オランダ人船長

3-11 再建コンペと建築家の詭弁

2016年9月6日
オランダ人船長

多方面の支援と共感を得て、『緑の堤防』のアイデアも大きく育っていく。
ヴァルターとヤンは再建コンペに参加する決意を新たにし、ヴァルターは仕事を休職して、ヤンのアパートに移り住む。

だが、有力なコネクションを持ち、地元の経済界に支援された世界的な建築家、フランシス・メイヤーと真っ向から勝負できるのか。

モダンな臨海都市が絶対悪とは言わないが、フェールダムには独自の歴史があり、人々の思い入れがある。それを無視して根本から作り替えることが住民の救いになるとは到底思えない。
住民の願いなど単純なものだ。
いろんな意味で「帰りたい」、それが全てである。

だが、再建コンペに挑むことは、自身のキャリアの中断することでもある。
様々な社会的影響を懸念するヤンに、ヴァルターは答える。

「この海の何処か――海底の冷たい泥の中に、今も俺の父親が眠っている。立ち上がることも、叫ぶこともできず、無念を抱いたまま、一歩も前に進めない故郷を見詰めている。あの晩、この辺りがどんな風だったか、俺には想像もつかない。海面が十メートルも上昇して、ここまで押し寄せるなど、誰が予測できただろう。きっと父も怖かったはずだ。足元には激しい波が打ち付け、背後には河川から流れ込んだ大量の水が渦巻いている。どこにも逃げ場はなく、いつ高波に呑まれるかと、総身が震えるほど恐ろしかったはずだ。それでも逃げなかった。俺に自分の生き様を見せる為に堤防を守りに戻った。父さんだけでなく、最後までここに残った作業員も同様だ。そして今も、骨一本になっても、故郷の行く末を見守っている。俺たちは皆、彼らの子供だ。その想いに答えたい。このまま黙って見過ごしたくない」
「だが、太刀打ちできるような相手じゃないぞ。相手は百戦錬磨のベテランだ。政界にも経済界にも顔が利く」
「だから、やるだけ無駄だと言いたいのか? コンペの目的は勝つことだけじゃない。公の場で声を上げる機会でもあるはずだ。社会に疑問を呈するだけでもいい。このまま大きな流れに呑まれたくない」

そんな中、フランシス・メイヤーが現地の視察を兼ねて講演会に訪れる。
ヴァルターもメイヤーの真意を探るために講演会場に立ち寄る。

 メイヤーのコンセプトを一言で要約すれば『rebuild(リビルド)』だ。
 単純に施設をリニューアルするだけではない、新しい景観と都市機能を通した「社会の再構築」である。
「宇宙の植民地に目を向けてみよう。そこには国もなく、強い民族意識もなく、人々は『開発』という一つの意思に結ばれ、非常に平和で調和のとれたコミュニティを形成している。君たちの国に必要なのは、国や人種を越えた『意思共同体』としての新しい社会の構築だ。フェールダムの洪水は悲劇だった。だが、旧き世界が一掃され、まったく新たな社会を構築するチャンスでもある。進歩。革新。創造。君たちはこれらの言葉を錦の御旗のごとく掲げ、果敢に挑戦しようとするが、その多くは旧い価値観の焼き直しに止まっている。こうあるべきと信じるものは根元から壊せ。創造とは疑うところから始まる。従来とは異なる思想と機能をもった新しい都市がその舞台となる。フェールダムは時にそのルーツを断ち切っても、前に進まねばならない時期に来ているのだ」
 だが、彼は懐疑的だ。
 どれほど社会が進歩しようと、人間は「自分が何ものであるか」に帰着する。生まれ育った土地の文化や歴史、両親から受け継いだ教えと価値観から死ぬまで離れることはない。
 宇宙の植民地にだってアイデンティティの基盤となるものがあるはずだ。
 代々受け継がれる文化、母国語、親の出自、生まれ育った町、等々。
 それらを壊すことは、自身のルーツを断ち切ることでもある。
 「社会の再構築」と簡単に言うが、個々が足を着けている心の基盤を壊してまで刷新すべきとは思わない。揺るぎないから「礎」というのであり、フェールダムの場合は、安全で美しい干拓地こそが礎ではないか。 
「あなたの言葉は非常に聞こえがいい。だが、それでフェールダムが救われるかといえば、はなはだ疑問です。あなたは本当にここに暮らす人々の気持ちを考えたことがあるのですか」
「元住民でさえ戻ろうとしないゴーストタウンじゃないか」
「戻ってないのは身体だけです、心は常にこの地に繋がれている」
「だったら、なおさら機能的で新しい都市こそ帰郷の求心力になると思わないかね」
「思いませんね。住民が望まぬものを作っても、数年後には回収不能な巨大なゴミになるだけです」
 今度こそ本気でヤンが彼の脇腹を突き、演壇の脇に控えていた係員らも顔を見合わせ、こちらに来ようとしたが、その前に彼の方で席を立った。
「フェールダムをどうしようとあなたの勝手だが、果たしてこの地にあなたのリビルド哲学が根付くでしょうかね。なぜ、この低地に数百年の長きに渡って人々が住み続けたのか、一度じっくり考えて下さい。たとえ臨海都市が建設されても、フェールダムの住民が数百年先まであなたに感謝すると思ったら大間違いですよ」

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Product Notes

オランダの干拓地。ホントに住宅地が水面より低い場所にあるんですね。

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牛がのんびり草を食み、、、のどかで、美しい風景です。

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オランダって、土木好き、工学好きには、こたえられん国や。。

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