5-8 鉱業権と鉱山会社の寡占 ~権利の応酬

ヴァルターは総務部のカリーナ・マードックからアステリアの政治区分、トリヴィアの鉱業権、開発史について聞く。
採鉱システムの確立は、技術以前に、権利の問題でもある。
ファルコン・マイニング社の圧力、トリヴィア政府の思惑、鉱業局の立ち位置など、様々な思惑が絡み合う世界だった。

「アステリアはトリヴィアの属領(dependency(ディペンデンシー))なの。部分的に自治権を与えられたトリヴィアの『特別経済開発区』なのよ。『地方都市』との大きな違いは選挙が無いこと。区政の最高意思決定機関は『管理委員会』は十二人の管理委員で構成されているけど、彼らは全てトリヴィア政府に任命された行政官なのよ」

「じゃあ、アステリアの産業活動や区民の社会生活もトリヴィアの法律に基づいているわけですね」

「そういうこと。そして、アステリアの鉱物資源は全てトリヴィア政府の資産であり、企業はトリヴィア政府から鉱業権を借り受ける形で探鉱や採掘を行うの」

自治領政府はネンブロットを『属領』として取り込み、管理機関として『鉱業局』を設立した。そして独自の『地方鉱業法』を制定して、世界中の鉱山会社を誘致し始めたの。だけども、この『地方鉱業法』がくせ者でね。税制やライセンス制度が猫の目のように変更され、優良な鉱業会社が突然探鉱権を停止されたり、ロイヤリティを大幅に吊り上げられたり、トラブルが絶えなかった。国際批判の高まりを受け、かなり改善されたけど、裏で糸を引いていたのはファルコン・マイニング社とも、彼らの母体であるクレディ・ジェネラルとも言われているわ。彼らは鉱業局や産業省のトップに根回しし、自分達の都合の良いように鉱業行政を操ってきたのよ。そのせいでネンブロットからは優良な鉱山会社が撤退し、得体の知れない合弁会社や投資家がどんどん入り込んで、市場や鉱区を引っ掻き回してきたの。それでも世界中の国や企業がネンブロットに頼らざるを得ないのは、ニムロディウムを筆頭に、安価で良質な原鉱や半製品を大量に輸出しているからよ」

カリーナはさらにニムロディウム精製法をめぐるファルコン・グループとMIGの長年の確執について語る。

「それなら、ファルコン・グループのMIGに対する怨恨も深いでしょうね」
「怨恨というより脅威でしょう。技術特許の数でも、社会的信用においても、ファルコン・グループは何一つ敵わない。大きいのは資本と政治力だけ。大衆がどちらを支持するか、言わずもがなでしょう。そして今度は、海台クラストの採掘という、従来の鉱業の概念までも覆すようなシステムを完成しつつある。いくら資本や政治力で勝っても、社会もいつまでも物言わぬ子羊じゃなし、海のニムロディウムが市場に出回り、ニムロデ鉱山に対する絶対的な依存が崩れたら、今度こそファルコン・グループにとどめを刺すという人もあるわ。それだけに彼らもネガティブ/キャンペーンに必死。たとえ本採鉱が軌道にのっても、あの手この手で潰しにかかるでしょうね」

カリスマ的な存在であるアル・マクダエルも六十歳。いつまでも元気に陣頭指揮を執れるわけではない。
要となる人が抜けたら、MIGや採鉱プラットフォームはどうなるのか。
将来に不安を感じるカリーナにヴァルターは言う。

「技術は簡単には真似できませんよ。採鉱システムやマッピングの核の部分は特許を申請して、知的財産として保護されていると聞いています。たとえアステリアの海底に無尽蔵に鉱物資源が眠っていると分かっても、何所に、どれだけ賦存しているか、百パーセント確実に把握するだけでも、非常に高度な技術と経験が必要です。今から他の鉱山会社が真似ても、採掘マップを作成するだけでも、十年、二十年とかかるでしょう。ファルコン・グループと、それに与する企業の技術がどの程度のものか知りませんが、いかに資本のある大企業でも、ローレンシア沖に一隻の船を浮かべようと思ったら、高度な造船技術、訓練された航海士、水中機器のオペレーションや通信技術に長けたエンジニア、司厨士など、何十人というスタッフが必要です。航海するには海図が必須ですが、その海図も優れた調査技術がなければ水深一つ正確に計測することは出来ないんですよ」

とはいえ、ここに長居するつもりもなく、(ここがどうなろうと、俺の知ったことじゃない)と自分に強く言い聞かせる――。

PDFで読む

右上部のアイコン『ポップアップ』をクリックすると、ブラウザの全画面にPDFが表示されます。

サンプル版につき、保存や印刷はできません。よろしくご了承下さい。

フルスクリーンで見る

Product Notes

世界中で愛用されている『AutoCAD』。

CADが登場した時は、オンラインでのグループ作業も「遠い理想」でしたが、今は完全に現実のものとなっています。

作中に登場する『ライントラスト』や『水を治める技術のアーカイブ』は、今でいう『グループウェア』や『クラウディング』の概念を描いたものだったのですが、私の方が遅れをとってしまいました(1995年に発表してればなぁ・・)

今はCAD=設計のみならず、工程、経理、法務など、全てが一体化したプロジェクト・マネージメント・システムが各所で取り入れられています。
不正会計がデフォルトの職場は別として、コスト削減や情報周知、工程管理は、今後もオンライン共有化でいっそう簡素化され、前時代的な組織や手法はどんどん淘汰されていくでしょう。

AutoCAD、大好き♪
AutoCAD

AutoCAD

海外では鉱山会社の採掘現場にも女性が普通に任務を得て、重機を動かしたりしています。
マッドマックスのフュリオーサ大隊長で有名なシャーリーズ・セロンが主演した『スタンドアップ』でも、炭鉱で働く女性のハラスメントを描いています。

本作では「悲惨な採掘現場」が登場しますが、一般的な鉱山会社の採掘現場では「奴隷のように鞭打たれて」というのは前時代の話。巨大なハイテクマシンが全自動でガンガン露天掘りをやってます。

鉱山会社
Photo : https://goo.gl/2u5cSv

鉱業 鉱山会社
Photo : https://goo.gl/i1aaaN

おまけ。
ROV

ウォールのPhoto : http://goo.gl/uuQcls

Site Footer