どうやって「親」を殺すか ~精神的親殺しについて~

この記事は、子供に「死ね」と言われてショックを受けられている親御さん向けに書いたものです。

「親に死んで欲しい」「親を殺したい」お子さんは、こちらの記事をご参照下さい。

「親 死んでほしい」「親 殺したい」で検索する人が多いので

子供が自分の秘密日記に、「親、ウザい。死ね」と書きなぐる。

この場合の「死ね」は「肉体的に死んで欲しい」という意味ではなく、「親に真っ向から反論して勝ちたい、自分の言い分(存在)を認めて欲しいけど、精神的にも経済的にも、あらゆる面で勝つ手段がない、だからとりあえず、私の人生から消えてくれ、障害物競走のイシコロみたいに、目の前からどいて、私に道を譲って欲しいんだよぅ!」……まあ、そんなところです。

子供は無知でボキャブラリーが少ないし、嫌みや皮肉を言うほど知恵もないので、何か気に障ることがあるとすぐ「死ね」という直球を投げてしまいますが、本気で「死んで欲しい」と思ってる子なんて、まあいません。

とにかく、我が道を行くのに、ジャマ。

そのジャマな感覚を、舌っ足らずで表すと、「死ね」になる。

幼稚園児が、悔しまぎれに、「おまえ、アホー、ハゲ-」としか言えないのと同じです。

親の存在はあまりに大きく、しかも彼らは正しすぎるので、子供はヤクザな捨て台詞しか吐けなくなってしまうんですね。

本当に憎けりゃ「殺す」と言いますよ。

ところで。

あんな親、死んでしまえばいい……と思う気持ち。

子供による親殺し、あるいは、親による子殺し。

このテーマは、ギリシャ神話の時代から、様々な寓話、伝説、小説といった形で語り継がれてきました。

若い子が大好きなファンタジーもの。

平凡な男の子が実は偉大な妖精王の血を汲む超能力者で、時の支配者、いわばその社会の父性的な存在と対決し、これを見事に打ち倒して一人前の男になる(ついでに恋人も手に入れる)という物語も一種の『父親殺し』であり、そういうストーリーをみな違和感なく受け入れるでしょう?

あるいは、ルーク・スカイウォーカーみたいに年頃になってから「本当のお父さん」の存在を知り、それをきっかけに自分は何者であり、何を為すべきかという精神的な探求が始まる、そういう物語も本当に多いですよね。

いわば「父親殺し」というのは人間の成長につきものであって、罪悪でも何でもない。

本当にバット片手に殴り殺してしまうから罪に問われるのであって、心の中で「親」と対決し、打ち勝つこと──分かりやすく言えば、親に植え込まれた正義や価値観や人生観というものを根こそぎ自身から剥ぎ取り、親の付属物ではない、本当に自分らしい心と人生を手に入れるプロセスは、神話の時代からずーっと受け継がれているわけですよ。常識的な大人は「成長」とか「自分探し」とかいう言葉で表現しますけどもね。

私が「精神的な親殺し」という言葉を最初に知ったのは高校生の時、日本を代表する心理学者の河合隼雄さんの著書がキッカケです。

当時、心理学や家族関係に関する本をいろいろ読みましたが、自分の心理状態を一番端的に表していたのがこの「精神的な親殺し」という言葉で、この一言に出会った瞬間、もやもやしたものがスーっと溶けて、とてもラクになったものです。

自分が今リアルに体験している親に対する怒りとか苛立ちとか無力感とか、それはみんな「親に植え付けられた正義や価値観」を打ち壊そうとするエネルギーから生じているんだ、ということが理解できたからです。

