アルバトロス

4-2 ティターン海台と海底鉱物資源

2016年9月6日

ヴァルターはセス・ブライト専務から、ローレンシア海域の海底に広がる巨大なティターン海台と、これを被覆するクラスト、そこに含まれるニムロディウムについて説明を受ける。

「これがローレンシア島とティターン海台を横から見た海底地形図だ。ローレンシア島はテティス・プレートの西半分、凹型の地溝のような谷で分断された左側のプレートの縁に乗っている。島の東側の海底地形は二〇キロメートル沖から一気に落ち込み、水深四〇〇〇メートルの深海底に達する。その続きに存在するのがティターン海台だ。ティターン海台は凹型の溝をすっぽり埋め尽くすような形で盛り上がり、海底面からの比高は約一二〇〇メートル、頂部は水深三〇〇〇メートル下にある。全体になだらかな台形で、噴火口などは見当たらない。そして計測が正しければ、凹型の溝と一緒にティターン海台も東西に引っ張られ、年に一センチの割合で横に拡大している」

「再び激しい地殻変動を起こす可能性はゼロ?」

「それを言い出せば、一〇〇パーセント安全な場所など無いよ。ただ一つ確かなのは、テティス・プレートにおいて現在も活発に噴火している海底火山はないし、地震もゼロだ。もっとも、我々が気付いてないだけで、数千メートルの深海では、日夜ダイナミックな動きがあるかもしれない。だが、それを知るには、お金もないし、調査機材もない。深海調査の高度技能者もなければ、それを研究する人も僅少というのが現実だ」

「何処(いずこ)も同じだね」

「そうだ。海洋調査は陸上の地質調査と違って、とにかく金がかかるし人手も要る」

「Anno Dominiの末期、無人探査機『パイシーズ』が、みなみのうお座星域から一つの鉱石を持ち帰った。そこから発見された新元素ニムロディウムが恒星間飛行を可能にし、宇宙構造物の技術を劇的に変え、本格的な宇宙開発時代が幕を開けた。ニムロディウムはさながら魔法の添加物だ。鉄や銅などのコモンメタルに微量に添加することにより、高温、高圧といった過酷な環境に耐える強力な超合金を作り出す。有害な宇宙線も完全にシャットし、防腐効果も高い。まさにスーパーマテリアルだ。だが、時代遅れな宇宙開発法の隙を突いて、ファルコン・マイニング社がネンブロット最大のニムロディウムの産出地、ニムロデ鉱山を手中に収めてから世界の構図が変わった。本来、自由と公正の証である『宇宙の領土はいかなる国家にも属さない』という宇宙開発法を都合よく解釈して、事実上、一企業がニムロディウム市場を独占したんだよ。それを契機に、ファルコン・マイニング社は国際社会を左右するほど強大な力を持つようになった。なにせニムロディウムが無ければ、宇宙船も飛ばないし、宇宙植民地の地熱ジェネレーターも作動しない。供給がストップすれば、トリヴィアの大都市も一週間で機能停止に陥り、三億の人間があっという間に死滅する。いわば宇宙文明の命綱だ。そして、ニムロディウム発見から最初の一世紀、鉱業のみならず、政治経済、産業、学界までもがファルコン・マイニング社に左右される状態が続いたが、UST歴一一五年、画期的な精錬技術が誕生した。『真空直接電解法』だ。この精錬法を用いれば、低品位のニムロイド鉱石からも高純度のニムロディウムを効率よく製錬することができる。開発したのはノア・マクダエル。理事長の祖父で、MIGの基礎を築いた人だ」

「なるほど。一家総出でファルコン・マイニング社に反撃ののろしを上げるわけだな」

「私怨ではない。技術革命だ。ニムロディウムは激しい噴火や大きな地殻変動によって惑星深部から地表にもたらされ、鉱床の大半は地中の奥深くに存在する。高品位のニムロディウム鉱石を採掘するのに、地下数百メートルに坑道を掘り、摂氏四十度近い高温多湿の環境で、重さ二〇キロのマシーンを抱えて何年も岩盤を掘り続ければ、人間の身体がどうなるか、君にも想像がつくだろう。この宇宙文明の時代に信じられないかもしれないが、未だにそうした光景が鉱山の奥深くで繰り返されている。非合法の採掘現場も含めてだ。だが、大量のニムロディウムを含む鉱物が海底から完全自動化で採掘され、より簡易な方法で精製できれば、生産はもちろん、鉱業も、金属業も、産業全体が変わる。ニムロディウムのみならず、常用金属、希少金属ともに海底鉱物資源の活用が進めば、世界の構図も変わるだろう。我々の目指すゴールは技術による革命だ。そして、ティターン海台の採鉱プラットフォームがそのエポックとなる」

翌日には、アルがフォルトゥナ号で宇宙港に降り立つ。
機体に刻まれた「Fortes(フォルテース) fortuna(フォルトゥーナ) adjuvat(アドユウァト)。運命は強い者を助ける」の文言を鼻で嗤う。

「俺は『運命』なんて言葉は嫌いだが、それを口にする奴はもっと嫌いだ」
 彼はフォルトゥナ号に挑むように言った。
「運命なんてのは無責任な怠け者の言い訳だ。人が意思もって行動する限り、そこに運命が立ち入る隙などない。タヌキの理事長がこんな立派な宇宙船に乗れるのも、運命の加護ではなく、死に物狂いで働いた結果だろう。本当に運命が強い者を助けるなら、俺の父も運よく助かったはずだ」

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Product Notes

深海底には地上を遙かに凌駕する不思議で、壮大な地形が広がっています。
海が全部干上がったら、至る所、グランドキャニオンのような景観を目にすることができるでしょう。

海底地形図 海山
Photo : http://blog.geogarage.com/2012_11_04_archive.html

海底地形図 海底火山
Photo : http://www.nurp.noaa.gov/brothers1.htm

海底をマッピングする技術も日に日に進歩しています。
いずれ高性能の無人機が、もっと詳細で、もっと広範囲なデータを持ち帰るようになるでしょう。

それでもやっぱり火星探査の方が早いような気がしますが。

海山 海底地形図
Photo : https://goo.gl/h7rls0

地上からは決して見えませんが、こうしている間にも、深海底のどこかで溶岩が流出し、ガスが噴出し、堆積物が巨大化し、ダイナミックに生きているのです。

深海 ブラックスモーカー
Photo : https://goo.gl/AGPc76

ウォールのPhoto : http://joidesresolution.org/node/4386

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