmythology.wikia.com/wiki/Cupid_And_Psyche:Detailed_Version

自分の過ちに気付いたプシュケは、恋しい夫の姿を求めて彷徨しますが、エロスの母、アフロディーテ(ヴィーナス)は、自分の息子を傷つけられたことに激怒し、プシュケに無理難題を命じます。

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愛の試練に打ち克ったプシュケは、再びエロスの愛を得て、神々の仲間に迎えれられます。
二人には可愛い娘が生まれ「悦び」と名付けられます。

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