小栗勘太郎さんの音楽コラム ~音楽、哲学、そして人生~

私も音楽のない人生など考えられないほど(それこそ朝から晩まで流しっぱなし)、音楽一色の生活を送っているので、好きなアーティストや楽曲に関する記事は片っ端から目を通すし、CDもライナーノートが読みたいがために輸入盤ではなくちょっと高めの国内盤を選ぶ。熱を込めて五つ星を付けているAmazonのカスタマー・レビューも大好きだ。

でもその全てが心の糧になるかと言えば決してそうではない。

情報としては詳しいけれど、Wikiやマニアのブログにも書いてあるような話は右から左に流れていくし、「この奏法は●●流のどうたらこうたらで・・」みたいなウンチクは読んでいてだんだん疲れてくる。

そうじゃなくて、あなた自身はどう感じたの?

そして、そのことは、私たちの人生に何をもたらすの?

皆が心動かされる部分はそこだ。

本当は、音楽そのものに実体はなく、それを感じる人の心に本質があるのではないかと思ったりもする。

だから、「自分がどれほど感動したか」をメインに書いている記事より、それをもう一段押し上げ、誰もが心に秘める普遍的なテーマ──愛や悲しみや懊悩に昇華させた記事の方がはるかに面白い。

ダイヤモンド・オンラインに掲載されている小栗勘太郎さんの『今週の音盤=心のビタミン ビジネス・パーソンのための音楽案内』は実にいい。

今週の音盤=心のビタミン ビジネス・パーソンのための音楽案内

よくある音楽レビューが「アルト奏者の●●は、1989年にこの曲をレコーディングし・・」みたいにウンチクから始まるのではなく、読む人の心や日常に問いかける形で始まる。

たとえば最新記事の【サイモン&ガーファンクル「サウンド・オブ・サイレンス」】本人が知らないうち ビルボード誌No.1に駆け上がるの切り出し。

ビジネスの世界であれ、学術の世界であれ、スポーツの世界であれ、芸術の世界であれ、誰もが成功を夢みて、日夜頑張っている。皆、その道のプロフェッショナルだから、一生懸命やっている、とか、最大限努力している、というのは当たり前のことで、長い話を短くすれば、結果が全てだ。

非情なことだけれど、結果が重要で、結果がよければプロセスが正当化されるのは、世の中ではまま見られる光景だ。

そこで、結果が出るタイミングについて考えてみる。

スポーツならば試合が始まれば、結果はすぐ出る。陸上100メートル走なら10秒足らず、マラソンでも2時間ちょっとで勝負がつく。ビジネスではどうだろうか?手がけたプロジェクトが実を結ぶのに、どれほどの時間が必要だろうか?

すぐに結果が出る場合もあるだろうし、なかなか結果が出ないこともあるだろう。月並みだけど、ベストを尽くして、後は待つしかない、ということかもしれない。

と、いうことで、今週の音盤はサイモン&ガーファンクルの「サウンド・オブ・サイレンス」です。

・・のような感じで、切り出し方が実に上手い。

【クロード・ドビュッシー「子供の領分」】世紀の不道徳ワガママ男が放蕩の末に到達した究極の親心を表現の書き出しもワタシ好み。

「子供好きですか?」 

と、大上段に聞かれたら、いや嫌いです、と答えることは想定されていない。「好きですよ」と、答えるのが大人の世界の慣わしだ。

でも、本音では、子供は煩わしくていやだっていう人もいる。子供の相手は面倒くさい、自分に似ていると思うと嫌悪感でいっぱいになる、子育てよりも自分自身に投資したいし、自分が一番可愛い、という人もいる。欲しくなかったのに出来てしまった、という場合もある。街で臆面もなく親馬鹿ぶりをさらけ出す様を見ると、気分が悪くなる、という御仁だっているはず。

例えば、世の常識に全くとらわれず、やりたい放題やって来た男がいる。運と才能に恵まれ、欲しいものは何でも手に入れてきた。煩悩は収まらない。色恋に目がない。仕事も自分の流儀を通す。世の無理解なんぞ気にせず、わが道を行く。派手な私生活こそ仕事の活力。子供なんか出来て家庭に収まる気はさらさらない。まさか、自分に子供なんて……。

それでも、子供には、そんな破天荒な大人すら変えるチカラがあります。面倒くさいし、煩わしいけれど、子供は大人を素直な気持ちにさせるのです。

そこで、今週の音盤は、ドビュッシーの「子供の領分」です。

内容は、ビジネスマン読者を意識した音楽レビューらしく、たとえば、【ビートルズ「アンソロジーI」】オーディションに落ちて、ジョンは思った。「これで終わりだなって」みたいな、チョビ自己啓発系である。

 
ビートルズは、当時の水準では相当の演奏技術を持ち、メンバー3人が正確にハーモニーを取れ、自作曲も持っていた。デッカ側に巨大な才能の原石を見抜く眼力が無かっただけだ。哀れなデッカ。そして、ジョージ・マーティンには出会うべくして出会ったのだ。

