音楽

ザ・ポリス&スティングの聴き方 『孤独のメッセージ』と『ウォーキング・オン・ザ・ムーン』

2012年2月14日

スティングもいろんな語録を残している人だが、私が一番好きな言葉は、

オレより上手に歌うやつはたくさんいるが、オレのように歌えるやつはいない

これが『自尊心』。

本当の意味での『自信』というものです。

歌に限らず、絵でも、ダンスでも、仕事でも、恋愛でも、自分より優れた人間はたくさんいるもの。──にもかかわらず、自分の持ち味を自分自身で理解し、それを「何ものにも恥じない」気持ち、それが生涯を貫く自尊心であり、揺るぎない自己への信頼、そしてこの世の中でしっかり生きて行く為の力の源になるものだと思います。

私がこの言葉に出会ったのは20代前半でしたが、その後の生き方を支える座右の銘であり続けました。今でも自分のスタイルに自信がもてなくなると、この言葉を思い出します。

一流のプロを目指して地方から出てきたスティングも、第一線で活躍する有名アーティストを間近に見て、力量の違いに打ちのめされたと言います。その時、自分を支えたのが「オレのように歌えるやつはいない」という気付きでした。誰に言われなくても、自分でそう思える、という時点で、器が違います。

実際、スティングの声も歌い方も、ハスキーな中に不思議な透明感があり、メロディから浮き上がるような感じですよね。彼と同じ声質の人は今も昔も存在しないし、聞けば一発でスティングと分かる個性があります。

で。

今の「おじさんスティング」や、世界的に知られてるヒット曲、あるいはクラシックに帰依したような最新作しか聞いたことがない人には、多分、スティングの本当の凄味は分かりにくいんじゃないかと思います。まして、ザ・ポリスの時代になると、UKの遺跡のようですよね。イマドキの流行曲しか興味のない人や、デビュー・アルバムから通して聴いたことがない人なら、「ああ、この曲なら聞いたことがあるけど、で、何がどうスゴイの?」と思うんじゃないでしょうか。

まず、ザ・ポリスの凄いところは、1978年のアルバム・デビューから、1最後となった5枚目のアルバム「シンクロニシティー」をリリースした1983年までの短い期間に、次々に音楽のスタイルを変え、「似たような曲調が一つもない」、という点なんですね。(厳密に言えば似通ったのはありますけど、アルバムに関しては一枚一枚が完全に異なります)

ヘンな喩えですが、たとえば、オフコースや松任谷由実の作る曲って、スタイルとしてはずっと似たような感じですよね。もちろん、一つ一つは名曲だし、歌詞も素晴らしいけども、基本的に「オフコース風」「ユーミン風」のスタイルが変わることはない。それがまた彼らの個性であり、魅力なのですけれど。

ところが、ザ・ポリスは、一枚一枚、異なるスタイルを打ち出してくる。

その前までパンクみたいなのやってませんでした? レゲエっぽいのもありましたよね。で、今度は、ジャズ風ですか。正当派ポップスもあるし、スタンダードなラブバラードも作っちゃいましたね、って感じで、非常にバラエティに富んでいるのです。アルバムがリリースされる度に、「全然ちゃうやん、前のと!」という新鮮な出会いがあるのですよ。これは誰にでも出来そうで、真似できるものじゃないです。

正直、有名で売れてる歌手のアルバムでも、似たような曲がだらだら続いて、BGMみたいに流れ去ることが多いじゃないですか。

その点、ザ・ポリスは、一つ一つが確実に耳に残って、BGMみたいに流れ去りません。どれがどの曲か、歌詞もタイトルも思い出せます。それは私がコアなファンだからではなく、それだけバラエティに富んでいるからです。特に、「ゼニヤッタ・モンダッタ」「ゴースト・イン・ザ・マシーン」「シンクロニシティー」の3作は圧巻。

もちろん、曲を作るのはスティング一人ではなく、アンディ・サマーやスチュワート・コープランドの作品も混じっているから、一曲一曲、趣きが異なるのは当たり前ですけど、それを差し引いても、本当にバラティに富んでいます。

そんなザ・ポリスにとって最初の分岐点になったのが『孤独のメッセージ(Message in a bottle)』。

初めてこの曲を聴いたのは中学生の時、FM大阪のPOPSベストテンを聞き始めた頃でした。

それまでもジャズや映画音楽、ハードロック、イージーリスニングなど、いろんなジャンルの音楽に親しんでいて(FM京都リクエストアワーのおかげ)、かなり耳の肥えたマセガキだったのですが、それでも『孤独のメッセージ』を初めて耳にした時は「なに、これ?」と思いました。スティングの「ささやきシャウト」な歌声はもちろん、2音階か3音階ぐらいの狭い音域で淡々と進むメロディライン、でも妙に印象的、それこそどんなジャンルにも分類できないような新しさを感じ、しばらく宿題をする手を止め、ラジオの側でじっと耳を傾けていたものです。好きでも嫌いでもないけれど、一度聞いたら忘れられない曲、それが『孤独のメッセージ』でした。


それからしばらくしてヒットチャートから姿を消し、ザ・ポリスの名前もすっかり忘れていた頃、再び、ラジオに釘付けになる日がやって来ました。

次のヒット曲、『ウォーキング・オン・ザ・ムーン』です。

「デッデデー」という印象的なベースに始まり、宇宙にこだまするようなリードギターがそれに応える。そして天から振ってくるようなスティングの甲高いヴォーカル。

じゃいやーん・すてっぷさー・うぁっちゃってっ・うぉ~きん・おん・ざ・む~ん(中学生の耳にはそう聞こえた)

