ファルコン

8-2 海洋情報の開示と海洋社会の基盤

2016年10月2日
ファルコン

ファルコン・マイニング社の進出を受けて、ヴァルターは海洋調査データの開示と共有に一つの打開策を見出す。
古株のダグとガーフに、アステリアの海洋情報管理について尋ねる。

「ほら見ろよ、あんた達だって、自分が採掘している鉱物資源の情報の出所を正確に知っているわけじゃない。ということは、誰も海の事など何も知らないのと同じだ。MIGであれ、マイニング社であれ、実に奇妙だと思わないか?」
「それで情報管理をやれと?」
「そう。俺達の手ではなく、自治体を上げて取り組む」
 ガーフは巨漢を揺すって哄笑した。
「お前の一存で物事が動くわけないだろう。第一、情報管理のシステムを整えたところで社会全体にどんなメリットがあるというんだ?」
「俺は実例を知っている。ステラマリスの『グローバル・シーネット』が良い見本だ」 
 ステラマリスにおいては、各国が領海権を保有し、領海内の海洋調査データは官庁や専門機関が厳重に管理している。一方、民間企業によるソリューションサービスや研究機関によおるシェアなど、権利や責任の所在も複雑で、一口に「誰のもの」と断言はできない。
 また海洋調査を行う組織も、官庁、自治体、民間企業、研究組織など非常に多岐にわたり、蓄積されたデータも膨大なものだ。
 これを百カ国以上、数十の機関や企業が協賛してオープンデータシステムを構築し、どこからでも手軽に検索や情報交換できるようにしたのがグローバル・シーネットで、遠方の海象や海底地形、潮流や水温変化なども瞬時に把握できるようになったことから、海上の安全や臨海開発、海洋科学の発展に大いに役立った。

それがどれほどの効力を持つのかと訝るダグとガーフに、彼はなお主張する。

 一方、ファルコン・マイニング社が既存の海洋調査データを元に採鉱プランを立てているにしても、鉱物資源の賦存状況を正確に把握するには、まず島のインフラを整え、基地を築かなければならない。それを建造するには、第一に大型タンカーも係留可能な港湾施設が必要で、船舶を運航するには、地形、潮汐、海流、水温、化学分析など、詳細な海洋データが必要になる。
 まして深海の鉱物探査をしようと思ったら、音響測深機と解析システム、高分解能の水中カメラ、無人探査機、グラブ型採泥器、船上研究施設といった専用の設備はもちろん、熟練の航海士、機関士、クレーン操縦士、無人機オペレーター、IT技師、司厨部など、何十名もの技能者と、海洋科学や地学の専門家が必要で、調査チームを組織するだけでも、どれだけの資金と歳月が必要かしれない。
 ファルコン・マイニング社や系列会社が大艦隊を率いてウェストフィリアに上陸しようと、本格的に活動できるのは数年先の話であり、その間に海洋情報共有システムを整え、アステリア全体の連携を図り、海洋開発をより良い方向に導くことは十分に可能だろう。
「俺もそれが絶対的に有効とは言わないよ。だが、今の靄がかかったような現状より、一つの情報システムを通じてアステリアの方向性を明確にした方が、健全なものを呼び込めるはずだ。ネンブロットの問題も数々の違法行為や寡占や裏取引を『宇宙文明の基礎』という建前で黙認してきた結果だろう。ロケットを飛ばす為なら、闇市場のプルトニウムでも厭わないのと同じだ。だが、アステリアはそうはならない。開示すべき情報は開示して、社会の合意を取り付けながら一歩ずつ進んで行く。ウェストフィリアで勝手をしたくても、海の情報はガラス張りで、誰もが知り得る権利がある」

「そう簡単に行くかね」

「行くかどうかはやってみないと分からない。だが、たとえ実現しないにせよ、一つの指針を示すことはできるだろう。このプラットフォームだって、興行的に成功するかどうかは何年も先を見ないと分からない。だが『完全自動化』『海のニムロディウム』という一つのスタイルを実証して、技術革新の可能性は大幅に広がった。もはや『ネンブロットだけが唯一のニムロディウム供給源』とは言えないだろう。それは長い目で見れば、マイニング社の一党支配を根底から揺るがす事になる。海洋情報のデータシステムもそれと同じだ。公益データの共有を通して、マイニング社も『社会の一員』としての役目を果たすことを義務づければ、ニムロデ鉱山の地下でやっているような事は通用しないはずだ」

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Product Notes

海洋情報管理、および、情報基盤に関する元ネタはこちらです。

残念ながら、どこのURLからクリップしたPDFファイルか分からないので、EVERNOTEの公開リンクを貼っておきます。興味のある方は、ぜひご一読下さい。

海洋管理のための海洋情報の整備に関する研究 日本水路財団

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海洋基本計画への提案 ~海洋技術フォーラム~

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海洋基本計画

「海洋情報ネットワーク」の後半に書いてますが、海洋のフィールドは非常に幅広い。

学術や産業はもちろん、外交や国家戦略も深く関わってきます。
(アステリアは国境がないので、国益に関する話は無いけれど)

「この分野だけ」と区分けできないのが海の難しさであり、また可能性の幅広さでもあります。

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Photo : http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/chikaku/kaitei/sgs/detail.html

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