アルバトロス

4-1 ローレンシア島と工業港

2016年9月6日
アルバトロス

不思議な運命の巡り合わせでアステリアにやって来たヴァルターは、アステリア産業の拠点であるローレンシア島の工業港を目にし、予想以上に開発が進んでいることに驚く。

 六十五年前、最初の海洋化学工業『JP(ジェイピー) SODA(ソーダ)』――海水から工業用の水酸化ナトリウムや酸化マグネシウムなどを製造する工場が北西部のメアリポートに設立されて以来、様々な関連産業が展開し、町並みも海岸に沿って南に東に広がっていった。
 宇宙港のある東側には、三つの埠頭からなる工業港、倉庫街、オフィス街が広がり、その様はステラマリスの地方の港湾都市とさして変わらない。人口は一時滞在者も含めれば七万人弱である。それで、これだけの係留施設や貯蔵設備、道路、橋梁などのインフラを完備しているのだから、意外と生産性は高いのかもしれない。

専務のセス・ブライトから、MIGとエンタープライズ社の資本関係などを聞くうち、すでに特殊鋼の分野で立派な業績を上げ、不動の地位を築いているにもかかわらず、なぜ最もリスキーな海底鉱物資源の採掘に乗り出すのか問いかける。

「だが、なぜそんなにまでして海底鉱物資源の採掘にこだわるんだ? ネンブロットに行けば、全長三〇〇メートルの無人掘削機がガンガン露天掘りしてると言うじゃないか」
「それは一部の金属鉱山や、石灰や陶石や珪石みたいな非金属鉱床に限った話だ。希少金属、とりわけニムロディウムはそうじゃない」
「未だに奴隷が手掘りしているとでも?」
「機械は使っているが、それに限りなく近い。TVのドキュメンタリー番組などで目にしたことはないか?」
「いや」
「だったら、一度は見ておくんだね。宇宙文明を支えているのは科学技術ではなく、鉱害病でボロボロになった人の手だと分かるから」

その後、アル・マクダエルの右腕、セス・ブライト専務の案内で『アステリア・エンタープライズ社』を訪ね、しばしの休息を取る。

だが、活気のある風景とは裏腹に、彼の心はいまだ投げやりだ。

 瞼を閉じると何故かしら母の顔が浮かび、何も告げずにここまで来たことに胸が痛んだが、今さら話し合ったところでマルセイユに帰るわけでもない。
 それに、さっきセス・ブライトに手渡した『死亡時意思確認書』のコピーが数日のうちにマルセイユのラクロワ邸に届くはずだ。母はショックを受けるだろうが、どうせ死に体も同然、今さら期待も同情もしないで欲しい。逆立ちしても、父のように立派な人間にはなれない。
それにしても、あんな書類を書かせるところを見ると、よほど危険なミッションを命じたいのか。
(まあ、いいさ)と彼は寝返りを打った。
 何処で死のうが、生きようが、俺にはどうでもいいことだ。
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