私は今、
一人の哀れな女のことについて考えている。
【シャロットの女】――
恐らく、この世でもっとも不幸な女――
生きながらに死んでいった女のことを。
女は、シャロットの中州にある
塔の一室に閉じ込められ、
来る日も来る日も、
鏡に映った外界の出来事を
機織るよう定められていた。
彼女がいかなる理由で
呪いを受けたかは誰も知らない。
ただ彼女は、定めのまま――
その目で見たままに、機を織り続けた。
そうすることが自らをこの世に繋ぎ止める
ただ一つの手段であるかのように。
初めは呪いなど気にかけず、
機織りに励んでいた彼女も、
結ばれたばかりの男女が
塔の下を通りかかると、
『もう外の世界にはうんざり』
とつぶやく。
そんなある日、
塔の近くを、
勇ましい騎士ランスロットが
通りかかった。
彼女は思わず窓に駆け寄り、
彼の姿を目にした。
すると
織っていた機は、ほつれて宙に漂い、
鏡にはひびが入った。
彼女は『呪いがかかった!』と叫び、塔から水辺に降りた。
小船に乗った彼女は、船首に名前を記し、身を横たえると、
最後の歌を口にしながら息絶えたのである。
キャメロット城に到着した彼女の亡骸を見た人々は、恐れおののいたが、
ランスロットだけは彼女に近寄り、
「この女は見目麗しい。神が女に恩寵を与えますように」
と祈ったのだった。
女はなぜ死に赴かねばならなかったのか。
彼女の運命は、
塔の中に閉ざされた時から決まっていた。
外界との交わりを絶たれ、
唯一の持ち物である鏡――
すなわちその魂に映るものを
ただひたすら機に織り込むことを
定められた時から、
“彼女”は既にこの世に無く、
幻に生きていたのである。
何も知らなければ、
彼女も生き長らえただろう。
だが彼女は見てしまった。
勇ましい騎士ランスロットを。
誰をも知らぬ魂に
一人の男が住みついた瞬間、
幻は破れ、
外界へと引きずり出されたのである。
おそらく女は、
外界の平和も、悦びも、
すべてを断ち切って
機織りに打ち込んでいたちがいない。
そして何も知らずにいれば、
この世ならぬ美の産物を
創り続けることができただろう。
だが破られた。
ランスロットに心ひかれ
窓に駆け寄った瞬間、
女は自分に与えられた定めも、仕事も
一切をなげうったのだ。
愛が叶わぬとなれば、
もはや女に住処はない。
その魂を慰めるものは
永遠の死だけである。
最後の歌を口ずさみながら、
女が胸に抱いたのは、
希望なのか、絶望なのか――
ただ河の流れにたゆたいながら、
もう二度とあの塔へは戻れないことを
想っていたいにちがいない。


