渡辺淳一の本当の名作 ~『無影灯』『愛人』『化身』『わたしの女神たち』etc

『失楽園』ブームがあまりに強烈だったため、渡辺淳一といえば「性愛小説家」というイメージがありますが、私は『女性に優しい作家』として読んでいます。
特に過去のエッセイなど読んでいると、とにかく女性を見つめる眼が優しい。
ブスと呼ばれる女性にも一点の美しさを見出すような柔らかい感性が感じられます。(昔はね・・)
この方は、本当に女性が好きなんだなあ(好色な意味ではなく)と納得せずにいません。

そして、もう一つ、私が渡辺氏の作品に惹かれる大きな理由は、彼が「現場を体験した医師」であるということ。
医療、人間、生死に対する渡辺氏の考え方は決して綺麗事ではなく、まさに現場を体験した者にしか分からない感性に基づいています。
ゆえに、同じ「医療従事者」として共感する部分が大きく、嬉しくなってしまうのです。
医療エッセーにおける渡辺氏は、とても温かくて人間的なお医者様だと思います。

そんな彼の小説の筋立てはたいてい同じ。
仕事も夫婦生活もイマイチで、銀座で一人で飲んでいるような、ちょっと侘びしい系のプチリッチなオヤジが素敵な独身女性と恋に落ちるが、最後は女性が妊娠→堕胎して、静かに去っていく」(『サラリーマンの童話』とも言うらしい。ブブブ)
そんな都合の良い女、この世におらんで (`´)ノ☆
一つ一つにツッコミを入れたくなるけど、なんだかんだで読んでいます。

本3つの本能 / 女はつくられる?
料理の味が落ちる日/ 別れの美学
恐ろしい話 / ヒステリー考
結婚式のユーウツ / あきらめの才能
平均寿命 / ホルモンと長寿 /恋という薬〔ほか〕

優柔不断さこそ男の優しさであり、豊かな感受性と一途さから生まれる女のヒステリーは、けなげで可愛いといえる。男の優しさ、女の優しさ。そして男と女の強さとは。医師の冷徹な眼と作家の感性で、永遠に未知なる異性への限りない怖れと憧れをこめて、鮮やかに描く男と女のエッセイ集。

とにかくよく女性を観察している。「なんでそんなに女性の事が分かるんですか」と感嘆するくらい。
私が一番好きな渡辺エッセー本です。

作家でもあり医師でもある著者が、ヒステリーの女性、ウーマン・リブの女性、永遠の愛を信ずる女性、浮気な女性、レズビアンの女性、不感症な女性、嘘つきの女性など、さまざまのタイプの女性の恋愛心理を、豊富な医学・心理学的知識をもとに分析し、謎を秘めた女性の<愛の真実>に迫った異色のエッセイ。

意外と理解していないのが、『自分自身』。
他人には厳しいチェックの目を向けられても、自己分析が得意な人は少数。
「女ってなんだろう」――女性自身でさえ分からないこの疑問に、優しく、明快に応えてくれる一冊です。

“肺癌”。その事実を患者に告げるべきか、否か。生と死の狭間に立つ人間の偽りのない姿と、診断の宣告を強いられて苦しむ医師たちに生命の尊さを見つめたオリジナル文庫版。(解説・川辺為三)

渡辺氏の医療エッセーは、長年、現場を経験しておられるだけに、美化や建前がなく、非常に共感できる部分が多い。
医者として患者=人間を見る渡辺氏の気持ちは優しい。
この優しさが分かるか、分からないかで、人としての在り方も違ってくるように思う。
この頃に書かれたエッセーは、本当に素晴らしいものばかり。
もう一度、このようなエッセーを書いて頂きたいのだけれど、もう無理かな・・・。

脊髄の腫瘍で数日のはかない命とも知らず、少女が語る無限の未来―。癌患者に真実を伝えるべきか。そして最後まで果敢に死の恐怖と戦う人間の姿―。その存在にかぎりない心のゆとりを与えてくれる母への思い―。
作家であり医師である著者が、人を愛するが故にみせる冷酷な目、虚無的な目、優しい目が行間にちりばめた珠玉のエッセイ。

