オランダ人船長

3-6 有人潜水艇『プロテウス』と深海

2016年9月5日

ヴァルターは商船学校の特別研修で初めて有人潜水艇』『プロテウス』の潜航を目にしたヴァルターは深海の世界に強く引き付けられる。

 大洪水の後、彼を最も苦しめたのは、濁流に呑まれ、もがき苦しむ父のイメージだった。
 父は「行方不明」というだけで、遺体もあがらず、最期を目撃した人もない。どこで、どんな風に命を落としたのか、亡骸はどうなったのか、彼には知るよしもなく、恐ろしい想像だけが胸に広がる。無残に決壊した堤防や水没した干拓地の映像を思い返す度に、喉を詰まらせ、手足をバタつかせ、胸をかきむしるようにして息絶えた父の姿が瞼に浮かび、彼も同じ苦痛にさいなまれた。
 母は「きっと一瞬の出来事だったのよ。痛みも感じず、苦しむこともなく、気付いたらヴァルハラの光の中に立っていて、自分でも死んだと気付かないまま、今もあなたの側にいらっしゃるはずよ」と慰めてくれるが、彼の想像の中では、今も暗く冷たい水の底にひとりぼっちで取り残され、彼や母の名を叫びながら誰かが引き上げてくれるのを待っているような気がしてならない。
 だが今、目の前に広がる深海の世界はどうだろう。
 宇宙の深淵よりまだ深く、厳かな静寂に満ちている。
 だからといって、全く何も無いわけではなく、アルプスより遙かに巨大な海山や数千キロメートルにも及ぶ海溝、奇妙な泥火山や氷結したガスの塊、数百度の熱水を勢いよく吹き上げる噴出孔、その周りでは巨大化したミミズのようなチューブワームや真っ白なカニなど、地上とは全く異なる不思議な生き物が無数に生息し、独自の生命圏を作り出している。
 それは決して暗黒の地獄ではなく、猛々しいほどの惑星のエネルギーに満ち溢れた生命の世界だった。

潜航を終えて支援船に戻ってきた潜水艇のパイロットを掴まえて、「どうやったらパイロットになれるのか?」と質問する。

「海洋学や船舶工学をしっかり勉強して、『La Porte etroite(狭き門)』を目指すんだね」とアドバイスされ、ヴァルターは潜水艇のパイロットを目指して猛勉強を始める。

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Product Notes

わたしも間近でJAMSTECの『しんかい』を見たことがありますが、外殻はプラスチックのぺこぺこしたような手触りで、「ほんとに、こんなので水深6000メートルも潜るのかよ」と不思議に感じたものです。

深海というと、超水圧の世界で、『アビス』のような海洋アクション映画を見ていると、仲間を裏切って、一人で海底基地を脱出した悪者が、途中で潜水艇(救出ポッド)のトラブルに見舞われ、全身から血を吹き出し、最後にボカンとコクピットが破裂するのがお決まりのパターンですが、本物はそんな風ではないです。

本当に事故で死ぬとしたら、深海で身動きが取れなくなって、耐圧殻の中で窒息死する確率の方が高いでしょう。

『しんかい』の耐圧殻の設計と製造の過程はNHKのプロジェクトXでもやっていましたが、水圧などを考慮して、各部の適切な数値を人間が計算で導きだすというのも凄いです。(理工系の人には何でもないのかもしれませんが)

それでも、海底基地と月面基地、どちらが早くて実用的かといえば、月面基地でしょうね。

↓ アビスも夢のある作品です。『ターミネーター』や『アバター』ほどに有名ではないけれど、ジェームズ・キャメロン監督の思い入れを感じます。

ウォールのPhoto : http://www.bluebird-electric.net/submersibles.htm

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