
私はもう、こういう時期は過ぎてしまったので、今となっては懐かしく思い出すだけだが、あの重み、温もり、雪道のつらさ、きしむような肩や腰の痛みは、今も昨日のことのように感じる。
雪の降り積もる中、総重量が20キロを超えるベビーカーを押して、スーパーに買い物に行った帰り、雪の中にタイヤが突っ込んで身動きとれなくて困っていたら、腰の曲がったおじいさんが助けて下さったこともあったっけ(本当に有り難い話)。
毎日、夢中で過ごしてきたけれど、今にして思えば、つかの間の夢のよう。
重い、重い……という溜息も、ついている間に、どこかに去ってしまった。
私も、本当に、こんな風に赤ちゃんを抱っこしていたのだろうか。
今となっては、不思議な気さえする。
それにしても、一所懸命な母の姿は、本当に美しいものだ。
誰だって、こんな寒い中、子連れで外に出掛けたりせず、温かい部屋で紅茶でも飲みながらのんびりくつろぎたいものだ。
たとえ用事があるにせよ、子供の体調を気にしながら、頭のてっぺんから足の先までぬかりなく防寒を施して、ただでさえ歩きにくい雪道を、子連れ狼みたいにエッチラオッチラ歩くよりは、一人で軽快に歩いていった方がはるかに手っ取り早い。
にもかかわらず、何処へ行くにも、まるでシャムの双子のように子供をキャリーに背負い、あるいは、ベビーカーを手放さず、そういう生活に疲れは感じても、疑問は抱かず、ごくごく自然に自らを重ねて行く。
それは決して自画自賛でも、ナルシズムでもなく、母親になったら子供に対して、無条件にそうしてしまうのだ。
ずっと以前から、回路に組み込まれていたみたいに──。
つらさや面倒さを超えて、自然にそうしてしまえる母の姿は、やはり美しいものだ。
こうして客観的に見ると、それがよく分かる。
その渦中にいる時は、重さに耐える息づかいと腕の痛みばかりが意識され、自分がそういう尊さに近い所に居るなど考えもしないけれど。
もう一度、抱きたいと思う時、もうそこに幼い子供は居ない。
「母の幸せ」も、気付いた時には、遠く過ぎ去っているものなのかもしれない。
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