ローエングリン

2-4 運河沿いの小さな家と息子の誕生

2016年9月3日
ローエングリン

最愛の人、アンヌ=マリーと結ばれたグンターは、フェールダムという干拓地の運河沿いに小さな家を買う。
カールスルーエの父は「海岸線から近すぎる。ここ数年の異常気象を考慮しろ」と懸念するが、何の前触れもなく、一夜で町が水没するなど有り得ない。
まして堤防管理は自身の職務ではないか……という自負から、父の懸念を押し返す。

 ただカールスルーエの父だけが「もう少し水際から離れたらどうだ。いっそミデルブルフに移った方が安全ではないのか」と難色を示した。
 だが、水害は地震や竜巻と異なり、必ず予測が立つ。自分はそれを仕事にしているのだから、全力で町と家族を守るとグンターは聞かない。
 父もそれ以上はくどくど反論せず、息子の判断に任せたが、気象庁から取り寄せたデータをどんと目の前に積み上げると、「これは脅しでも嫌がらせでもない。神が気象庁でもこう言うだろう。『早く方舟を作って逃げろ』」と最後まで懸念した。

夢にまで見た温かい家庭を手に入れ、息子も生まれるが、その幸せも束の間だった――。

 どうやら揚げ物を作ろうとしてサラダ油に引火したらしい。慌ててレタスや人参を投げ込んだが、水と油が飛び散り、そこら中べとべとだ。その間にスープは吹きこぼれ、サラダに使う野菜もなくなり、さすがに打ちのめされたらしい。
「これほど何も出来ないとは思わなかった。自分が情けない」
 アンヌ=マリーは目にタオルを押し当て、激しくしゃくりあげる。
「焦らないで、アンヌ。夕食が無いなら、宅配ピザを頼めばいい。スーパーに行けば、パンでも揚げ物でも何でも売っている。僕は家政婦さんと結婚したんじゃない。君と一緒に暮らせるだけで幸せなんだ。何でも少しずつ習得すればいい。僕たち、これから何十年も一緒に居るんだよ」
 そう、『何十年』だ。
 隣の老夫婦みたいに皺だらけ、白髪だらけになっても、共に畑を耕し、七面鳥の世話をして、孫の成長を楽しみにしながら静かに人生を終えて行く。
 その長い営みを思えば、一食作り損なったぐらい何だというのだろう。
 生きて、生きて、最後まで生き抜いて、愛を分かち合う方がずっと大切だ。
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Product Notes

オランダの家屋はどれも可愛いですね。
濃い緑色のようなユニークな色使いも、干拓地の田園では素晴らしく映えます。

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ハーバート・ジェイムズ・ドレイパーの描いた『Water baby』というラファエル前派の代表作です。
真珠貝の中から赤ちゃんが生まれるアイデアと色使いがとても綺麗です。

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Photo : https://goo.gl/ccYsd3

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