ミッション開始

5-9 海中の接続作業 有人か、無人機か

2016年9月8日
ミッション開始

海中での接続作業を前に、採鉱プラットフォームの主任会議でテスト潜航の是非を話し合うが、議論は二つに分かれる。経費の問題から「テスト潜航は無駄」という考えと、「今後は全面的に無人化に移行するのだから、今さら潜水艇は必要ない」という意見だ。

「だから、テスト潜航など必要ないと何度も言ってるだろう。お前、自分が怖いくせに、もっともらしい屁理屈を並べて誤魔化しているだけの話だろう。接続は無人機だけで十分に対応できる。テスト潜航など必要ない」
 ダグがはっきり言い切ると、 
「私も納得がいかないわ」
 女性機関士のオリガが、よく日焼けした顔を上気させながら言った。
「今後は水中作業も海洋調査も、なるべく無人機でやるという方向で合意していたはずよ。ジム・レビンソンが抜けた以上、プロテウスの必要性など無いじゃない。今後、十年、二十年と採鉱システムは稼働し、深海での水中作業も今以上に増えるのよ。その度にプロテウスを運航していたら、金銭的にも人的にも消耗する一方じゃないの。もう、レビンソンは居ないのよ。これからは自分達で何でも決められる。無人化と全自動化の技術を確立する為にも、全面的に無人機に移行することを私は支持するわ」

また逆に、ミッション前にテスト潜航したいヴァルターの意向を尊重する声もある。

「これならまだジム・レビンソンの方がましだったかもしれねえな。奴(やつこ)さん、口は悪くても、腕は確かだったからな」
「それはあまりな言い草じゃないの」
 カリーナが黒縁の丸眼鏡の奥から厳しい視線を向けた。
「この方が理事長に呼ばれたのは、過去の事情と何の関係もないはずよ。それに、初めての接続作業となれば、一度試したいと思うのが当たり前でしょう。理事長の判断に不満があるなら、直接言いなさいよ。プロテウスもパイロットも必要ない、接続ミッションは無人機でやります、と」
「ですから、ミセス・マードック、我々はジム・レビンソンが行方不明になった後の主任会議で『パイロットは必要ない』と判断し、理事長にもそのように返事したのですよ。その場にはあなたのご主人もおられた。それで意思統一が図れたつもりだったんですがねぇ」
 ダグが含みのある言い方をすると、カリーナも口を尖らせ、
「その時はそうだったかもしれないけど、でも、その後、ふさわしいパイロットが見つかって、理事長が必要と判断されたのだから、私も夫もその判断を信頼するわ」

今さらのように前任のプロジェクト・リーダーや人事のやり方への不満を口にするメンバーに対し、ヴァルターは「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨てる。

「それだけ不満があるなら、なんでもっと早い段階で理事長に進言しないんだ? 何年もここでマネジメントに携わってるなら、そのチャンスは幾らでもあっただろう」

「君はジム・レビンソンという人間を知らないから、そんな風に言えるんだよ。人間の嫌な部分を釜で煮出して、発酵させたような人さ」とメンバーは押し返すが、

「そんな人間の屑でも、採鉱システムを完成できるのはレビンソンしかなかった訳だろう。それじゃあ、仕方ない。このプラットフォームの第一の目的は海台クラストを採取することだ。君らに楽しい思い出を作ることじゃない。何をどう訴えようと、タヌキの腹は変わらなくて当然だ。俺がタヌキの立場でも、あんたらの泣き言は後回しにする」

と彼は一蹴する。

また、自身の身の処遇に不安を感じていたレビンソンが、わざと成功しやすい場所でテストして、首を繋ごうとしていたのではないかと指摘する。

「タヌキの理事長はプラットフォームに全人生を懸けている。あんた達の辛い思いと、採鉱事業を秤にかければ、事業に傾くのが当たり前だ。それでも最大限の気遣いはしてきた。だから、あんた達も多少の理不尽を感じながらも、理事長に付いてきたんだろう。だが、もう過ぎた事だ。今、ここでレビンソンがどうこうと暴露大会したところで誰も浮かばれない」

一方、リズは彼の力になりたいと、自分の高級車を売ってテスト潜航の費用を捻出することを思い付く。

喜び勇んで父親に打ち明けるが、アルの答えは意外だった。

「お前の気遣いは分かるがね。何でも親切にお膳立てすれば丸く解決するというものでもないんだよ。予算が足りないからこそ、生まれる工夫もある。求められる度に、はい一〇〇万、はい二〇〇万と渡していたら、マネジメント能力も育たない。だが、そういう気持ちは大事にすればいい。現場が困窮している時に無関心でいるよりずっと良い。ただ、皆を手助けしたいなら、わしが買い与えたものではなく、自分自身で得たものの中から差し伸べなさい。パパに買ってもらったスポーツカーをお金に換えるより、自分で稼いだ中から缶ビールでも差し入れた方がよほど喜ばれる。さあ、ワインを飲みなさい。せっかく冷やしたのに、味が悪くなってしまうよ」 

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サンプル版につき、保存や印刷はできません。よろしくご了承下さい。

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Product Notes

無人機を使った海中作業の一例。

周囲は真っ暗で、水中の浮遊物で視界も悪いです。
機材やシステム自体が古いせいもありますが、地上でパイプを繋ぐようにはいきません。

こちらも有策無人機のマニピュレータを使った細かな水中作業です。
全て船上のコントロール・ルームから遠隔操作しています。

無人機(ROV)にも潜水艇に搭載するような小型のものから、大人の背丈ほどある大きなものまで、サイズも用途も様々。こちらのビデオは細部まで分かりやすいです。

ちなみに作中で話し合われているのは、無人機(ROV)にプラス、潜水艇『プロテウス』を投入し、プロテウスからランチャーした小型ROVを使って接続作業を行うという話です。
詳しくは、5-3 採鉱プラットフォームと海中の接続作業5-5 潜水艇と深海の接続作業 あたりに書いています。

ウォールのPhoto : http://www.oceaneering.com/rovs/

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