8-7 庶民の良心と海洋情報ネットワーク

ヴァルターとリズは束の間の休日を利用して、中華料理店でデートを楽しむ。
その際、アル・マクダエルから追跡デバイスを受け取り、採鉱事業の人質に取られたリズの危険な立場を思い知る。

自由を奪われ、人付き合いも苦手なリズが自身のコンプレックスや葛藤について語ると、ヴァルターは必ずしも『自分らしさ』が一番ではないことを諭す。

「友達と食事しても、スパに出かけても、楽しいのはその場限り。心の底から笑ったり、満ち足りたことはなかった。いつも表面で生きているみたいで、どこか淋しくて……」
「それは分かるよ。でも、皆、大なり小なり似たようなものじゃないかな。君にはセキュリティの問題もある。皆と同じように気楽にとはいかないだろう」
「周りは私の好きにすればいいと言うけれど、父や伯母の苦労を思うと、私だけ勝手気侭に振る舞うことはできないわ。父や伯母に替わって会議を切り盛りできるわけでもなければ、資金を調達できるわけでもない。言いつけを守って、せめて身の安全くらいは自覚するしかないもの。窮屈だけど仕方ないわ。そういう運命に生まれついたのだものね……」
「でも、今はそれでいいじゃないか。俺には『自分の人生』や『自分の生き方』がいつでも一番とは思えない。そういうのが格好いいと思った時期もあったけど、自分の好きなように生きることは必ずしも自慢にはならない――と、ここに来て思った。君も良くやってるよ。プラットフォームの本稼働まで漕ぎ着けたのは、君がパパの言いつけを守って協力したことも大きかっただろう。君の身に何かあれば、接続ミッションどころじゃなかったはずだよ」

これから離ればなれになる不安をリズが打ち明けると、広場で笑いさざめく人々を見ながら、ヴァルターはアステリアの社会に対する思いを語る。

「その為に、俺も海洋情報ネットワークを作ろうとしてる。それが本当に防波堤の役目を果たすかどうかは分からないが、海のことが一般により深く理解されれば、物事も少しずつ変わっていく気がする。この広場を見てごらん。大半の人は身の丈に合った幸せな暮らしを求めてる。海の資源を独り占めしようとか、もっと資産を増やそうとか、そんな事に躍起になっているのは一握りだ。そんな相手に訴えかけても、右から左に聞き流されるのがおちだろう。だが、ここに集う人たちは違う。芸能人の噂話やスポーツの勝敗で盛り上がっているが、本当に聞きたいのは『真っ当な事』だ。綺麗事と分かっても、心の底では美しいもの、正しいことを求めている。俺はそういう普通の人々に訴え、心を動かしたいと思う。今は何もかもが発展途上で、どちらに転がるか分からない。だからこそ、大勢に支持される一つの指針が必要なんだ。それはまた権力者に対する抑止力にもなる。俺の故郷でも一方的な再建工事が遂に中止になった。こうした普通の人々が立ち上がり、全力で抗議してくれたからだ。社会が大きく動けば、君の状況もきっと改善する」
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Product Notes

欧州に行くと、町中に「シティセンター」「タウンスクエア」のように呼ばれる広場があり、いつも大勢の人で賑わっています。春から秋にかけて日照時間が長く、夜9時頃まで明るいのも理由の一つでしょう。
日本人は何かと隣の人のすることを気にするけども、こちらは全く無関心で、気が合えば、その場で友達になるし、オープンカフェの文化に向いていますよね。
そんでもって、サッカーのユーロカップやワールドカップの時期は、町中が巨大なスタジアムになるのです^^;

オープンカフェ
Photo : https://www.flickr.com/photos/sweenpole2001/2671214868/sizes/o/

ウォールのPhoto : https://www.flickr.com/photos/manzanasman/3385222151/

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