映画

男同士の異色愛『エム・バタフライ』 ~ジョン・ローン 女装の耽美~

2010年4月28日

男が女を愛したら――それも「西洋の男」が「東洋の女」を愛したとしたら……。

その結末は、プッチーニの歌劇『蝶々夫人』(お蝶夫人ではないっ!)に象徴されるように、最後はポイと捨てられて、女が自殺するものと相場が決まっている。

実際、白人男に遊ばれ、捨てられる日本女子は少なくありませんし、国民性か、はたまた大和撫子の遺伝子か、Noと言えない日本女子が「都合のいい女」になりやすいのは事実でございます。(人柄にもよるが)

女同士でも、油断すると、結構いいように使われてたりしますのでね。

しかし、そうした歴史的慣習(?)を打ち破って、「東洋の女」が「西洋の男」を破滅させた物語といえば、鬼才デヴィッド・クローネンバーグ監督の『M(エム)・バタフライ』。

その名もずばりプッチーニの歌劇『蝶々夫人』をもじったもので、ここで命を散らすのは「東洋の女」ではなく、やり手の白人外交官である。
女装した中国のスパイ=ジョン・ローンの神秘的な美しさにのめり込み、セックスまでしながら相手が「男」と気付かず、うっかり情報を漏らしてスパイ容疑で逮捕された上に、最後は鏡の破片で喉元をかき切り、囚人たちの見守る中で息絶えるという情けない役回りだ。

このマヌケな白人外交官を演じるのが、「愛欲に走って破滅するエリート中年」を演じさせたら右に出る者はないジェレミー・アイアンズ。
美しい悪女だけでは飽きたらず、どう見ても線の太い、しかも顔の大きいジョン・ローンを完全に「女」と思い込み、女性が見てもドキドキするような官能的なラブシーンを熱演してくれる。

しかも驚くべきことに、これは「実話」なのだ。

実際には刑期を終えて釈放され、今も某国でひっそりと暮らしている元外交官の話によると、女装した中国のスパイは、疑いようのない「完璧な女」であり、性交も可能だったという。(あたしゃ、このあたりの生理は詳しくないので、どーやって可能になるのか説明のしようがないのだけれど)

では、なぜ「男」とバレなかったのか?

それは、「彼女」が一貫して「東洋女性の慎み」を説き、彼の前では絶対に衣服を脱がず、秘所を触らせることもなかったからだ。
そして、それを心の底から信じ、東洋の美に魅了された彼は、彼女の貞節を尊重し、裸体を見ることもなければ、秘所に触れることもなかったのである。

これがその場面。ジョン・ローン美しすぎ……。


映画では、まず彼=ジェレミー・アイアンズがスパイ容疑で逮捕され、次いで、「証人」として彼女=ジョン・ローンが法廷に出廷する。
二人そろってトラック護送される中、彼女=ジョン・ローンは彼=ジェレミー・アイアンズに当て付けるように衣服を脱ぎ、「オレの裸を見ろ」と迫る。
「どうだ、見ないのか、見たかったんだろう」と。

すると彼は顔を背けてうずくまり、
「なんて醜いんだ。私の愛したソン・リンは完璧な女だった。お前は『ソン・リン』じゃない」
と呻く。

その言葉を聞いたジョン・ローンは全裸のままその場に泣き崩れるのだが、その様はどう見ても女のものであり、泣き声さえも中性的である。
愛していたのは「彼女」もまた同様であり、歌劇『蝶々夫人』とちょっとだけ違うのは、その真実ゆえにラストの破滅がいっそう心に強く響く点であろう。

*

ついにソン・リンの正体がばれて、二人は護送車の中で男同士として向かい合う。

彼の顔を見ようともしないルネに対し、「わたしの身体が見たかっただろう」と服を脱ぎ始めるソン・リン。
このあたりの仕草も非常に色っぽい。

エム・バタフライ

エム・バタフライ

昔を思い出して。あなたの愛したソン・リンよ……とルネの手を取って訴えかける。
この表情も完全に「女」です。
清の皇帝・溥儀の生涯を描いた大作『ラストエンペラー』でアカデミー主演男優賞を受賞したのも頷ける。

エム・バタフライ

打ちひしがれるルネ。愛するのは、ソン・リン、ただ一人。

エム・バタフライ

「女」として涙を流す。このあたりの演出が素晴らしい。

エム・バタフライ

*

こちらが衝撃のラスト。名曲『ある晴れた日に』を聞きながら喉をかき切るルネ・ガリマール。
最後に彼は告白する。
愛する男に捨てられ破滅する女=エム・バタフライは「私自身だった」と。


映画のトレーラー


YouTubeでもたまに全編あがってますが、英語版か、外国語の吹き替え版が大半です。
もう完全にレアものになっちゃいましたね。
クローネンバーグ&ジョン・ローンの傑作なのに。
もちろんジェレミー・アイアンズも最高ですよ。

関連アイテム

残念ながら、この作品は日本ではDVD化されていません。
VHS版のみ入手可能となっています。

1964年、北京。フランス大使館の外交官ルネ・ガリマール(ジェレミー・アイアンズ)は、ある夜会で『蝶々夫人』の公演を見た時、舞台の主演女優ソン・リン(ジョン・ローン)に釘付けとなる。
フランスの外交官とその中国人の愛人の数奇な恋を、プッチーニのオペラ『蝶々夫人』になぞらえて描いた異色のラブ・ストーリー。ブロードウエイでトニー賞に輝き、世界30カ国以上で上演されたデイヴィッド・へンリー・ホァングの戯曲(実話に基づく)を彼自身が脚色、「裸のランチ」のデイヴィッド・クローネンバーグの監督で映画化。

