ミッション開始

5-3 採鉱プラットフォームと海中の接続作業

2016年9月7日
ミッション開始

洋上プラットフォームに入ったヴァルターは、プロジェクトのサブリーダーであるラファウ・マードックから採鉱システムの概要について説明を受ける。

「システムは大きく分けて三つのパートからなる。海底の集鉱機と破砕機。海中の水中ポンプと揚鉱管。そして、タワーデリックを中心とする海上オペレーションチームと選鉱プラントだ。各機の操作とモニタリングはすべてタワーデリックのオペレーションルームで行う。オペレーションチームは全部で四十名。集鉱機、破砕機、水中ポンプ、無人機など、それぞれに専門スタッフが付いている。格納庫で整備やセッティングを行う運航部と連携を取りながら、『子チームが一台をケアする』体制を取っている。もちろん状況に応じて柔軟に対処するがね」

 続いてマードックは巨大なティターン海台のデジタル画像を映し出した。
 深度に応じて七色にグラデーションされたカラフルな立体画像だ。深度の浅い海台の頂部が赤色で、深度の深い基底部が青色で表示されている。

「最初の採鉱区となるティターン海台は、ローレンシア島とローランド島の間に広がる巨大な谷間にある。谷といっても、幅一〇〇キロメートルから二〇〇キロメートルに及ぶ地溝のようなものだ。だが、なぜテティス・プレートの真ん中にこのような地形ができたのか、溝が年々拡大しているのか、メカニズムは分かっていない。この巨大な溝には、高さ数百メートルに及ぶ海山や海丘が六つある。未だ発見されていない数メートル程度の高まりも含めれば、もっとになるだろう。そして、僕たちが採鉱するのは、ティターン海台の頂部から肩に掛けて被覆する『岩石の皮(クラスト)』だ」

海台クラストの採鉱は、これまで頑なに支持されてきた学説を覆す点でも意義が大きい。

「従来の定説?」

「『ニムロイド鉱石は小天体の衝突で生成される』という定説さ。これまでニムロデ鉱山は、『小天体の衝突によって地殻の割れ目がマントルまで達し、惑星深部の物質が一気に噴出した』という考えが長年支持されてきた。それどころか、元々、ネンブロットにニムロディウムは存在せず、宇宙のはるか彼方から小天体がもたらしたと考える者もあった。だが、ニムロデ鉱山の酸化ニムロディウム鉱床が『小天体の衝突によってもたらされた』とするなら、他の鉱山に存在するニムロイド鉱石の存在が説明つかないし、トリヴィアの地中からも微妙に検出されるニムロディウムは何なのか、という話になる。全ては憶測に過ぎず、ファルコン・マイニング社の都合の良いように解釈されてきた。『ニムロデ鉱山以外に、高品質のニムロイド鉱石が採掘できる場所はない』と。ところが、アステリアで硫化ニムロディウムが発見された。ウェストフィリアの火山に存在する硫化ニムロディウムは小天体の衝突とは全く無関係だし、噴気孔のガスや海水に溶け出したニムロディウムも『惑星深部からもたらされた』とは考えにくい。――ということは、ニムロデ鉱山も小天体の衝突とは無関係に、大規模な噴火活動で形成された可能性がある。即ち、ニムロデ鉱山が唯一無二の存在ではないということだ。これまでの定説が学界ぐるみで意図的に作り出された証でもある」

「そういう話、俺の祖父なら目の色を変えて飛びつくよ。火山学者だったんだ。祖父なら、きっと五分で論破する」

「そういう人はトリヴィアやネンブロットにも少なからずいた。だが、ファルコン・マイニング社は御用学者を巻き込んで、新説を唱える人たちを徹底的に叩いてきんだ。そこに『硫化ニムロディウム』という動かぬ証拠を突きつけられて、ついに定説の矛盾を認めざるを得なくなった。今ではアステリアの海に、山に、ガス中に、様々な形でニムロディウムが発見され、『小天体衝突説』を唱える者は一人としてない。こんなインチキみたいな話が何十年と学界ぐるみで支持されてきたなど信じ難いが、それだけファルコン・マイニング社の実権が大きかったという証だ」

海台クラストの採鉱のポイント。

「さて、問題のクラスト採取だが、最大のポイントは、鉱業的価値のあるクラストをいかに効率よく引き剥がし、海上のプラットフォームに回収するかだ。どれほど精密な機械を使っても、海底では余計な基礎岩まで削ってしまうし、クラスト自体も、どこに、どれだけ、どんな形で存在するか、正確に把握しなければ、機械の空回りで終わってしまう。そこで開発メンバーは二手に分かれて研究に取り組んだ。一つは、採鉱システムの機械設計。もう一方はクラストのマッピングだ。機械設計チームは、基礎岩から良質なクラストだけを剥がし、効率よく回収するオペレーションシステムの開発に当たった。ジム・レビンソンが考案したのは、ビートル型破砕機と集鉱機を使った二段階方式だ。できれば一台に集約したオール・イン・ワン型にしたかったが、どうしても技術的に難があり、皆で話し合って二段階方式を採択した」

