映画

角川映画 エンターテイメントの極致 沢田研二&千葉真一『魔界転生』

2012年2月13日

この映画を見に行ったのは1981年、中学生の時。

当時、TVで繰り返し流されていた沢田研二と真田広之のキスシーンに魅了されたからです。

『沢田研二』と言えば、私のお姉さん世代が夢中になった「ザ・タイガース」というバンドのヴォーカリストで、解散後はソロとして活躍、「勝手にしやがれ」や「TOKIO」といった国民的ヒット曲を連発していました。

また演技やパフォーマンスの才能もあり、ドリフターズの志村けんや加藤茶に絡んで爆笑コントを披露したり、本当に多芸多才でした。

今でこそ男性が化粧するのも珍しくないですが、バッチリのオカマメイクで登場したのは、歌手としては沢田研二が最初じゃないかと思います。(忌野清志郎さんも化粧されてましたが、清志郎さんはステージがメインだったので)

チャレンジ精神も旺盛で、巨大な気球を背負って歌ったり、ステージから客席に帽子を投げたり、ウイスキーを口にしたり、まさに「スター」と呼ぶにふさわしいスターだったと思います。

一方、真田広之はJAC(ジャパンアクションクラブ)の若手ホープとして登場し、千葉真一のお墨付きもあって、角川映画を中心に顔を売り始めた頃。

そんな沢田研二と真田広之が邦画としては初めて(かな?)の男同士のキスシーンを披露するとあっては、行かないわけはない。

しかも、千葉真一、緒形拳、若山富三郎、丹波哲郎など、日本映画を代表する剣豪(?)が共演。

まさに旬のカボチャの美味いところだけ切り取って、ハロウィンの魔女もビックリの豪華エンターテイメント・パンプキンパイに仕上げたのがこの『魔界転生』。

今の若い人が見ても、妖しすぎる魔界衆にきっと心を奪われるはずです。

真田広之と沢田研二の妖しいキスシーン・・
魔界転生

『魔界転生』の原作は山田風太郎。

[asa comment=”島原の乱に敗れ、幕府への復讐を誓う天草側の軍師、森宗意軒は死者再生の秘術「魔界転生」を編み出した。それは、人生に強い不満を抱く比類なき生命力の持ち主を、魂だけ魔物として現世に再誕させる超忍法だった。次々と魔界から蘇る最強の武芸者軍団。魔人たちを配下に得た森宗意軒は紀伊大納言頼宣をも引き込み、ついに柳生十兵衛へと魔の手を伸ばす…。群を抜く着想と圧倒的スケールで繰り広げられる忍法帖の最高傑作。”]4041356717[/asa]

深作欣二が監督した1981年版は、観客が物語を理解しやすいよう登場人物を絞り込み、余計なエピソードを削いで時代活劇のように仕上げています。


島原の乱は徳川幕府軍の圧倒的な勝利に終わり、最期まで島原城にこもって戦い続けたキリシタンたちはことごとく惨殺されました。

そのあまりの地獄絵に、キリシタンを率いた天草四郎は神の教えに別れを告げ、徳川幕府に復讐すべく、暗黒の力と結託します。

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我は求め訴えたり」という黒魔術の呪文を唱えて。

魔界転生

天草四郎が最初に魔界衆に加えたのが、細川ガラシャ夫人。夫・細川忠興公の裏切りにより非業の最期を遂げたキリシタンにして絶世の美女です。

細川家の菩提寺・秦勝寺にて、村からさらってきた娘の身体にガラシャ夫人の御霊を憑依させる四郎。

やはり沢田研二は実力派歌手だけあって、「あんだらば~、さらば~ん、む~~んん」という呪文にエコーがかかって、ものすごく上手い。
また、霊界を漂うガラシャの声を演じている女優さん(名前が分からない!!)も素晴らしく、この場面を見るだけでも価値があります。

ちなみに、うちの姉妹間では、忠興公の「見事じゃ! その貞女ぶり! この忠興、畏れ多くて、近寄ることもできぬ!」という台詞が流行りました。相手が何かムカつくことを言うたら、「見事じゃ!」と反論するの(楽しい子供時代♪)

さらに老齢と病で無念のうちに命を落とした宮本武蔵、女性への煩悩が断ち切れず、自らを恥じて命を絶った宝蔵院胤瞬、甲賀忍者の奇襲により伊賀の里を滅ぼされた美しい若者・霧丸を転生させ、徳川幕府を混乱に陥れるべく江戸に向かいます。

まず転生したガラシャ夫人が「お玉の方」と名乗り、徳川将軍・家綱に接近。お玉の身元に不信を抱いた伊豆の守は甲賀の忍びに即刻、お玉の方を切り捨てるよう命じますが、天井裏に潜んでいた霧丸と、復讐に訪れた四郎によって、ことごとく惨殺されます。

