フォルトゥナ号

1-1 MIGとニムロディウムと鉱山会社の寡占

2016年8月25日

アンナ・ドミノの末期、みなみのうお座星域に打ち上げられた無人探査機が一つの鉱石を持ち帰る。
そこから発見された新物質『ニムロディウム』によって、宇宙開発の技術は飛躍的に進歩するが、最大の鉱床、ニムロデ鉱山がファルコン・マイニング社に独占されたことにより、政治、経済、あらゆるものがマイニング社の影響下におかれ、ファーラー一族による一党支配が始まる。
この流れを変えるには、惑星表面積の97%が海洋で覆われた「海の星」、アステリアの深海からニムロディウムを含む海底鉱物資源を採掘するしかない。
特殊鋼業界の雄、MIG(マクダエル・インダストリアル・グループ)の雄、アル・マクダエルは、社の命運を賭して採鉱システムの開発に挑む。
ところが、まさかのプロジェクト・リーダーの失踪。
アルの運命もまた大きく変わろうとしていた――。

二世紀前。Anno Dominiの末期。
『みなみのうお座』に向けて打ち上げられた無人惑星探査機パイシーズが、『ネンブロット』と呼ばれる赤茶けた惑星から一つの鉱石を持ち帰った。程なく鶏卵ほどの赤い石から新物質『ニムロディウム』が検出され、これを鉄や銅などのコモンメタルに微量に添加すると、有害な宇宙線の遮蔽能力が格段に向上することが明らかになった。それを皮切りに、ニムロディウムを用いた合金設計の技術も飛躍的に進歩し、それまで絶対不可能とされた恒星間航行の推進装置や、高機能な宇宙構造物が建造可能となった。
ニムロデ鉱山は、ネンブロットの赤道直下に広がる二六〇万平方キロメートルにも及ぶ巨大な単体火山で、「数百万年前、小天体の衝突によって惑星深部の物質が表面に噴出して形成された」と考えられている。そして、その地中深くにニムロディウム含有率三〇パーセントを超えるニムロイド鉱石の大鉱床が見つかり、いち早く手中に収めたのが、トリアド・ユニオンの基幹企業『ファルコン・マイニング社』であった。
産業界にとっては起死回生となった宇宙開発ラッシュであるが、そこには微妙な問題が横たわっていた。旧時代に制定された宇宙開発法「宇宙の領土はいかなる国家にも属さない」という一文だ。
わけても世界に多大な影響を及ぼしているのは、ハイテク産業の要ともいうべきレアメタル(希少金属)だ。  
レアメタルは、鉄、銅、亜鉛といったベースメタルに微量に添加することで、耐熱性、耐食性、高張力といった金属性能を高め、新素材や技術開発の鍵となる重要な物質である。
だが、「産出する場所がきわめて限定されている」「純金のように元々の埋蔵量が少ない」「純度の高い金属成分の抽出が非常に難しく、複雑な精錬プロセスを必要とする」といった理由から生産者も製造量も限られ、その安定供給には常に政治的、経済的問題がつきまとう。
とりわけ良質なニムロイド鉱床はファルコン・マイニング社に抑えられ、生産も市場価格も彼らの意のままだ。トリヴィア政府も鉱業局の権限を強化し、マイニング社の寡占に対抗したが、鉱業局の幹部までもが収賄に手を染め、業界の浄化には到らない。

製品版では、前書きに次の文言が入ります。

ツァラトゥストラは、三十歳になったとき、自分の故郷と故郷の湖を捨てて、山にはいった.
そこでかれはおのが精神の世界に遊び、孤独を楽しんで、十年間倦むことがなかった。
しかし、ついにかれの心に変化が起こった。――ある朝、かれは空を染めた紅とともに起ちあがり、日の前に歩み出、日にむかってこう語った。
「おまえ、偉大な天体よ。おまえの幸福もなんであろう、もしおまえがおまえの光を注ぎ与える相手をもたなかったならば」

ニーチェ『ツァラトゥストラ』 
第一部「ツァラトゥストラの序章」より
手塚富雄 訳 (中央文庫)

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Product Notes

本作に登場する『ニムロディウム』は架空の物質です。

現存するレアメタルを小説のアイテムとして利用するより、宇宙の彼方で見つかった『新物質』にした方がフィクションとして組み立てやすいと考え、「惑星ネンブロット」「ニムロデ鉱山」という舞台を設定しました。

『ニムロディウム』にまつわる様々な出来事は、フィクションではありますが、様々な社会問題をモチーフにしています。
それに対する答えも作中に描いていますので、現存するエネルギー問題や鉱業問題と照らし合わせながら、今、世界で何が起きているか、考えるきっかけにして頂ければ有り難いです。

金属や鉱業に興味が湧いたら、JOGMEC石油天然ガス・金属鉱物資源機構の『金属資源レポート』など、資料をご覧になると面白いですよ。

金属資源レポート

金属資源レポート

注釈

*1 Fortes fortuna adjuvat(運は勇敢な者たちを助ける)
ラテン語名句小辞典』 野津寛(著) 研究社
*2 引用 新約聖書『ローマ人への手紙』第十二章・第十七節~第十九節(文語訳)
文語訳 新約聖書 詩篇付 (岩波文庫)

Product Notes

『アル・マクダエル』のキャラクターは海洋科学技術センター(現・JAMSTEC)の元理事長さん、堀田宏先生へのオマージュです。(タヌキではないです・・)
詳細は「あとがき」に綴っています。

『タヌキ』のイメージは、某エネルギー会社の理事長さんです。この方も満顔万福みたいな優しい人でした。

たぬき

Photo : http://fav.me/d1zx2r2

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