確かに「親殺し」という言葉は過激ですけど、親からの影響が大きければ大きいほど、そうとしか言いようのない、激しい革命の嵐が巻き起こりますから。

私には、成長とか、自立とか、目覚めとか、そんなマイルドな言葉より、「親殺し」という言葉の方がはるかに分かりやすかった。

その時の私は、多分に誇張すれば、名剣を手にしたジークフリートみたいなもんです。

実父にして神々の王たるヴォーダンを倒す以外、この道は開けぬ──となれば、英雄のごとく闘いますよ、心の中では。

そして、ヴォーダンこそ万能の神と思っていたのが、実は、過ちもすれば盲目にもなる、一人の愚かな老王だと気付いた時、あれほど怒り狂っていた剣も鞘に収まり、勇ましいだけの冒険譚にも終止符が打たれる。敵討ちが人生の目的ではなく、愛と赦しこそが魂の救済となる、と分かってくるわけですね、ものすごくカッコイイ言い方をすれば。

一般に「成長」というと、ものすごくお利口なイメージしかありませんけど、「子供が一人前の大人になる」ということは、破壊と創造のプロセスを経ることではないかな、と私は思っています。

それがものすごく激しい形で表に出る人もあれば、さざ波のように過ぎて行く人もある。

どうだから良い、ということは一概には言えません。

ただ、これだけは心に留めて欲しい。

親を殺すか、自分を殺すかの選択を迫られたら、迷わず親を殺しなさい、と。もちろん、心の中での話ですよ。本当に金属バットで殴ってはいけません。

成長する、ってことは、物分かりのいい大人になることじゃない、親を一人の人間として理解できるようになることです。

親を殺すか、自分を殺すかの選択を迫られた時、自分を殺せば、そこで自分自身の人生は止まってしまいます。

でも、親を殺せば、あなたは新しい視点を持つことができる。

それは誰の影響も受けない、自分自身の視点です。

そして、そんな視点を持った時、あなたは初めて自分の親というものを「客観視」することが出来るようになる。物欲しそうな、いつも不満だらけの子供の目ではなく、人間の目でじっくり見つめることができるようになるわけです。

そうすると、「ガミガミうるさいババア」が、「あ、お母さんも辛いんだ」と思えるようになるし、「いつもブスっとして機嫌の悪い父」が「仕事の辛さを必死で堪えて、いっぱいいっぱいなんだ」ということが分かってくるようになる。

もし、あなたが、子供である自分自身から脱却できず、親に支配されたままでいると、「ガミガミうるさいババア」の一言一言をずっと真に受けることになる、なぜなら、「ババアの言う事が正しい。逆らってはいけない」という思い込みが捨てられないからです。

そして、精神的に親を殺す、ということは、自分が正しいと信じている親の言い分が実は間違いである、ということを、自分の中で明らかにすることでもある、これは木彫りの聖書を火にくべるがごとき勇気が要ります。

その勇気が持てず、「常に正しい親」の影響下から抜け出せないと、ずっと子供の目でしか物事が見られない、ババアは一生ババアのままだし、不機嫌な父の側面がいつまでも見えてこない、となるわけです。

ですからね。

あなたが本当に自分自身を苦しいと感じるなら、親を否定することを恐れてはいけないし、成長は時に痛みを伴うということも忘れてはいけない。

マサイの少年が大人の仲間入りを果たすために竹槍一本でライオンに立ち向かうがごとく、心の中で親を殺す瞬間も訪れて然りなのだと、そう思ってください。

そうして精神的な親殺しという通過儀礼を果たし、本当の意味で強く、一人前になった時、あなたはもう一度、自分の親に巡り会うことが出来るでしょう。

そして、本当の親の姿に今までにない愛情を覚えるはずだと思います。

過激な物言いになりましたが、『親』というのは、親自身が考える以上に、子供に強く、深く、影響するものです。

だからこそ、時には「(精神的に)殺す」ぐらいの勇気と勢いがなければ道は開けない、というのがこの話の趣旨ですので。

本当に金属バットで殴っちゃう前に、キミはもっと自分の感じる心や価値観を大切にしようね。たとえそれが親に反するものであっても──。

参考文献

上記の記事は河合隼雄の「家族関係を考える」を参考に書いています。
家族問題を心理学からアプローチした名著ですので、興味のある方はぜひ。

河合隼雄 家族関係を考える

河合隼雄 家族関係を考える

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