アルバトロス

4-3 採鉱プラットフォームと洋上の出会い

2016年9月6日

アルに連れられ、洋上の採鉱プラットフォームを訪れたヴァルターは、予想以上に高機能で、統制の取れた施設に目を見張る。

 ティターン海台の鉱物資源を採掘する海上基地は全長一八〇メートル、幅六〇メートルの半潜水式のプラットフォームだ。海面下のロワーハルには水平方向に三六〇度回転可能なプロペラを装備し、アンカーなしでプラットフォームを定位置に保持することができる。一般的な石油リグと異なるのは、何階層にも及ぶ背の高い箱形ではなく、調査船のような平べったい形状をしている点だ。頻繁な物資や機材の上げ下ろしに対応できるよう、柵の無いオープンスペースも広く設けられている。

 プラットフォーム中央には全長数千メートル揚鉱管(ライザーパイプ)を海中に降下するタワーデリックが建造され、高さは約六〇メートル。遠目に見れば、深海掘削船のようだ。このエッフェル塔のようなやぐらを使って長さ約二〇メートルの揚鉱管を次々に連結し、水深数千メートルの海台まで一気に打ち下ろす。まさに採鉱システムの要だ。

 タワーデリック基底部には『ムーンプール』と呼ばれる幅一〇メートル四方の開口部がある。
ここは文字通り、プールのように海面に開け、機材や揚鉱管を海中に降下するのに使われる。『プール』といっても遊泳用ではなく、『ムーン』といっても夜空に浮かぶ月と直接関係があるわけではない。
 ムーンプールを取り囲む、上甲板から下層にかけて三階層からなるワーキングエリアには、水中機器や無人潜水機を降下したり、揚鉱管のメンテナンスを行う為の幾種類ものクレーンやウィンチが備え付けられ、大人の腰の高さほどの黄色い柵が張り巡らされている。他にもクレーンのオペレーションブース、作業台車、道具箱などが設置され、さながら三階建て工場のような様相だ。

「いつから建造を?」
「一九四年から一九八年にかけてだ。それ以前はドリルシップ型の作業船で実験を繰り返していた。大半はコンピュータ・シミュレーション技術の賜だ。安全と省コストの為にな」
「どんな風に」
「最初は無人探査機やプローブで徹底的にデータを集め、解析システムの中にティターン海台とそっくりな環境を作り出す。その中で掘削機や採鉱機を設計し、採鉱実験をするんだ。数人の技術者と専用コンピュータがあれば、従来百人がかりでやっていた設計や実験が手間もコストも十分の一で済む」
「その技術もMIGで開発を?」
「会社を丸ごと買収した。この技術が注目されるずっと以前にな。社員十人の小さな会社だったが、みな必死でやってくれたよ。今はその有償開放特許のロイヤリティだけで目抜き通りにビルが建つ。噂を聞いて後から真似しても、もう遅い。何事もタッチアンドゴーだ。先行者が一番多くを得る」

口先だけでなく、判断、行動、人望、全てにおいて桁違いの人物を目の前にして、ヴァルターは己の卑小さが骨身にしみる。甲板で悔しさを滲ませていると、アルが言う。

「人間とは孤独なものだ。本当に知りたい答えを誰かが教えてくれることは滅多にない。たとえ今、父親が生きていても、答えられないことの方がきっと多い。お前はもう幼子ではないし、父親と違う人生を生きてるからだ。それでも心の中に話しかける相手が居るのは良いことだ。神でも、死んだ父親でも、絶対的に信じられるものがあれば、人は強くなれる。誘惑に負けて、道を踏み外すこともない。だが、それも突き詰めれば、聞いているのは自分自身の声だ。分かりやすく言えば、自分の中にも『父なるもの』が存在するということだよ。海の彼方に探さずとも、お前は既に答えを知っている。それだけの知恵を父親が授けてくれた。ある意味、父親の人生を、お前自身がもう一度生き直しているようなものだ。記憶の声を手がかりに」
「だが、何故そうまでアステリアにこだわる? まして海底鉱物資源の採掘なんて、ステラマリスの名うての専門家でもやらない」
「だが、そこに一点の可能性が見えれば、お前だってやらないか?」
「可能性?」
「要は『今成すか、永遠に成さないか』の違いだ。この世に百パーセント確実な事業などありはしない。条件が完璧に揃うのを待っていては、ホットドッグの屋台を引くことすらできはしない。目の前に解決すべき問題があり、それを解決する一つの手法がある。そうと分かれば、自ら動く、それだけの話だよ。あとは何が何でもやり遂げるという強い意志が仲間を呼び、知恵を磨き、資金を捻出し、難所に活路を見出す。時には運が味方することもある。お前の本当の誤りは、お前自身が諦めたことだ。たとえ『緑の堤防』が意匠の盗用に相当し、取り下げを余儀なくされたとしても、緑化堤防や人工地盤の必要性を信じるなら、どんな形でも訴え続けたはずだ。仲間の怒りを買っても、その場で踏ん張り、陰ながら復興ボランティアを支えることも出来ただろう。だが、お前は逃げ出した。その苦さがあるから、屁理屈ばかりこねて、自分は駄目だ、無力だと、落ち込むんじゃないかね」

アルの言葉に、微かに心が動いたその時、一隻のミニボートが猛スピードで近付いてくる。

乗っていたのは、アルの愛娘、エリザベスだった――。

PDFで読む

右上部のアイコン『ポップアップ』をクリックすると、ブラウザの全画面にPDFが表示されます。

サンプル版につき、保存や印刷はできません。よろしくご了承下さい。

フルスクリーンで見る


Product Notes

採鉱プラットフォームは、実際にソロモン沖で実験稼働中の『NAUTILUS Minerals』のプランを参考にしています。
http://www.nautilusminerals.com/irm/content/default.aspx

『Offshore Production System Definition and Cost Study』
NAUTILUS Minerals Document No:SL01-NSG-XSR-RPT-7105-001
『Seafloor mining robots and equipment nearing completion to mine for gold, silver and copper』
http://www.nextbigfuture.com./2013/10/seafloor-mining-robots-and-equipment.html

※あくまでイメージです。

プラットフォーム
Photo : http://www.nautilusminerals.com/i/photos/Aug07-2009/PSV-barge.jpg

こちらは採鉱プラットフォームのイメージ動画。
単純そうに見えるけども、水深を考えれば、相当に技術的に難しいのが窺えます。

こちらは地球上に実存する海底鉱物資源に関するビデオ。
生成の過程やロケーションなど、わかりやすく紹介されています。

You're here


Navigation