Introduction

  • みなみのうお座から持ち帰った一つの鉱石が宇宙開発を加速する。だが、それは鉱山会社による寡占の始まりでもあった。一党支配に風穴を空ける為、海底鉱物資源の採掘に挑む。
  • 愛する故郷は一夜で洪水で水没してしまう。父を失い、帰る家もなくしたヴァルターは、傷心の中、潜水艇のパイロットを志す。
  • 海洋社会の基盤作りに情報共有ネットワークの構築を目指す。行動を共にするうち、二人の絆も深まるが……。
  • マイニング社の脅迫と科学の良心の板挟みの中、極寒の火山島ウェストフィリアで深海調査に挑む。潜水艇からの実況は成功するのか。
  • 巨大な海上都市『パラディオン』の建設が進む中、断崖絶壁に立たされたヴァルターが目にしたものは……。

車、スマートフォン、TV、家電、etc。
私達の便利な暮らしは、様々な金属材料に支えられています。
その元となる鉱物資源がどこで、どのように採取され、製品に加工されるか、普段まったく気にかけない人も多いのではないでしょうか。
時に鉱物資源は紛争地域に偏在し、政治的、人道的に深刻な問題を引き起こしているケースもあります。

そんな中、もし、誰かが完全自動化された採鉱システムを確立したとしたら?

海底や月面など、これまで考えつかなかったような場所から大量の鉱物資源を採掘できるようになったとしたら?

この小説は『ニムロディウム』という架空の金属元素を中心に、鉱業、海底鉱物資源、深海調査、海洋情報ネットワーク、建築&デザインなどを通して描いた人間ドラマです。「これが生だったのか、それなら、よしもう一度」というニーチェの生の哲学と、親子愛や男女の愛をテーマにしています。

本作を通じて海洋科学や鉱業、建築デザインなどに興味をもって頂ければ嬉しいです。

Chapter

第一章 運命と意思

海底鉱物資源の採掘に挑むアルは潜水艇パイロットのヴァルターに出会う。彼が密かに描く『リング』の鳥瞰図を目にしてから、新たな運命の輪が回り始める。その絵には、大洪水で命を落とした父の思い出と「これが生だったのか、よし、もう一度」の願いが込められていた。 

第二章 採鉱プラットフォーム

海台クラストの本採掘に向けて、洋上プラットフォームでは急ピッチで準備が進む。ヴァルターは水深3000メートルでの接続作業に挑むが、古参スタッフと意見が合わず、ミッションにも懐疑的だ。そんな中、アルの美しい一人娘リズに出会う。二人は次第に心を開くようになる。  

第三章 海洋情報ネットワーク

ファルコン・マイニング社の進出に戦々恐々とする中、ヴァルターは海洋情報ネットワークを構築し、社会の基盤とすることを提案する。ヴァルターとリズは行動を共にするが、距離が近づくにつれ、次第に齟齬をきたすようになる。そこに美しい又従妹が現れ、二人を挑発する。  

第四章 ウェストフィリア

開発公団の要請を受け、北方のウェストフィリアの深海調査に参加する。氷に閉ざされた巨大な火山島には、青い貴石をめぐる悲話があった。調査にはファーラー社長も同行し、虚偽の報告をするように迫る。科学の良心と脅迫の狭間で、ヴァルターは潜水艇から実況を開始する。  

第四章 指輪

アステリアへの関心が高まる中、アルは有名議員の息子との見合いを画策し、リズは心ならずもMIGの後継者として公の場に立つ。一方、ヴァルターはロイヤル・ボーデン社から示談解消の申し入れを受け、帰郷の念を募らせる。それぞれの想いが交錯する中、リングの行方は.。

第六章 断崖

社会の牽引役を失ったアステリアでは、混乱を尻目に、巨大海上都市『パラディオン』の建設に向けて大きく動き出す。ヴァルターとリズはそれぞれの立ち位置から懸命に働きかけるが、強硬な勢力の前に抗う術もない。断崖絶壁に立たされたヴァルターの目に映ったものは...。  