「セックスまでしながら、ホントに相手が男だって気付かなかったの? いったい、どうやって……???」と、突っ込みを入れたくなるような映画だが、正真正銘の実話であり、主人公の男性は『私は今でもソン・リンを愛している。彼女は私にとって永遠の女性だ』(パンフレットより)と言い切っているそうだ。
ともかくジョン・ローンが化けも化けたり、その美しさたるや、名だたる女優顔負けである。
映画館で観た私も途中まで気付かなかったぐらい。
「日本の男がアメリカ娘に恋して振られても、『なんてバカな男だろう』と笑い者になるだけ。西洋の男が東洋の娘に恋をするからドラマになるの」というジョン・ローンのセリフが全てを物語っている。
これは恋に形を借りた東西文化の交流物語であり、戦時下のロミオとジュリエットとも言うべき作品である。
生理的に気持ち悪いという人もあるかもしれないが、耽美派の女性なら十二分に満足のいく秀作。
ビデオでしか入手できない幻の逸品。
それにしても、ジェレミー・アイアンズは愛に破滅する中年男(それもエリート)を演じさせたら世界一ですね。

*

ビデオ版の字幕では「チアリーダーの金髪娘が日本の小男のビジネスマンに恋をする。結婚後、男は妻を残し、帰国して三年。ケネディ家の求婚さえ断り、彼女は夫を待つ。やがて夫の再婚を知った彼女は自殺する。救いようもなくバカな女だと思うでしょ? でも東洋の娘が西洋の男のために死ぬと美しいわけね」
エム・バタフライ

屋外劇で蝶々夫人を歌うソン・リン(ジョン・ローン)。
立ち姿の美しさも筆舌に尽くしがたい。
エム・バタフライ

エム・バタフライ

女性と疑うことなくソン・リンにのめり込むルネ・ガルマール。
この世のものとは思えぬ怪しく、神秘的なクローネンバーグの演出も素晴らしい。
エム・バタフライ

私生活でも「女形」が役についてきた本人。この仕草など本物の女性より美しい。
エム・バタフライ

映画版のノベライズはこちら。
エム・バタフライ セルジュ グリュンベルグ (著), 山崎 剛太郎 (翻訳)

デイヴィッド・ヘンリー・ウォンの原作・翻訳版はこちらです。
M.バタフライ  David Henry Hwang(著)吉田 美枝 (翻訳)

*

その他、ジョン・ローンが最高に美しかった作品。

参考記事→ 映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』~中国の台頭と移民コミュニティ

ニューヨークでイタリアン・マフィアと勢力争いを繰り広げるチャイニーズ・マフィアのボスが暗殺された。これはチャイニーズの若きリーダー、ジョーイ(ジョン・ローン)の謀略によるものであり、彼は次第に組織の近代化を図るとともにのし上がっていく。そんな中、強引な捜査で知られる刑事スタンリー(ミッキー・ローク)が組織壊滅をもくろむ。彼はベトナム戦争の過酷な体験で、黄色人種に憎悪を抱く人間でもあった…。
『ディア・ハンター』『天国の門』と、アメリカ移民の少数民族に焦点を当てた作品を描き続けたマイケル・チミノ監督が、NYのチャイニーズ・マフィアを題材に描いた衝撃的バイオレンス・アクション映画。当時としてはセンセーショナルな内容だったゆえ、中国系アメリカ人たちの間で上映反対運動が起こるほどの問題作として紹介されたが、実質は白と黄色の骨肉の争いを通して、人は闘うことでしかわかりあえないのかという人間の根源を追及していった意欲作に仕上がっている。

この映画の見所は、何と言ってもスターダムを駆け上がる前のジョン・ローンのクールな美しさだろう。
まだ無名に近かったミッキー・ロークのワイルドな魅力も素晴らしい。
この後、ロークは『ナインハーフ』でブレイクし、ジョン・ローンは世界にその名を知らしめた。
いずれも世界的に注目される以前の研ぎ澄まされた演技が秀逸で、映画の若干の不出来もあまり気にならない。
映画どうこうより若い二人の演技を堪能する為の作品だ。
また東洋系ヒロイン役のアリアーヌも、本職がモデルだけあってカジュアル、フォーマルともに着こなしが素晴らしい。
映画セックスシーン史上、初めて女性が騎馬位をとったことでも知られる本作(確かそうのように聞いた)。
この頃からあらゆる分野で女性の台頭が著しくなったように思う。そういう意味でも画期的作品。

ついにブルーレイがきましたね☆ 
賛否両論ある作品ですが、ジョン・ローンのカミソリのような美しさと、ミッキー・ロークのセクシーな魅力は見物です。
リマスターされた綺麗な映像で、ぜひ。

【Amazon レビューより】
若きチャイニーズ・マフィアのボス、ジョーイ・タイを演ずるのはジョン・ローン。漆黒の髪を端正になでつけ、背筋をぴんと伸ばしたその姿はあくまで凛乎としており(その優雅さは多少自意識過剰にも思えるほどではあるが)、いらいらした様子で手慰む煙草さえ瀟洒に映る。それとは対照的に、ヴェトナム帰りのホワイト警部を演じるミッキー・ロークは短気でがさつで、白髪混じりの!頭髪は無造作にかきあげられる。ソフト帽でかろうじてその威厳は保たれる。この二人によって演じられるパルプフィクション的活劇の筋についてはここでは問題にしないでおこう。

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