5-4 女神の視点 この海に何が起こるか

だまし討ちにあったと怒り心頭のヴァルターは、マードックから改めて海中作業の手順を聞き、接続ミッションに合わせて改造された有人潜水艇『プロテウス』の耐圧殻(コクピット)の設備を見て、一応、納得する。

 マードックは作業用の踏み台に腰を下ろすと、「まあ、悪く考えるな」と慰めた。
「何もせずにタダ飯を食う選択肢もあるわけじゃないか。でも、君は真っ直ぐ僕の所に来て、自分から採鉱システムに携わりたいと言った。だから、僕もそのように対応している。これからだって、何でも自分のやりたい仕事が出来る。調査でも、マッピングでも、何でも。精鋼に興味があるなら製錬工場で働くことも可能だし、マネジメントに興味があるならエンタープライズ社の担当部署に弟子入りもさせてくれる。これ以上の待遇があるか? 僕にも理事長の意図は分からないが、僕らとは別格なのは確かだよ」
「そして、水深三〇〇〇メートルで高電圧のリアクターを繋がせる?」
「まあ、落ち着けよ。刑務所の電気椅子じゃあるまいし、接続した途端、高電圧を流すわけがないだろう? 通電するのは君たちが海上に揚収され、オペレーションルームで十分に安全を確認してからだ。万一漏電したら、数万ボルトの高電圧が揚鉱管を伝って海上プラットフォームを直撃するんだからね。それに、当日はブリッジやコントロールルームから四十人以上のオペレーターがフォローする。一カ所でトラブルが起きても、それがすぐさま全体に波及することはない。ステラマリスの深海調査もそうだっただろう。落ち着いて考えれば、みな分かることだ」
「君も完全主義だな。プラットフォームには今日来たばかり、接続ミッションはさっき聞いたばかり、それで自信満々にやれる人間がいたら、そいつは優秀じゃなくて、ただの無知だ。君は確かな知識と技術があるから、その危険性が理解できるんじゃないか。誰も明日から君が完璧に操作するなど期待してない。でも、君は自分が許せないタイプなんだな。世間ではそういうのを『完全主義』って言うんだよ」

「完全を目指しているつもりはない」

「だが、自分の弱さや欠点が許せないだろう。今日からでも完璧に操作できなければ、自分は駄目だと思い込む。理事長に突っ掛かるのも、本当は怖いからだ。でも、自分で認めたくないから、理事長の対応が悪いと言い張ってる。まあ、事前に十分説明しなかったのも本当だろうがね」

「……」

「怖いなら怖い、出来ないなら出来ないでいいじゃないか。さっきも話したように、僕らにはオール無人機という選択肢もある。これからの六週間、全力を尽くして、君がどうしても無理だと判断するなら、それでいいんだよ。完全主義も上手に生かせば、人より優れた仕事が成し遂げられる。良い風に考えれば、それだけ向上心があって、努力家ということだからね。とりあえず中に入ってみないか。物を見れば、君も納得するはずだ」

一方、厳しく叱責したアルは、『リング』の未来を思いながら、一人でマリーナに出掛けた娘に会いに行く。

「でも、パパは信じているのでしょう。そうでなければ、人生を懸けたミッションに一年以上もブランクのあるパイロットを連れて来たりしないわ」
「彼には可能性があるからね」
「アステリアの海と同じね」
 リズは目の前の海を見渡した。
「一見、何も無いように見えるけど、その海底には世界を変える鉱物が眠ってる。でも、それが浮かび上がるかどうかは、その人次第なのだわ」
「それも人による。何でもかんでも手を差し伸べれば大成するというものでもない。立派な訓戒も、親身なアドバイスも、心が閉じた者には何の役にも立たないからだ。結局は自分で気付くしかないんだよ。考えて、考えて、納得ゆく答えが見つかるまで考えて、真理を我が物とする。良くも悪くも、あの男は多情多感だ。行き場のないマグマみたいに自分を持て余している。だが、何かを成すなら、それぐらい情念が強い方がいい。あの男も今は心が塞いで盲目だが、流れる先を得れば岩をも砕く激流になる。目的を持てば、あの男は必ず変わる」
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Product Notes

オイルリグなどでは実際に無人機を使って、このような海中作業が行われています。
全て海上の基地から遠隔操作。
今のところ、有策(ケーブル)が主流です。海上とやり取りできる情報量が無策より圧倒的に多いので。
あるいは、自律型ロボットがさらに進化して、ケーブルレスが主流になる時代も来るかもしれません。

水中ロボットって、機械のワンコみたいで、可愛いですよね♪

ROV
Photo : http://www.oceaneering.com

こちらは洋上のプラットフォームによる無人機の遠隔操作。水中での作業も全て機械化されています。

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