Title

第一章 運命と意思
第二章 採鉱プラットフォーム
第三章 海洋情報ネットワーク
第四章 ウェストフィリア
第五章 指輪
第六章 断崖

Concept

社会問題に関心の高い方なら、『紛争メタル(Conflict Metal)』という言葉を一度は耳にされたことがあると思います。
近年では、不正なダイヤモンド取引や強制労働、資金源などをテーマにした『ブラッド・ダイヤモンド』(レオナルド・ディカプリオ主演)という秀作もありました。

私が鉱業問題に興味をもったのは20代半ば、きっかけは中東情勢でした。あちらは石油ですけど、世界の主要な天然資源であることに変わりありません。
そして、世界中のあらゆる社会問題は、突き詰めれば、資源戦争です。私たちの豊かな生活はその上に成り立っています。
だからといって原始時代に逆行できるか? 否ですよね。
スマホもTVも自動車も手放せません。
この矛盾こそ世界の現実です。

かといって、日本もまったくの無力ではありません。すぐ足元に莫大な海底鉱物資源が眠っているんですから。
仮に、日本のベンチャー企業が採鉱システムを確立して、鉱物資源を輸出する側に回ったとしましょう。世界中がひっくり返りますよね。
開発者も、経営者も、ゴルゴ13みたいに暗殺されるかもしれない(ベンジャミン・フルフォード×さいとうたかをの世界) そんなマンガちっくな発想も取り入れながら小説にしたのが本作です。

海底鉱物資源の採鉱システムは、もはや夢物語ではなく、いろんな海洋機関やベンチャー企業が実用化に向けて研究を積み重ねています。
実際に、NAUTILUS Minerals という企業が何年も前から採鉱システムの構築に取り組んでおり、かなり具体的な情報を出しています(2012年には稼働するだろうと言われながら、いまだ手こずってますが)

一方、海洋行政に目を向ければ、NOAA(アメリカ海洋大気庁)などは非常にお金をかけて、気象、生物、地球物理学など、あらゆる方面にアプローチし、社会の啓蒙に一役買っています。

対して、日本は四方を海に囲まれた海洋国にもかかわらず、研究開発を軽視し、後進の育成にも消極的です。
公的機関のウェブサイトも、いまだに20年ぐらい前のデザインでしょぼしょぼやってる。国をあげて支援しようという姿勢も皆無です。
世界に誇る海洋調査船や優秀な海洋科学者を輩出しながら、本当に宝の持ち腐れです。

一方、今ほど未来への発想の転換を迫られている時代もありません。 現時点では荒唐無稽と思えるアイデアも、数年後、数十年後には、どれほど素晴らしいイノベーションに発展するか分かりません。
大事なのは、アイデアに込められた理念と、必ず成し遂げるという強い意思。それが本作のテーマです。

Reference

一番苦労したのは、架空の海台や海底火山を創出することです。

機械を描く能力はないので、私が絵師の真似事をすると、こんな感じです。
知らない間に子供に落書きされています。

私が構想を練り始めた頃はインターネットもなく、図書館と本屋だけが頼りでした。
海洋科学や海洋工学を扱った資料など皆無に等しく(大学に行けばあるのでしょうが)、まして海外の企業や研究所の資料を閲覧するなど夢のまた夢でした。

それがITの発達で、ドキュメントのみならず、動画、音声、PDF、ありとあらゆる資料が瞬時に手に入るようになりました。
昔みたいにプリントアウトして整理しなくても、今はEVERNOTEとか便利なツールもいっぱいありますしね。
まさにITに助けられた執筆です。

参考文献

本作の根幹をなすテーマ「これが生だったのか、よし、もう一度」の哲学書です。
翻訳はいくつかありますが、私の一押しは高名なドイツ文学者、手塚富雄先生の訳本です。
ツァラトゥストラ (中公文庫) ニーチェ (著), 手塚 富雄 (翻訳)

海洋に関する文献を集めていた時、非常に分かりやすかったのが海洋科学センター(現・JAMSTEC)の理事長だった堀田宏先生の著作です。
実際にお会いして、励まされ、慰められ、ここまできました。
『しんかい』は今でも私の夢です。
深海底からみた地球 〈「しんかい6500」がさぐる世界〉

図書館で偶然手にしたこの本が無ければ、本作は誕生しませんでした。
本作に登場する『リング』は、この本で紹介されている清水建設の『マリネーション構想』がベースになっています。
建設業の21世紀巨大プロジェクト

その他の参考文献やURLはこちらに紹介しています。

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