ファルコン

8-3 コミュニケーションのとり方が分からない

2016年10月3日
ファルコン

ヴァルターは海洋情報ネットワークの構築に向けて、草案づくりに没頭するが、リズには何の連絡もなく、不安は増すばかり。
自分から電話やメールをして相手の状況を確かめればいいのに、幼い頃からの習性でその勇気もない。
海岸で石のように立ち尽くすリズに、運転手のベルマンが言う。

「遠慮しようと、尽くそうと、壊れる時は壊れるし、今にも壊れそうなものが案外長続きすることもあります。お嬢さんもあれこれ考えず、もっと思い切って自分をぶつけてはいかがです? それから先のことは、その時に考えればいいではありませんか。お嬢さんもお若いのですから、いくらでもやり直しが利きますよ」

「私、まともに人と向き合ったことがないのよ。黙っていても、周りはいつも『アル・マクダエルの娘』として気遣い、持ち上げ、何でも私の気に入るように計らってくれる。本心など誰も口にしないし、厳しく叱ってくれる人もない。だから人が本当は何を考えているのか知るのが怖いし、私自身も自分の本当の気持ちをどんな風に伝えたらいいのか分からない。いつも先回りして、『アル・マクダエルの娘」として恥じない振る舞いをすることに注力してしまう。それが傍には取り澄ましたように見えるのね」

一方、ヴァルターは、リズに何の連絡もとらず、「彼女も分かっているはず」と相手の気持ちなど何も考えようとしない。

「特に話すことがなくても、『調子はどう?』とか『気持ちは落ち着いた?』とか、いくらでも話題にすることはあるでしょう。あなた、自分の都合しか考えないの?」
「俺は俺でちゃんと考えてるよ。海洋情報ネットワークも、突き詰めれば彼女の安全とMIGの権益を守る為だ。俺にとってはそれが最大の誠意だよ」
「それは自分にとっての誠意でしょう。お嬢さんはもっと別の優しさを求めていると思うけど」
「別の優しさ?」
「そうよ。慰めとか、励ましとか」
「それなら二週間前に言った」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「毎日、祈祷文みたいに繰り返すものかい? 俺が彼女を大事に思っているのは彼女だって知ってるはずだし、心の底でいつも気に懸けている。毎日のように説明しなくても、一度口にすれば十分だと思うが」
 マードック夫妻は唖然と顔を見合わせた。
「あなた、人間のコミュニケーションはイルカのテレパシーじゃないのよ。電話もせず、メールも送らず、心の底で気に懸けている事がどうやって相手に伝わるのよ」
「俺には俺の考えがある。今手がけている草案が完成したら、一番に知らせるつもりだ。物事に取り組んでいる最中にあれこれ実況中継するのは、俺の好みじゃない。どうせ話すなら、ちゃんと形にしてから伝えたいだけだ」
「お前が好む、好まないの問題じゃないだろう。彼女の方は五分でもお前の声を聞きたいと願っているはずだ。TVや食べ物の話でもいいじゃないか。もっと相手の気持ちも考えたらどうだ」
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Product Notes

今も昔もコミュニケーションが難しいのは変わりません。
でも、単純に考えたら、「相手の立場になって思いやる」、ただそれだけの話なんですね。
それが出来ないということは、そもそも人間に対する想像力が欠けているか、自分の痛み苦しみしか分からない利己主義か、どっちかでしょう。
最大限に気を遣っても、予期せぬところで躓くのがコミュニケーションというもの。
それでも相手と繋がっていたい、一緒に生きていきたいと願うのは『愛』ではないでしょうか。

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