と言うのは簡単だ。だって、結果を知っているのだから。

しかし、1961年の1月1日のオーディションに失敗して6月6日までの間、ビートルズは、先の見えない悶々とした失意の日々を過ごしたのだ。でも、決して諦めず、腕を磨き、新曲を作っていた。同志エプスタインは倦むことなくレコード会社の門を叩き続けた。

それが、彼らの運命の扉を開いたんじゃないか、と思えてくる。

それでも、小栗さんのは重くない。自然に「うん、そうだね」と思える内容。

音楽通らしい知識をベースに、自身の感想とビジネスマンへの普遍的なメッセージを重ね、上手にまとめてらっしゃるので読後感も爽やかです。

ダイヤモンド・オンラインに掲載されている音楽コラムはどれも読み応えがあるのですが、その中で気に入ったものを二点。

まず、【マイルス・デイビス「天国への七つの階段」】 ジャズの歴史を変えた運命の出会い それは代役探しから始まった

この世の事って、本当に「出会い」だと思う。

才能があっても、条件に恵まれても、「良い出会い」がなければ本当に実を結ぶことはない。それは「美しい」というだけの花に似ている。どんなに際立って美しい花も、ひとりぼっちで荒野に咲いていたら、そのまま枯れて終わり。風が吹き、ミツバチが花粉を運んで、はじめて花は実を結ぶ。

ある意味、『成功者』というのは、なるべき人がなるもので、そのように運命づけられていた……といっても過言ではない。努力する人は「自らの努力で成功を勝ち取る」ことを信じたいかもしれないが、最後に道を決定づけるのは「運」と「出会い」によるものが大きい。

もちろん、出会った時に「能力ゼロ」では話にならないが、能力10でも運と出会いによってそれ以上のものになる、掛け算みたいな部分はあるのではないだろうか。

このコラムでは、ジャズ界の巨人マイルス・デイビスと、強力なパートナーとなったハービー・ハンコックとの出会いを引き合いに出し、二人の出会いが必ずしも「劇的」なものではなく、本命を雇えなかったマイルスが仕方なくハンコックに声をかけたら、これが金の卵だった──というオチで出会いの本質を描いている。

新しい出会いこそが、未来を変える力を持つ。しかし、新しい出会いの瞬間が劇的なものとは限らない。と小栗氏。

出会いなんて、いつ、どこで起こるか本当に分からないし、出会いまでの道程も、後から振り返って「そういえば、あの時……」と初めて気付くもの。そう考えると、「出会い」というのは「人間を見抜く能力」でもあるね。百年モノのいいオトコに出会っても、やれ顔がダサイ、背が低いと、その男の良さを見抜く力がなければ、一生「いい男がいないー」と言い続けることになるもの。

マイルスがハンコックの可能性に興奮したのも、彼自身が音楽の才能とセンスに満ちあふれていたから。これが他のミュージシャンなら「あんたは小物だからお呼びじゃない」で終わってたかも。

時々、制作会社やコンペの主催者のインタビューなどで「近頃はインパクトのある新人がいない・・」というような発言が聞かれることがあるが、選ぶ側に問題があるケースも案外多いんじゃなかろうか。

それが「金の卵」と気付くには、選ぶ側にも「黄金の秤」が必要。

黄金のマッチングって、けっこう難しいものである。

【サイモン&ガーファンクル「サウンド・オブ・サイレンス」】本人が知らないうちビルボード誌No.1に駆け上がるも励まされる内容。

サイモン&ガーファンクルは、「明日に架ける橋」をはじめ次々と傑作を発表し、音楽史に確固たる地歩を刻みました。ポールは70歳にならんとして も新作を発表しているし、時折、サイモン&ガーファンクルを再結成して世界中を公演旅行しています。そんな彼らにも、結果の出ない時期があったのです。

だから、結果が出なくても、めげずに頑張りしましょう。待てば、海路の日和あり、ということもあるんですから。

ビジネスなんて、結果が出るまで時間のかかることの方が多いね。

今日仕掛けて、明日1億売り上げ、なんてこと、滅多にないもの。

「そこで諦めずに」というのがビジネス書の真髄なんだけど、そこまで黙って耐えられる人の方がきっと少数派だと思う。

また諦めないのと同じくらい、見切りを付ける潔さも必要。

忍耐力を欠いても、潔さを欠いても、大成することはない。

まあでも、最初から結果ばかり追いかけるのも味気ないし、どうせなら自分の好きなことや確信のもてることに懸けた方が悔いは残らないだろうとは思う。

結果が出ても、出せなくても、人生の本質はチャレンジにあり。

誰もがサイモン&ガーファンクルになれなくても、勢いで作った自主レーベルのCDぐらいは記念に残るんじゃないか。

それはそれで、きっと最後には、納得できると思うのだが。

ともあれ小栗さんの音楽コラム、面白いので興味のある方はぜひ☆

サイモン&ガーファンクル

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昭和33(1958)年生まれ。音楽愛好家。海外赴任や出張が多く、国内外のレコードショップを訪ね回る日々を送っている。2006年4月から西日本新聞夕刊一面で「音楽ダイアリー」の連載を開始。CD、LPレコードを題材に歴史上の「今日」あった出来事を日替わりで紹介。時代を超えて愛される楽曲の知られざるエピソードが満載。

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