音楽

マイ・ファニー・バレンタイン ~永遠の恋を歌う~

2010年4月27日

本当に人を恋したら、どんな不格好でも愛しく思えるものだ。

「もっと綺麗だったら」
「もっと優しかったら」

そんな身勝手な要求とはかけ離れたところで、その人のすべてが愛おしく感じられる。

たとえその人が鼻を垂らしていても、その鼻水さえどこか可愛く見えてしまうくらい――。

『恋』というのは、それほど不可思議な魔力を持ったものなのだ。

*

本当の恋は、相手の変化を望まない。
あるがままのその人を愛してやまないのである。

*

1955年に映画化されたミュージカル「ジェントルメン・マリー・ブルーネット」(1937年作)のナンバーで、永遠のスタンダードとも言うべき『My Funny Valentine』は、サラ・ヴォーン、カーメン・マクレエといったジャズ・ヴォーカルの大御所から、ビル・エバンス、マイルス・デイビス、オスカー・ピーターソンといったインストゥルメンタルの神様に至るまで、演奏していない人はないのではないかと思うくらい、実に様々なアーティストに愛されてきた。

ロマンティックなタイトルとメロディからはちょっと想像つかないような、「お茶目なバレンタイン」への想い。

ここで語られるミスター・バレンタインは、決して男前ではないけれど、陽気で、ユーモアがあって、女性の心を和ませるような、ハートウォームな男性である。

彼女もまさかこんなファニーな男性に夢中になるとは思いもしなかったのだろう。

だからこそ、余計でこの恋が愛おしく思えてならない。

いつまでも、いつまでも、このままでいて欲しいと思う。

この曲は、愛する悦びに満ちあふれたバラードであり、ゆえに誰もが幸福感を味わうことができる。

ロマンティックな旋律に、あえてFunnyな歌詞を合わせたところが、いつまでも飽かれることなく歌い継がれてきた所以ではないだろうか。

§ 『マイ・ファニー・バレンタイン』を聞く

「マイ・ファニー・バレンタイン」は珠玉のスタンダードだけあって、今に残されている作品も名演ぞろいである。

しかし、私が一番強く惹き付けられたのは、カーメン・マクレエの「マイ・ファニー・バレンタイン」だ。

「恋の歌」というよりは、ちょっと倦怠期の恋人のようなアンニュイな節回し。
「若い恋」というよりは、年季のいったオバさんのようなしっとりとした歌声。

「これぞラブ・バラード」という歌い方で、面白くない人には面白くないかもしれないが、私は惹かれた。
歌詞がロマンティックなだけに、ちょっと抑えた感じの歌い方が心地良くて、それまであまりにスタンダード過ぎるがゆえに心に残らなかった「マイ・ファニー・バレンタイン」が、特別な存在になったのだ。

別に、格好よくなくたっていいのだ。
お洒落でなくてもいいし。

でも、本当に、側にいて欲しい人に捧げたい。

恋というよりは甘えるような親しみを込めたマクレエの「マイ・ファニー・バレンタイン」である。


My Funny Valentine
(feat. Chaka Khan)

My funny Valentine
Sweet comic Valentine
You make me smile with my heart

Your looks are laughable
Unphotographable
Yet you’re my fav’rite work of art

Is your figure less than Greek
Is your mouth a little weak
When you open it to speak
Are you smart?

Don’t change a hair for me
Not if you care for me
Stay little Valentine
Stay!
Each day is valentine’s day

Is your figure less than Greek
Is your mouth a little weak
When you open it to speak
Are you smart?

Don’t change a hair for me
Not if you care for me
Stay little Valentine
Stay, oh stay!
Each day is valentine’s day

私のお茶目なバレンタイン
優しく 可笑しな バレンタイン
あなたは心から私を笑わせてくれる

あなたの見かけはおかしくて
とても写真向きとは言えないけれど、
あなたこそまさに私の愛する芸術作品だわ

ギリシャ彫刻には程遠いし
口元にもしまりがない
口を開けば 
とても知的とは言えないけれど

私の為に髪の毛一本 変えたりしないで
私のことを愛しているなら
いつまでもそのままで
愛しのバレンタイン

私には毎日がバレンタインデー

こちらは私が大好きな『All My Life』。カーメンの歌声を聴くだけで、胸がキューンと切なくなってくる。


正当派ジャズ・ヴォーカルを堪能するなら、カーメン・マクレエがお薦め。
彼女の真髄が結晶したような素晴らしい名盤です。
同時収録の「All my life」「I can’t escape from you」も心にしみいるようなラブ・バラード。
ふくよかで、女性らしいマクレエの歌唱をお楽しみ下さい。
Amazonで試聴できます。

*

現代的な「マイ・ファニー・バレンタイン」を堪能するなら、女優ミシェル・ファイファーの歌声がお洒落。

これは、冴えないジャズ・プレイヤー兄弟の「ファビュラス・ベイカー・ボーイズ」が、人気の巻き返しを図るために美しい女性シンガーを仲間に加え、一躍注目を集めるものの、弟と彼女の恋が深まるにつれ、三人の人間関係も微妙に揺れ動く過程を描いた映画『恋のゆくえ ~ファビュラス・ベイカー・ボーイズ~』に収録されたもの。

ここでは、女優のミシェルが本職顔負けの素晴らしいヴォーカルを披露し、デイブ・グルーシンらが手掛けた音楽は、グラミー賞など様々な音楽賞を受賞した。


新メンバーのスーザン(ミシェル・ファイファー)が加わったファビュラス・ベイカー・ボーイズのステージは予想以上の反響で、彼らのライブには大勢の客が押し掛けるようになる。
こちらは、その他の映画(「ホット・ショット」「裸の銃を持つ男」など)で何度もパロディ化されたことのある、ミシェルの美しいパフォーマンス。

ミュージカル映画の『シカゴ』でも、レネ・ゼルウィガーがピアノの上に乗って、夫ジェームスの愚かさを熱唱しますが、パフォーマンスとしてはやはりミシェルの方が美しくセクシーですね。
映画史に残る名場面です。

アイテム

デイブ・グルーシン(アニメ・スヌーピーの音楽を作曲した人)が手掛けているだけあって、曲の美しさと爽やかさは随一。
グラミー賞のベスト・サントラ、ベスト・アレンジの2賞を受賞するほどのクオリティで、ジャズのCDとしても楽しめる内容となっている。

落ちぶれるラウンジの将来を案じ、ピアニスト兄弟は女性ミュージシャンを迎え入れるが、彼女の存在は兄弟仲を揺るがせ、演奏活動にも影響するようになる。
これぞ「大人の恋」といったお洒落な雰囲気もいい。
兄貴の容姿が”それなり”なので、三角関係というよりは、「厳格なマネージャーと恋にうつつを抜かす年下ミュージシャンの掛け合い」という感じで、下手にドロドロしてないのも印象UPです。

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