1-2 アステリアと海底鉱物資源

『Nunc aut numquam(今成すか、永遠に行わないか)』。
初めてアステリアに降り立ったアルは、茫漠たる海に愕然とするが、人生を賭して採鉱システムの開発の成し遂げることを決意する。
だが、肝心要のプロジェクト・リーダーは、頭は切れるが、人柄卑しい最悪のキャラクターだった。
運命の二面性を噛みしめながら、アルは巧みに舵を切り、数々の難をしのぎながら、ついにシステムを完成させる。

「あなた、本当にこの超水圧を掻き分けて、水深数千メートルの海底から鉱物資源を回収するつもりですか? 気圧や無重力は今の技術でどうにか克服できますが、水は簡単には制御できません。変幻自在に形を変える上、止めることも、掴むこともできず、僅かな鉄板の隙間からも鉄砲水のように入り込んで、全てを破壊するんですからね。仮に水深六〇〇〇メートルの海底から鉱物を回収するとしましょう。それは標高六〇〇〇メートルの山頂から、麓の果樹園のリンゴを拾い集めるようなものですよ。的確にリンゴを採るのも難事なら、集めたリンゴを頂上まで引き上げるのも至難の業です。ましてそれを商売にしようと思ったら、一キロ、二キロを採ったぐらいでは話になりません。そんな無謀なリンゴ狩りをするぐらいなら、隣の果樹園からリンゴを買い入れた方がよほど安くつくでしょう。あなたがやろうとしている事は、それぐらい無鉄砲でリスキーだ。ステラマリスでも本気でやろうとしたベンチャー企業があったが、多額の負債を抱えて倒産しましたよ」
 だが、ローレンシア島の沖合に採鉱プラットフォームを建設することは社運を懸けた一大事業だ。下手すればMIGや自己資産のみならず、祖父が築いた技術革新の金字塔さえ灰燼と帰すかもしれない。
 最悪の結末を思えば総身が震え、引き返すなら今のうちと窘める声がする。
 だが、良質なニムロディウムを得る為に、生涯犬のようにファルコン・マイニング社の足元に這いつくばって、真の経営者と胸を張って生きてゆけるか。
 死力を尽くせば達成できたかもしれないことを一生胸に抱えたまま、自分に言い訳しながら人生を終えるつもりか。
 否、否。
 この日の為に姉のダナと幾度となく話し合い、寝る間も惜しんで勉強して、幾通りものビジネスプランを練り上げてきた。いくらか背伸びする部分もあるが、決して無謀な賭けでないことは心が識っている。
 Nunc(ヌンク) aut(アウト) numquam(ヌンクァム)(今成すか、永遠に行わないか)。
 だが、レビンソンは想像以上の曲者だった。
 スタッフの目の前でアルを「タヌキ」と呼び捨てにするのはまだしも、現場スタッフを顎で使い、開発チームの新人をノイローゼにし、予算を好き放題に使い込む。
 堪忍袋の緒が切れたスタッフに「僕らを取るか、レビンソンを取るか」と難詰されたこともあれば、辞表を出した役員に「あなたは自分の成功しか頭にない」と言い捨てられたこともある。
 そして、その度に現場に頭を下げ、懇願し、誠意の限りを尽くしてきた。
 結局、事業というのは、潤沢な資金や技術に恵まれても、現場の人間次第で良い方にも悪い方にも転ぶものである。 
 今、アルが「拾いの神」と呼ばれ、人材登用に長けた経営者として仰ぎ見られるのも、ひとえにジム・レビンソンという運命の影と辛抱強く付き合ってきた結果である。

ところが、三度目のテスト採鉱に成功した翌日、プロジェクト・リーダーは忽然と姿を消し、一ヶ月半後に予定されていた本採鉱まで雲行きが怪しくなる。
アルはその場の助っ人として、有人潜水艇『プロテウス』のパイロットを求めるが、海洋技術センターで紹介されたのは、これまた一癖ありそうな、解雇されたばかりの男だった。

「こんな男を紹介されても、何の役にも立たん」とアルは無視しかけるが、一点、面白い事実に興味を引かれる。

それは、潜水艇のパイロットにもかかわらず、大洪水で壊滅した故郷の再建コンペに参加し、プロの建築家と真っ向から対決して、堂々の二位を勝ち取っていたことだ。

いったい、潜水艇のパイロットが、なぜ畑違いのコンペに挑んだのか。

ネットに残された情報を辿るうち、アルはこの男の意外な才能を知ることになる――。

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アステリアと海底鉱物資源

Product Notes

「海底鉱物資源の採掘」というのは、20世紀後半、いやもう、発見当初から、何度も繰り返しクローズアップされてきたことです。
日本近海もそうですが、深海の広大な海底にゴロゴロ転がってるんですから。
でも、「商業的に価値のある部分」だけを効率的に海上に引き揚げるのは至難の業です。
地上の鉱山業のように、メガ重機でがんがん露天掘りするわけにいきませんので。

海底鉱物資源 採鉱
Photo : http://goo.gl/l28qrT

参考文献リストにも書いていますが、作中に登場する採鉱システムは実際に企画実験中の『Nautilus Minerals』を参考にしています。

『Offshore Production System Definition and Cost Study』NAUTILUS Minerals
Document No: SL01-NSG-XSR-RPT-7105-001
『Seafloor mining robots and equipment nearing completion to mine for gold, silver and copper』
http://www.nextbigfuture.com./2013/10/seafloor-mining-robots-and-equipment.html

海底鉱物資源の採鉱システムのイメージはこんな感じ。
簡単そうに見えますが、技術的にどれぐらい難しいかは、海洋科学や海洋工学関連の文献を読むと、容易に想像がつきます。

ちなみに水深数千メートルはこういう規模です。
海底
Photo : https://goo.gl/7ztMfT

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