2009年6月の突然の死により、幻となってしまったマイケル・ジャクソンの最後の公演『THIS IS IT』。
そのリハーサルの模様が一本のフィルムにまとめられ、世界中で公開されている。
流行すたりから縁遠い我が町でも、2週間限定で公開され、私も平日の昼間に観に行った。
観客は、私を含めて10名ほど。
いずれも、マイケルの「スリラー」が大ヒットした時、産声をあげたような若い子ばかりだった。
1982年のポーランドと言えば、民主化運動を制圧するために全土に布告された戒厳令(マーシャルロー)の真っ只中。
1983年に戒厳令が解除されるまで、ポーランドはこんな状態だった。
マイケル・ジャクソンの『Beat It』も『スリラー』も、どこにも聞こえない。
§ マイケルとの出会い
『マイケル・ジャクソンの何がそんなにスゴかったのか (ひょうきん族のパフォーマンス付き)』にも書いたけど、私が初めて『スリラー』を見たのは、大学生が集うジャズ喫茶でのこと。
それまで、「ダンス」と言えば、ジョン・トラボルタの『サタデーナイト・フィーバー』やピンクレディーの「ユーフォー」みたいなイメージしかなかったから、マイケルの切れ味鋭い踊りを見た時は、先輩とのお喋りも忘れてモニターに目が釘付けになったし、ゾンビたちの一糸乱れぬ群舞にも圧倒されたものだ。
「新しい」というよりは、時代への挑戦。
それまで一つの王道をなぞらえていた道筋が、この瞬間から、確かに変わった。
『(スターと呼ばれるにふさわしい)スター』による、よりパワフルで、より刺激的な、エンターテイメント時代の到来である。
「スリラー」の後は、『BAD』『Remember the Time』『In the Closet』『Smooth Criminal』など、世界的ヒット曲を立て続けに飛ばし、こわいものなしだったマイケル。
彼の天下は永久に続くかと思われた。
これが現れるまでは。
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私もポップスにそこまで詳しくないので、断言は出来ないけれど、90年代初めにコレが出てきてから、流れが大きく変わったと思う。
マイケルの踊りを「正統派」とするなら、こちらはドラマも抑揚もないストリートダンス。
歌詞もなければサビもなく、早口言葉に音楽をくっつけたようなワンパターンなフレーズの繰り返しだ。
でも、新しかった。
マイケルに慣れきった若者の目には、非常にクールに見えた。
MCハマーは日本でも大ブレイクし、それまでどこか遠い存在だったラップやヒップホップが一気に急浮上した。
昔ながらの「ポップス」はもう流行らなくなり、「何を歌ってんだか分からない」、言葉の弾丸みたいな音楽が支持されるようになった。
マイケルのヒット曲が頭打ちになり、スキャンダルが次々に湧いて出たのもこの頃だ。
ヒットチャートで彼の名前を目にすることはなく、ゴシップ誌がそれに替わった。
破産も噂された。
アーティストとしても終わりだと、見放す人もあった。
それだけに、2009年3月、突如としてファンの前に現れ、ファイナル公演『This is it』が宣言された時は本当に驚いた。
まだ演れるのかと、本気で心配になった。
そして、公演が近づきつつある6月。
突然の訃報を聞いた。
一瞬、頭をかすめたのは、「毒殺」であり、「薬物自殺」だった。
それくらい私生活は身近な人間の裏切りやスキャンダルに苦しめられたマイケル。
公式発表では「事故死」であり、主治医の「過失致死」とされているが、もしかしたら、マイケルは公演のプレッシャーに耐えきれず、自ら致死量の睡眠剤を欲したのではないか、と思うこともあった。
私が映画『This is it』に足を運んだのは、80年代というサブカルチャーの繚乱期を彩ってくれた人への敬意もあるけれど、それ以上に、「事実を確かめたかった」という気持ちが強い。
『事実』──それは、マイケルが本当に生きたがっていたか否か、という点である。
だが、私の心配はまったくもって「的外れ」なものだった。
マイケルのことなど何も分かってなかった。
リハーサル中の彼は、最高の舞台を創り上げるべく、持てる力のすべてを尽くして、世界に挑んでいるように見えた。
そこにスキャンダルや苦悩の影は微塵もなく、「稀代のエンターティナー」としての輝きがあるばかりだった。
映画の冒頭では、マイケルのバックダンサーを選出するオーディションの模様を見ることができる。
会場をぎっしりと埋め尽くした若いダンサーの大半は、「スリラー」や「Beat it」をリアルに体験したことのない世代だ。
そんな一回りも二回りも年の違うダンサーの中にあって、マイケルの踊りは依然として切れ味鋭い。
これがしばらくヒットチャートを遠ざかり、「もう終わった」とまで言われた人の踊りかと目を疑うほどだ。
声も、肉体も、50歳という年齢のハンディをまったく感じさせず、この公演が成功していたら『マイケル・ジャクソン完全復活』を誰もが納得したことと思う。
『This is it』では、「スリラー」「smooth criminal」といった往年のヒット曲が現代風に演出され、ショートフィルムも取り込んだ、非常に大掛かりな舞台になるはずだった。
あれをリアルに体験していない若いダンサーも、想像の翼を羽ばたかせ、生まれ変わった「スリラー」「smooth criminal」を、新旧のファンに見せつけたかったにちがいない。
それだけに、どれほど無念だったかと思う。
絶対に生きて、公演をやり遂げたかったはずだ。
それだけの自信もあった。
実力もあった。
ないのは、ただ、安らかな眠りと心地よい目覚めだけ──。
あの夜も、マイケルは、ただ「眠りたかった」だけなのだ。
普通の人と同じように、柔らかな布団の中で、ぐっすりと。
誰一人として本当の意味でマイケルの力になることは出来なかった。
悲しいというなら、理解されない悲しみが一番深い。
今、世界中で、マイケルのCDやDVDが飛ぶように売れている。
リアルに体験していない世代も、「こんなアーティストがいたのか」と、目が覚めるような思いで見つめていることだろう。
戒厳令の下で産声を上げたポーランドの若い観客も、親でさえ知らないマイケルのパフォーマンスに、多分、同じことを感じていると思う。
でも、マイケルの本当の希みは、Thit was ではなく、This is.
今、この瞬間、ここに在ることだった。
志半ばに倒れた彼の無念を思うと、「生きる」ということが何よりの力であり、彼もまた若い人たちにそれを強く願っているような気がしてならないのである。
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映画ではチラとしか映されなかった新バージョン「スリラー」「スムース・クリミナル」の全編が収録されている上、オーディション風景(これが圧巻)、バックミュージシャンやダンサーのリハーサル風景など、プラスアルファの映像もたっぷり特典付きです。
幻となってしまった「THIS IS IT」のステージですが、リハーサルだけでも、その迫力は十分伝わってくるのではないでしょうか。
50歳を過ぎてなお切れ味鋭いマイケルのパフォーマンスは、ファンでなくても胸を打つものがあります。
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日本では、「キング・オブ・ポップ-ジャパン・エディション」の方が売れているようだけど、私のおすすめはこちら。まさに「網羅」のベスト盤なので。
アメリカに行った時、衝動買いした。
まさかこんな形でメモリアルになるとは思わなかった。


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