写真は四郎の武器、「島原の乱で死んでいった女たちの髪」を紡いだ「伴天連飛行・髪切丸(ばてれんひこう・かみきりまる)」。
四郎の仇敵・伊豆の守(島原の乱で徳川軍を指揮)を演じた成田三樹夫さんの悶え方がハンパでなく上手い。

こうしてお玉の方は将軍・家綱の愛妾となり、お玉の妖しい魅力に夢中になった家綱は一ヶ月も大奥に籠もったまま、政道も立ちゆきません。

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一方、魔王ベールゼブブと結託した四郎の呪いにより、各地で農作物が真っ黒になって枯れるという現象が相次ぎ、民衆の不満も増大します。

魔界転生

江戸に向かう街道で「五人の化け物を見た」という柳生十兵衛の手紙もあり、これら一連の奇怪な出来事が「魔物」の仕業であると気付いた柳生田島の守は、乱心を装ってお玉の守を切り捨てるため登城しますが、途中、宝蔵院胤瞬と出会い、一戦交えることに。
胤瞬に対し、剣で勝っても、不治の病には勝てなかった田島の守は吐血して絶命。
しかし「息子の十兵衛と心置きなく剣を交えたかった」という無念から、四郎の力を借りて、魔界衆として転生します。

若山富三郎さんの殺陣は神がかっています。拳を振るうスピード、絶妙な間の取り方、まるで完成された舞踊を見るような身のこなしの優雅さに嘆息します。

緒形拳の「未熟」という一言セリフもいいですよね。これって、誰にでも言えそうで、緒形拳にしか表現できない重みです。

魔界衆を倒すのに普通の剣ではダメだと察した柳生十兵衛は、伝説の刀師・正宗を訪ね、刀を一振り打って欲しいと懇願します。
すでに引退し、病の床にある正宗は、十兵衛の頼みを断ろうとしますが、それ以前に、父・田島の守からも「魔物を斬る刀が欲しい」と相談を受けたを思い、最後の力を振り絞って刀を打ちます。

精根尽き果てた正宗は、おもむろに立ち上がると神棚を斬りつけて、

神に遭うては神を斬り、魔物に遭うては魔物を斬る。これが妖刀・村正でございますぅぅぅぅ~

という言葉を残して絶命。この場面、霊界のメッセンジャー、丹波哲郎せんせいの独壇場です。

魔界転生

妖刀・正宗を手にした十兵衛は、宮本武蔵の挑戦を受け、船島の海岸で決闘することに。日本を代表するフルーティスト・神崎愛さま演じる「おつう」の笛が流れる中、十兵衛と武蔵が一騎打ちする場面は圧巻。日本映画史に残る名場面ですよね。

ラスト、仰向けで海に没する宮本武蔵も緒形拳にしか出来ないパフォーマンス。今の日本にこれほど格好よく斬られて倒れることのできる俳優さんがあるかしら・・

(前出のYouTube動画に決闘の場面があります)

ついに江戸城での一騎打ち。お玉の方の乱心に始まり、田島の守が参戦。そして怒濤のエンディングへと。

ここでも若山富三郎さんの殺陣が素晴らしく。

クライマックスの柳生十兵衛 VS 田島の守 の決戦、そして四郎との一騎打ちは、DVDでご覧あそばせ。

みどころ

動画でもお分かりのように、この作品は脚本が素晴らしい。

台詞も五・七・五の韻を踏み、舞のように流麗、それをよどみなく言い回す役者も熟達しており、一言一言に重みがあるんですね。

あと、歌舞伎で言うところの「けれん」が効いている。たとえるなら宝塚歌劇の「マリー・アントワネットは、フランスの、じょ~お~なの・で・す・か・ら(チャッチャッチャッチャ~とBGM、そして幕)」みたいな決めゼリフが随所に散りばめられており、その一つ一つを深作監督のカメラがぐぐーーーっとズームアップして、一場面を完結させるの。その盛り上げ方がいかにも大時代的で、白々しいぐらいなんだけど、ここまでおおっぴらにやられると、かえって快傑ライオン丸。「ほら、くるぞ、くるぞ、キタ━━━(゚∀゚)━」って感じで、映画の世界に引き込まれるんですね。世界的な人気監督クエンティン・タランティーノやジョン・ウーが深作的「けれん」を崇拝し、自身の作品に生かしているのは周知の通りです。

最近の時代劇が見ていてまどろっこしい理由の一つは、若い役者の台詞が上滑りしてるからでしょう。

「わらわ」「それがし」「かたじけない」etc、時代劇特有の言い回し。あれがもう、全然、出来てない。
だから、かみしもを着たトレンディドラマみたい。格好は綺麗でも、武士や姫君の重みがないの。

