9-4 誰がローマの設計図を描くか ~社会の未来図

ヴァルターは区政センターの産業労働部のマルーフを訪ね、拡大する社会に対し、システムや権限が追いついてない現実を知る。
問題は「誰がローマの設計図を描くか」だと。

「自治権獲得の動きにはならないのですか」
「みなそう言うが、トリヴィアから分離独立し、自治権を獲得したからといって、一気に問題が解決するわけじゃない。財政も、産業も、人材育成も、学校運営さえも、あらゆる面でトリヴィア政府の財政支援に頼ってる。いきなり臍の緒を引きちぎるような真似をすれば、困るのは自分たちだ。それよりは徐々に自由裁量を勝ち取った方がいい。持ちつ持たれつで、少しずつ自立の道を行く」
「それは分かります」
「まさに『ローマは一日にして成らず』さ。問題は誰がローマのビジョンを描くかだ」
「ローマのビジョン――ですか?」
「ローレンシア島はともかく、ローランド島みたいに場当たり的に発展している所は、右肩上がりで湧いている時はいいが、いったん景気に陰りが差すと、皆の不満や問題が一気に噴出して収拾がつかなくなることが多い。もうパイの残りは少ないのに、順調な時と同じように利益を得ようとするからだ。たとえは悪いが、同じどん底でも、火事で焼け野原になった町を官民一丸となって復興するのと、困窮した町で生き残りをかけて共食いするのではパワーが違う。ローレンシア島もそうだ。開発初期のひたむきなエネルギーも確固たる未来図があればこそだよ」
「それで君の提案する海洋情報ネットワークだが、コンセプトは概ね賛成だよ。オープンデータを通して、内外の人がアステリアに興味を持つことは非常に重要だ。現時点では、区政センターの公式サイトをはじめ、産業振興協会や海洋産業研究会のホームページでも詳しく紹介しているが、質量ともにまだまだ十分とは言えない。君が提案するように、誰でも手軽にアクセスできる多目的オープンデータサービスがあれば、産業のみならず、行政、学術、市民生活、あらゆる面で効果が期待できるだろう。だが、それには海洋情報の取り扱いに関する法的整備が必要だし、どこまでが商用利用が可能か見極める必要もある。データシステムを作って情報を登録するのは簡単だが、産官学が連携して公共財として活用するのはなかなかハードルが高いよ。それでなくてもトリヴィアとアステリア間では意思の疎通が難しい。そこに企業や学術団体や行政機関や、諸々の思惑が絡めば、それを調整するだけでも大変だろう」

「……そうでしょうね」

「マクダエル理事長みたいに強力なリーダーシップと人間的魅力を兼ね備えた人物は希有だ。かといって、スーパーヒーローが『俺について来い』で統率できる時代も長くは続かない。一つ手で束ねるには大きく広がりすぎたんだ。これからは新しい指針や目標が必要になる。だからといって、十万、二十万と膨張するものを一様に納得させるのは容易ではない。ところで、海洋情報ネットワークだが、どうやってアイデアを形にするつもりかね」

一方で、段取りの甘さを指摘され、いろんな意味でハードルが高いことを思い知らされる。

リズは父と一緒に産業振興会の会食に出掛けるが、職場の女性たちに比べ、決まった仕事もなく、役割もなく、飾り人形みたいに微笑むだけの自身に劣等感を抱く。

「お前も会社の女性たちのように働きたがっているが、お前にはお前にふさわしい役回りがある。それはもしかしたら、彼女たちの任務よりもっとデリケートで世知を必要とするかもしれない。きびきび業務がこなせるからといって、誰が上等、誰が劣るの話じゃないんだよ。そんな事を言い出せば、お前のお母さんはどうなる? 生まれた時からずっと他人の介助なしに道も歩けず、交通事故に遭ってからは大半を車椅子で過ごしていた。でも、こんな身体だからこそ私は勉強に集中できる、その知力をラテン語に注いでいるだけのことです、と明るい口調で話してくれた。同年代の女性のように旅行を楽しんだり、働きに出られないからといって一度も自分を卑下したことはないよ」

いつか恋人の関心を失うのではないかと不安がる娘に、アルは一つの考え方を説いて聞かせる。

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Product Notes

「年齢の枠を越えて、いきいき働かねばならない」「恋も仕事もお洒落も楽しまなければいけない」「愛される女性でなければならない」etc

女性自身が「こうあるべき」と思い込んでいる部分は大きいですよね。

でも、こんな風でいいのだと思いますよ。いわゆる美女の規定からは外れているかもしれないけれど、みな、生き生きと楽しそうじゃないですか。

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