フォルトゥナ号

1-4 運命と意思が出会う時 やさぐれた海賊と拾いの神

2016年9月2日

エンデュミオンのトレーラー村に住んでいたヴァルター・フォーゲルは、実際に会ってみると、やさぐれた海賊みたいな男だった。
それでも若者らしい気遣いと、最後のを見て取ると、アルは早速、仕事の交渉を始める。

だが、彼の態度は素っ気ない。
どうにかして手中に取り込み、『リング』の秘密を聞き出したいが、すぐに二枚貝のように口を閉ざしてしまう。

「あんた、俺に説教しに来たのか?」

「いいや、一つの道を示しに来たんだ。見たところ、君は死ぬつもりだな。もういつ死んでもいいと思ってる。生きる価値がないから働く気もない。下手に仕事を持てば、生きる希望が湧くからだ。だが、希望を持ったところで、失ったものは帰ってこない、だから死んでも構わない、まあ、そんなところだ」

「あんたには関係のないことだ」

「行き詰まった先が、誰にも迷惑かけずに荒野の果てで野垂れ死にか? 人間、そんな恰好よく死ねると本気で思ってるのかね? それでも死ぬつもりなら、今すぐ、ここで死に給え。わしが最期を看取ってやろう。いくら孤独が好きでも、一人で死ぬのは淋しかろう。だから、わしが側に付いてやろうと言っている。そして、君が死んだら、警察とマルセイユの母親に報(しら)せよう。それなら、他に迷惑はかからない。自殺者の最期としては上出来だと思うがね」

そうかと思えば、アステリアの海洋開発の安全管理にケチを付け、環境保護うんぬんと屁理屈ばかり並べて、アルに逆らう。

「あんた、今までに何人死なせた?」 

「どういう意味だね」

「アステリアの海洋開発だ。この三十年の間にも、たくさん死んでるはずだ」
 アルはしばし詰まったが、「八名だ」と正直に答えた。
「MIGが関わった工事では八名と記憶している。アステリア全体を含めれば、数倍になるだろう」

「そうだろうね。あんたに駆り出された労働者の多くは『海での作業は初めて』という素人のはずだ。まさかステラマリスから熟練工を何万人も連れて来るわけにいかないからな。もちろん、アステリアにもステラマリスで研鑽を積んだエキスパートが少なからず居るだろうが、大半はネンブロットやトリヴィアの職業斡旋所をうろついているような一時雇いの労働者のはずだ。あんた達はそういうズブの素人を掻き集めては、ろくに訓練も受けさせず、港湾土木や潜水作業、海上施設で組み立て作業などをさせてきた。そこでの事故が記録に残らないのは、作業員名簿にも載らないような臨時雇いの労働者が相手だからだ。死のうが、傷つこうが、数には入れないってことさ。図星だろ?」

そこでアルは、ヴァルターにとって最も大きな痛手である『再建コンペ』と『水を治める技術のアーカイブ』を持ち出し、彼のプライドを刺激する。

「お前も犬と一緒だな。たいした信念もないくせに、屁理屈だけは超一流、頭を撫でられ、餌を与えられたら、尻尾フリフリ付いてくる。お前も本音は海に還りたい、でも新しい海で役立たずの烙印を押されるのが怖い、それでこの先もトレーラー暮らしか。随分くだらんプライドだな」

負け犬よばわりされ、悔しさを滲ませる彼の胸に、いまだ再起の願いがあるのを見たアルは、さらに心の奥深くに踏み込み、おだて、励まし、こちらに手繰り寄せる――。

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Product Notes

実際、海底鉱物資源の採掘が海洋環境の破壊であるとする主張はあります。

洋上プラットフォームからの重油や産業廃棄物の流失
タンカーや石油リグでも問題になっています。

鯨やイルカなど、海洋生物への騒音被害
海の中では音波は遠くまで伝わりますから、イルカのように超音波でコミュニケーションをとっている生物への被害が懸念されます。

破砕機や集鉱機が海洋性植物までカットしてしまう
海底の重機には植物と鉱物を選別する機能はありませんから、貴重な海洋性植物の群生を破壊する可能性は高いです。

地学的にもユニークな熱水噴出孔を破壊する
たとえ活動を終えたデッドチムニーでも、地学的にはもちろん、生物学的にも貴重な存在であることに代わりありません。海底鉱物資源の採掘は、これらを根こそぎ破壊しますので、様々な悪影響が予想されます。

ミクロの生命圏を脅かす
目に見えなくても、海底には様々な生命が存在します。たとえ微生物でも、海洋システムの一端を担う貴重な存在です。未だ解明されていない部分も多いので、たとえ水深数百メートル、数千メートルの海底であっても、これらの生命圏が破壊された時の影響が皆無とはいえません。

作中では「ヘリクツばかり並べおって」と苦言を呈していますが、彼の主張も決して誤りではないのです。

Deep Sea Mining -GreenPeace-
海底鉱物資源 採鉱プラットフォーム

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