その時、ラジオの側で思ったものです。「あ、この人、すごい才能があるんだ。『ザ・ポリス』ってバンド、タダモノやないな」と。

ちなみに、スティングは、この演奏について、ジャズ界の大御所ベーシスト、ロン・カーターに「君のベースは素敵だ」と褒められ、すごく嬉しかったそうですよ。彼も人の子ですね。


その後も「De Do Do Do, De Da Da Da」、市場狙いみたいな明るいラブソング「Every Little Thing She Does Is Magic」、鼻血が出るほど好きだった「シンクロニシティ」といったヒット曲を連発し、POPSベストテンの常連にして土曜の午後の心の友(学校が終わって昼ご飯を食べてから夜までずっとFMラジオにかじりついていたので)だったザ・ポリス。
最後のアルバムでは、はるか形而上学の彼方に飛び去ってしまったような彼ら(というよりスティング)が解散宣言をした時は、「ああ、やっぱり」という気持ち半分、「生きたまま伝説にするつもりやな?!」という怒りのようなものも湧いてきて、スティング一人に振り回されたような気分でした。実際、そうやったんやろね、と思います。スチュワート・コープランドと決定的に合わないのは、ライブのビデオ見てても分かったし。

*

かくして『ザ・ポリス』は地球上から消滅し、今頃になって再結成して、世界中を回っているわけですが(曲調も全然ちゃうがな・・)、私の中では既に終わっちゃったグループだし、今でも繰り返し聞くのは70年~80年代のオリジナルの音源ばかりで、最近の演奏にはほとんど興味がありません。

私はやっぱり「やんちゃ」やってた頃のスティングが大好きで、次から次に新しい音楽を打ち出して、業界の重鎮や大物アーティストを挑発するようなザ・ポリスの野心と「あざとさ」に憧れていました。

ゆえに、悟りを開いた好々爺のようなスティングは、「意外」というより「老いの教則本」を見るようで、もはや有り難い気持ちを通り越し、限りなく「退屈」に近いです。でもそれはスティングのせいではなく、良い意味で年を重ねるとはそういうことなのだと思います。かえってスティングが品性のかけらもない「不良老人」だったら、それはそれで軽蔑したでしょうし。

*

そんなポリスの魅力の一つは、スティングの書く歌詞が非常に平易で理解しやすい、という点です。

『Message in a bottle』を見ても分かるように、中高生でもヒアリングできる内容でしょう。

歌詞を全部見る→

Just a castaway
An inland lost at sea
Another lonely day
No-one here but me
More loneliness
Than any man could bear
Rescue me before I fall into despair

I’ll send an SOS to the world

I hope that someone gets my

Message in a bottle

ザ・ポリスやスティングに限らず、70~80年代のヒット曲って、大半が平易で耳にやさしいんですね。さすがにパンクは聞き取りにくいですが、クイーンでも、ビリー・ジョエルでも、シャウト系のハードロックすらも、とにかく歌詞が分かりやすく、発音も明瞭。今時の流行歌みたいに韻もヘチマもなく長いセンテンスでだらだら歌わないから、中高生でも基本の英単語や文法をキャッチできたのです。

私も、歌詞の内容が完全に理解できたわけではないけれど、『孤独のメッセージ』なら、歌詞カードなど見なくても、「僕はSOSを世界中に送るんだ」とか「モア・ロンリネス・もっと孤独だった」とか「レスキュー・ミー」ぐらいならキャッチできたし、その他のヒット曲もやはりそんな感じだったので、すごく親しみやすかったです。

英語だけは成績が良かったのは、ほんと、70~80年代の洋楽POPSとハリウッド映画のおかげなんですよ。英語教材のヒアリング・マラソンじゃないけど、毎日数時間はぶっ通しで聞いてましたからね、ほんと。

ちなみに、アメリカン・ポップスよりUKアーティストの方が、英語は聞き取りやすいです。映画も純正ハリウッドよりイギリス人俳優がリードする作品の方が耳にやさしいです。

*

今でもザ・ポリスのベスト盤2枚組なんかを最初から聞いていると、まず「孤独のメッセージ」「ウォーキング・オン・ザ・ムーン」で惹きつけられ、「Every Little Thing She Does Is Magic」で胸がしめつけられ、「シンクロニシティ1&2」で鼻血が出ます。
私にとってスティング&ザ・ポリスと言えば、昔も今もこれからも、コレ↓ なのです。


ラスト・パートのメロディの美しさは溜め息もの。この頃からスティングはコープランドに目もくれない・・
アンディとばかり踊って・・くく・・


関連アイテム

パンク、ニューウェーブ、レゲエから王道ポップスまで、多彩な要素を飲み込んだ偉大なるユニット、ポリス。本作は、その道程を観望できるベスト盤である。シングルを中心にした妥当な選曲だが、やはりポリスはアルバム単位で聴くべきでは…と思うのが正直なファン心理だ。とはいえ、初心者がいきなり『シンクロニシティ』から入るのは難しいかもしれない。とりあえず最初の1枚、という入門盤としては最適な1枚だろうか。(麻路 稔)

麻路さんの仰る通りです。ポリスほどストーリー性のあるバンドは他にないです。
一作目の「アウトランドス・ダムール」から最後のアルバム「シンクロニシティ」まで、まるで一編の小説を読んでる感じですもん。
でも、そこまでカネが回らんわい! という方には、こちらの2枚組ベスト盤をどうぞ。
選曲も美味しいところをすべて抑えてます。

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