2-11 アルベール一世と海洋科学 海は生きるものの故郷

愛する人をうしなった母と息子は、唯一の友人を頼って、フォンヴィエイユという港町に暮らし始める。

最愛の父と故郷をなくし、悲しみのどん底にあるヴァルターを元気づけるため、アンヌ=マリーはアルベールⅠ世が設立した海洋博物館に連れて行く。

 父親の死後、笑顔もなく、言葉も少なく、死んだ魚のようにぐったりしていたヴァルターも海洋博物館は非常に気に入ったらしく、アルベールⅠ世が愛用した調査器具や帆船の模型、巨大なシロナガスクジラの骨格標本や、海の生き物を象ったシャンデリアやモザイク・タイル、膨大な資料やスチール写真を食い入るように見詰めている。
 水族館ではカラフルな魚に目を細め、ふれ合い広場では可愛いカメやヒトデを手に取って、やっと淡い笑みを浮かべた。
「海は生きとし生けるもの、すべての故郷よ」
 アンヌ=マリーは丘の上から冴え冴えと輝く地中海を見ながら言った。
「生命は、すべて海から生まれ、巣立っていったの。陸に上がった人間が今もこうして海を懐かしむのは、海に暮らした何億年もの記憶を何所かに留めているからかもしれないわね」

それを機に、ヴァルターは海洋科学に興味をもち、ジュール・ヴェルヌの「海底二万海里」や赤いニット帽の海洋学者ジャック=イヴ・クストーの著書『沈黙の世界』に興味を持つ。

だが、モナコでの慣れない暮らしは、心の傷をいっそう押し広げる。

 学校でもクラスメートに鼻に引っ掛かったような発音を馬鹿にされ、サッカーではわざとボールをぶつけられたり、パスを無視されたり、辛い思いもしているようだが、家ではほとんど泣き言も言わない。ただ黙々と食べ、宿題をこなし、ぼーっとTVを見る、その繰り返しだ。
 時々、家に帰ると、居間のソファでぐったり横になり、目にも頬にも泣き腫らしたような跡がある。
 そうかと思えば、夜中に悪夢にうなされ、わーっと叫んで飛び起きたり、「父さん、父さん」と泣き叫ぶ声が壁越しに聞こえてくる。
 その度に、アンヌ=マリーも床から出て、息子の背中を擦ったり、ハーブティーを飲ませたりするが、時には自分自身も疲れ果て、パニックに気付いても起き出せないこともある。そんな時は自分もまた涙を流し、愛する人を亡くした喪失感と淋しさに胸を掻きむしるのだった。
 淋しい日は息子と二人で海岸に出かけ、浜に打ち上げられた二匹の魚のように身を寄せ合った。
 寄せては返す波の音を聞きながら、アンヌ=マリーはシャンソンの名曲『La Mer(ラ・メール)(海)』を口ずさむ。

夫なき後、必死で生活を立て、息子のケアもしてきたアンヌだが、とうとう彼女自身も力尽き、病に伏せる。
見るに見かねた友人は、アンヌの両親に連絡し、エクス=アン=プロヴァンスから迎えの車がやって来る。

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アルベール一世の海洋博物館を訪れたヴァルターは、フランスの海洋科学に強い興味を示し、ジュール・ヴェルヌの「海底二万海里」や赤いニット帽の海洋学者ジャック=イヴ・クストーの著書『沈黙の世界』に親しむようになる。

「海の底には父さんがいる。冷たい海の底で、俺が探しに来るのを待っている」
「お父さまは世界中のどこにでもいらっしゃるわ。空の上、海の中、野に咲く花の一つ一つに心が宿っている。海の底も決して氷に閉ざされた冷たい世界じゃない。きっと命に満ちあふれた、温かな世界よ」

だが、現実社会で生き延びる術を持たないアンヌ=マリーは病に倒れ、母子の暮らしは困窮する――。

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海洋科学といえば、日本もよく頑張っていますが、フランスのお家芸ですね。
アルベール一世の海洋博物館はモナコですが(^_^;

モナコ 海洋博物館
Photo : http://goo.gl/E40gMW

世界で初めて、マリアナ海溝に到達したトリエステ号しかり。
科学者のオーギュスト・ピカールが設計し、息子のジャック・ピカールと海軍の中尉ドン・ウォルシュが海の最深部にトライしました。
そりゃもう、死にに行く覚悟だったと思いますヨ。

The bathyscaphe トリエステ
パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=209622

ジャック・イブ・クストーの作品はこちら。

ジュール・ヴェルヌは「八十日間、世界一周」と「十五少年漂流記」の方が面白かったけど。

La Merはいわずと知れた、シャルル・トレネの名作です。
ここは『Mr. ビーン カンヌで大迷惑?! 』のラストシーンから。
誰もがハッピーな気分になる演出です。
この場面だけ見るとギャグだけど、全編を通して見ると、すごく感動します。

La Merもいろんな人が歌っていますが、個人的には、クリームみたいな甘い歌声が好きです。

Photo(ウォール) : http://www.oceano.mc/en/presentation/the-oceanographic-museum/the-temple-of-the-sea

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