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7-6 一つの人生に、一つの目的

2016年10月1日
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翌日、接続ミッションの成功を祝うパーティーが開かれる。
マードックやダグたちは、感謝の印として、青いジュエリーを抱いた有翼の女神像をアルに贈る。

「あれはサファイア?」
 ヴァルターがフーリエに耳打ちすると、代わりにノエが答えた。
「ニムロディウムの特殊効果だよ。僕も詳しくは知らないが、ある種の原石にニムロディウムを添加して高温で加熱すると、ああいう色合いになるらしい。ルビーやエメラルドも光沢を増す為に放射線やオイルで人工処理を施すだろう。それと同じ原理だ」
 アルはじっと青いジュエリーに見入っていたが、女神像の足下に『per mare per terram*1(海にいようと 陸にいようと)』と刻まれているのを見て取ると、「どうもありがとう」と皆に向き直った。

「しばしば口にしてきたことだが、人はみな深海に眠る鉱物と同じだ。誰もが大きな可能性を秘めている。だが、それを掘り出すのは自分自身に他ならない。今日まではわしのビジョンに付いてきてもらったが、明日からは皆自身で今後のビジョンを描いてもらいたい。この三〇年、果てしなく感じられたが、振り返ればあっという間だった。その間、辛抱強く自彊(じきよう)し、研鑽を積んで下さった皆さんにはただただ感謝の気持ちしかない。改めて、どうもありがとう。そして、これからは皆さんの時代であるように――」

リズは父の代わりにスピーチに立ち、皆の健闘を称えてシャンソンの名曲『La Mer』を歌う。
一途に歌う彼女の姿に、改めて心を惹かれる。

パーティーが終わると、ヴァルターは一人でムーンプールに向かう。
そこには既にアルが居たが、その姿は悦びではなく、憂いに沈んでいるようにも見える。

「だから、今考えている。これから何に懸ければいいのか。――正直、俺には皆の成功を手放しに喜べない。なぜって、俺は何もしてないからだ。海洋調査も復興ボランティアも全力で打ち込んできたが、それとは違うような気がする。上手く言えないが、生き甲斐と呼べるところまでいってないような。皆の役に立っているつもりだったが、突き詰めれば、自分の方しか向いてなかったような気もする。それでも、昨日マードックと話した時に痛感した。やはり俺は何かせずにいない。自分も生き、周りも活かすような『何か』だ。その時、本当の意味で、『これが生だったのか』という気持ちが分かるような気がする」
「それでいいじゃないか。無目的に日銭を追うより有意義だ。人間、寝食を忘れて仕事に打ち込めるのも、人生のほんの束の間だ。老いてから後悔しても、二度と取り戻せない」
「あんたは、どうしてこんな採鉱プラットフォームを作ろうと思ったんだ? MIGだけで十分な利益も名誉もあるだろうに」
「理由なら数え切れないほどある。お前がしっかと目を見開き、この海を見れば分かることだ」
 彼はムーンプールに打ち付ける水しぶきを見詰めるが、この海にどんな理由が秘められているのか、今は想像もつかない。
「ともかく契約が切れるまでは仕事に専念しろ。これほど自由に動き回れる機会もないだろう。『一つの人生に、一つの目的』。考えて、考えて、考え抜いて、人生のテーマを見つけ出せ。それがこの二年の間にお前が本当に為すべき仕事だ」
「目的――」
「そう。目的だ。採鉱システムを作ろう、これだけの売り上げを達成しようという『目標』とは違う。もっと根源的な『生きる動機』だ。人生を貫くような、我が我たる理由だよ」
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サンプル版につき、保存や印刷はできません。よろしくご了承下さい。

※このパートはだいぶ変えてます。

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Product Notes

レンブラントの名作、「嘆きのエレミア」。
エレミアに関しては、ネットにも詳しい解説がたくさん出ていますので、興味のある方はぜひご覧になって下さい。
16.エレミヤ書9章1-8節『嘆きの歌』鳥井一夫 聖書の部屋
エレミヤの労苦と苦悩 牧師と書斎

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レンブラントは晩年の自画像が好きです。
人生の深みに光が差すような眼差しと色使い。
オランダの美術館で実物を見たことがありますが、一筆一筆から画家の息づかいが聞こえてくるようでした。

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