1-5 アイデアと創造 未来の海洋都市

アルの契約書にサインしたヴァルターは、早速、荷物をまとめ、出発の準備に取り掛かる。

ラップトップPC『Leopard』に描かれた『リング』の鳥瞰図は亡き父の大切な思い出だ。

 やがて潮が満ち始め、波が徐々に砂の都市を掻き消すと、

「全部、海の向こうに流されていくね」

 彼は淋しそうに呟いた。

「そんなことはない。もしかしたら、この海の向こうに、それを必要とする人々がいるかもしれないよ」

「海のど真ん中の円環都市など誰も欲しがらないよ。狭いし、危険だし、所詮空想ごっこだ」

「どうして『誰も欲しがらない』と決めつけるんだい? 遠い将来――それこそ何世紀という未来、海面上昇が深刻化して、海抜の低い島や沿岸のデルタ地帯に住み続けることができなくなった時、海のど真ん中でも建設可能な干拓都市の構想が必要とされるかもしれないよ」

「そうかなあ……」

「考えてもごらん。産業革命で機械化工業が始まるずっと以前に、レオナルド・ダヴィンチは飛行機のアイデアを図案に残している。ガスも電気もない太古の時代にさえ、人々は『どうやったら鳥のように空を飛べるだろう』と考えを巡らせ、絵や文章にアイデアを書き留めてきた。当時にしてみたら、空を飛ぶなど奇想天外だったろう。でも、数世紀を経て現実になった。今すぐ実現するかどうかは問題じゃない。それこそ君が言うような『空想ごっこ』を真剣に考え抜いた人がいたから、恒星間航行も可能になったんだ。誰のアイデアも無限の可能性を秘めている。どうせ理解されないからと、そこで考えることを止めてしまったら、それこそ無に終わってしまう。お前もいろんな可能性をいっぱいに秘めた海なんだよ。たとえ君が世界を変えるアイデアを持っていたとしても、それを口にしなければ誰にも伝わらない。だから勇気をもって話してみよう。そうすれば心ある人は必ず耳を傾けてくれる。そして、それが価値あることなら、いつか形になる。もっと自分を信じてごらん。それが創造の源だ」

だが、今はそれも胸の奥に秘めていく。

なぜアルが自分の元に訪れたのか、その真意も分からぬまま、ヴァルターはアステリアという未知の海に向かって、新たな一歩を踏み出す――。

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写真はあくまでイメージです。

海洋都市
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海洋都市
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ウォールのPhoto : http://inhabitat.com/mad-architects-superstar-mobile-city/

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