もちろん、80年代の角川映画も、昭和初期の銀幕のスターから見れば(市川雷三や片岡千恵蔵の時代)、台詞、殺陣ともなってない! のかもしれませんが、それでも今よりはるかにマシのような・・。

あまりにも現代化された日常が、どんどん過去との乖離を生じているのでしょうね。

二度と戻れない時代の産物、そんな気がします。

そしてまた、辻村ジュサブローさんが手がけられた衣装も素晴らしい。とりわけ天草四郎の、浮世絵から抜け出たみたいな妖しさに惚れ惚れ。こういう艶姿が似合うのも沢田研二さんの魅力の一つですね。

エンターテイメントの極意

正直、この作品に、重厚なメッセージはありません。あえていうなら「命を尊ぶこと」。ラスト、柳生十兵衛と天草四郎が一騎打ちする時、十兵衛が言いますね。「おまえは人間の弱みにつけこみ、数々の命を弄ぶ」と。転生は、一見、人の願いを叶えているようで、その実、人の苦しみや悲しみをいたずらに長引かせ、煩悩の地獄に突き落とすことに他ならない。誰しも願いを果たせぬまま死んで行くのは無念だが、その心を思いつつ安らかに眠らせるのも人の優しさではないか、と。

その象徴的なキャラクターが真田広之が演じる「霧丸」です。霧丸は確かに伊賀一族の恨みを晴らすために転生したけども、甲賀のリーダー・源十郎を討ち取り、その恨みが晴れてしまうと、彼自身が永遠を生きる目的は無くなってしまいます。とりあえず四郎の復讐に手を貸しますが、元々、善人の霧丸には、村人を饑餓に追いやり、国を混乱させることなど出来ません。そして好きな少女に対しては、自分が魔界の衆であることを言い出せず、幸福な暮らしと復讐の狭間で煩悶します。

その苦悩を知った柳生十兵衛は、霧丸の願いもあって、一度は彼の命を絶とうとしますが、「生きて、生き抜いて、苦悩と戦え」と、もう一度、生き直すチャンスを与えます。

それだけに、魔界衆から抜けようとした霧丸が四郎の手に掛かり、少女の目の前で絶命する悲劇が許せなかった。

転生の誘惑に抗えず、魔界に堕ちた父・田島の守の悲劇も同様です。

本来、神の使徒として人々に平安をもたらすのが使命だたはずの天草四郎が、復讐の為に「人の命を弄ぶ魔物」になってしまった──というのが本作の主軸。十兵衛はさしずめ「四郎に傷つけられた人々の良心の権化」といったところでしょうか。

全身に梵語を刺青し、「魔」に挑む姿が圧巻です。

魔界転生

魔界転生と美輪明宏

クライマックスの「炎の一騎打ち」は、一部特殊効果もありますが、実際に大量のガソリンを用い、本物の火の中で撮影されました。

ところで天草四郎と言えば、美輪明宏さんが「生まれ変わり」として有名ですが、この映画が制作される際、天草四郎の霊魂から「映画化に霊障はないが、撮影中に小さな事故は起きるだろう」とのメッセージを受けたとのこと。

昔から、怨みを残す歴史上の人物を映画化などすると災いが起きる、と言いますでしょ。

この映画の制作スタッフもお祓いしたかお参りに行ったかで、ちゃんと故人に敬意を払って撮影を進められたとか。

それでもやっぱり江戸城炎上のセットでスタッフが火傷を負い、現場も騒然としたけれど、天草四郎の預言通り「小さな事故」で済んだそう。

そういう噂がまことしやかに伝えられた、いわくつきの作品です。

エンドロールとクレジット

この作品の主役は天草四郎=沢田研二と柳生十兵衛=千葉真一。どちらも引けを取らないスターで、上下なんか付けられないですね。

そこでスタッフが苦労したのが配役の表示。沢田研二と千葉真一、どちらをトップにするかで随分悩んだそうです。

観客にはどっちでもいい事ですけど、やはり役者さんにしてみれば「格」がかかってますからね。

そこで行き着いたのが、一番トップに沢田研二、一番最後に千葉真一の名前を配するというアイデア。

ポスターでも、左右対称、どちらも一位に位置づけすることで、両者の格を尊重されています。

関連アイテム

深作欣二監督、沢田研二主演による伝奇アクションロマン。魔界から甦った天草四郎時貞が、宮本武蔵ら「魔界衆」を人間界に呼び戻して幕府転覆を目論む。

これも早くデジタルリマスターしてくれたらいいのに。角川エンターテイメントの極致です。

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