 マードックはビートル型破砕機とブルドーザーのような集鉱機をモニターに映し出した。

「まずビートル型破砕機がクラストを基礎岩から剥がし、その後で集鉱機が掃除機みたいに破砕物を回収する。ビートル型破砕機の大きさは、全長八メートル、高さ三・五メートル、幅四メートル。キャタピラ式トラクターで自走機能と遠隔操作の二つを兼ね備えていて、傾斜十五度の斜面でも走行可能だ。車体から突き出たカブトムシのようなヘッドの長さは四メートル。ヘッドの先端には二つの球状のカッターが取り付けられていて、表面は長さ二〇センチから三〇センチの棘状のドリルピットに覆われている。このピット付きカッターは地図データと連動で稼動し、クラストの厚さや形状に応じて微妙に角度を調整する」

「地図データはどうやって作成するんだ?」

「至近距離から音波や超音波を発信し、その反射音を分析して、クラストの厚さや形状を詳しく計測する。もう一つ併用しているのが、レーザー光だ。ニムロディウムには特定の波長の光を強く反射する特性があって、至近距離からレーザー光を放射して、およその含有量を計測する。これは宇宙航空の分野で使われているコーティングや冶金設計の技術を応用したものだ。企業機密というなら、マッピング技術と地図データが最たるものだよ。機械のコピーは容易だが、どこに、どれだけの良質なクラストが存在するかは簡単には調べられない。計測装置や解析の手法はトップレベルの知的財産だと理事長が言ってた」

「そうだろうね」

「次に集鉱機だ。こちらは路面清掃機みたいに車体の底部にバキュームと、棘状のピットに覆われた直径四メートルの回転ドラムを備えている。破砕機で細かく砕いたクラストを直径二センチ以下の細かな粒子に粉砕し、バキュームの中央取り組み口から海水と一緒に吸い上げるんだ。バキュームの先はフレキシブルホースに繋がり、さらに水中ポンプによって揚鉱管に運ばれる。この集鉱機も小回りの利くキャタピラ製で、全長九メートル、高さ五メートル、幅六メートル。当面、一日の目標採鉱量は三〇〇〇トンから四〇〇〇トンだ」

ところが、説明の過程で、潜水艇プロテウスのミッションは、水深3000メートル下で、揚鉱管やリアクターの接続作業をサポートする事だと知り、ヴァルターは「騙された」と憤る。

しかも、アシスタントは「大学生」と聞き、彼は唖然とする。

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Product Notes

「海底鉱物資源の採鉱システム」に関しては、様々なアイデアが出ており、最も理想とされているのは「オールイン・ワン型」です。

海底を自在に動き回る重機が、基礎岩から商業的に価値の有る鉱物資源だけを効率的に回収し、海上の施設に輸送するというもの。海上の施設といっても、揚鉱管の長さは数百から数千メートルに及ぶのですが。

技術的困難もさることながら、海洋環境に及ぼす影響も計り知れません。

そのあたりが実際、地元の反発にあっているのですが。

作中、採鉱プラットフォーム、および採鉱システムの概要は、実際にソロモン沖で実験稼働中の『NAUTILUS Minerals』のプランを参考にしています。
http://www.nautilusminerals.com/irm/content/default.aspx

『Offshore Production System Definition and Cost Study』
NAUTILUS Minerals Document No:SL01-NSG-XSR-RPT-7105-001
『Seafloor mining robots and equipment nearing completion to mine for gold, silver and copper』
http://www.nextbigfuture.com./2013/10/seafloor-mining-robots-and-equipment.html

海底鉱物資源の採鉱システムは、イメージとしては、こんな感じ。
動画だけ見ていたら、とても簡単そうに見えますが、作中でもあるように、「水深数千メートルの海底から、商業的に価値のある部分」だけを効率よく削りとるのが難しい。
莫大な操業コストをかけて、屑石ばかり吸い上げていたら、何の利益にもならないどころか、資金を使い果たして、即、廃業です。

これも作中に書いていますが、そもそも、どこに、どれだけ商業的価値のある鉱物が賦存するか、正確に把握しないことには始まらない。
丹波篠山の中腹をシャベルで掘り返しても、石油も黄金も永遠に出てこないのと同じで。

いつ、どこの物好きが、これに本格的に着手するか楽しみでしたが、ほんとに始めたベンチャー企業があるのにびっくり。2012年操業開始の予定でしたが、遅れてますよね。そりゃあ、水深数百メートルでも難しいでしょう。環境保護団体もうるさいし。

どこまで実現するか、本当に楽しみです。

※こちらはティピカルなオイルリグ。あくまでイメージです
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おまけの人魚♪

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Photo : http://goo.gl/ALru0i

ちなみに、「自費で有人潜水艇を建造する」というのは私の願望です。
120億ぐらいはするでしょうね。
映画監督のジェームズ・キャメロンは自費で建造して、マリアナ海溝まで潜航しましたが(´д`) → 超うらやまP

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