主に、医療の現場を振り返って書かれた、初期のエッセー集。「泣ける」話ではなく、人間の悲哀、運命の過酷さ、医療の限界などをありのままに受け止め、淡々とした筆運びで描いている。
が、決して突き放した感じではなく、深く静かな思いやりをもって人間を見つめている。
渡辺氏の医者らしさ、人間らしさが、一番よく現れている作品集ではないかと思う。
渡辺氏のエッセーといえば一番にこれをオススメしたくなる、本当にいい本です。

直江は大学病院の講師まで務めた優秀な外科医であったが、何故かエリートの道を棄て、個人が経営するオリエンタル病院の一医師として働いていた。どこかニヒルな影のある直江に惹かれた看護婦の倫子は、やがて彼と深い関係を持つようになったが、それでも容易に人に心を開こうとしない直江に恐れのようなものを感じていた……。

渡辺氏の小説で一番好きな作品。
医師・直江の言動は、一見、メチャクチャで冷酷な感じがするが、実は誰よりも『人間』というものを理解している。
それが分かれば(医療従事者ならきっと分かる)、この作品の良さがより分かるはずだ。
それは理想主義者の新米医師とのやり取りの中によく現れている。(たとえば、無責任なヤクザに人道主義的な立場から治療費を貸すことが果たして正しいのかどうか、など)
物語は、医師と看護婦の恋愛ものだけれど、医療ドラマとしても十分に楽しめる。
前に、SMAPの仲居クンの主演で、TVドラマ化されたこともあるらしい。(「白い影」というタイトル?)。
ともあれ、渡辺氏に興味のない方でも一度は読んで欲しい秀作。

男が妻子を捨て、修子との結婚を決意した時、修子の中の何かが変わった。
自立して生きる女にとって自由な愛とは何かを問う問題作

世間では『失楽園』の方が有名だが、小説としてはこちらの方が断然面白い。
三十代キャリアウーマンの自由か結婚かで揺れ動く心理がつぶさに描かれていて、同年代の女性は共感する部分が多いのでは。

第1章 恋して愛して(言葉の力タイミング ほか)
第2章 女という性(女の武器女体の美 ほか)
第3章 男という性(少年の性男の成長 ほか)
第4章 男の女のはざま(資質の違い心情の違い ほか)
第5章 愛の万華鏡(セクシイ前戯 ほか)

男と女はなぜお互いにわかりあえないのか――それは相手が自分と同じものだと考えているところに、最大の原因がある。男女の性の本質と実態を知れば、彼や彼女に対して素直に接し、理解が深まるはずだ、と著者はいう。
愛とエロスを追求し続ける渡辺文学、その華麗な作品群から選び抜かれたアフォリズム集。

渡辺淳一の『男と女』に対する考え方がギュっと詰まった一冊。
初心者はこれから読み始めると入りやすいかも。

【Amazon レビューより】
ずばり男と女の確信をついている本だと思う。男の人は女のことが女の人は男のことがこの本を読んでみたら少しは理解ができ、相手のことで悩むことが少なくなるのではないでしょうか。

男と女、生と死、自然、創作……。性愛を中心テーマに多くの名作を生み出してきた作家のゆたかな感性と、医師としての科学的そして冷静な眼による視点から、つむぎ出された珠玉の名言集。
小説、エッセイ、対談などから幅広く集めた、渡辺淳一からのアフォリズム(箴言[しんげん])とも呼べる、心のエッセンスを1冊に。

こちらも渡辺氏らしい、しなやかで、優しい感性にあふれている。
おいしいとこ取りの断片集なので初心者向き。
私が昔の渡辺氏を好むのも、こういう作品があるからです。

第1章 鈍さこそ才能第2章 腐ったものでも消化しろ
第3章 住むなら猥雑な都会第4章 遺伝子なんて変えちまえ
第5章 もの知り馬鹿になるな第6章 軽率になって恋をしよう
第7章 恋愛で頭をきたえよう第8章 無知がオリジナリティを生みだす
第9章 ゴマスリも美徳
第10章 一夫一婦制が崩れるとき

私もこの本には共感。『枠にはまった価値観など捨てろ』『常識にとらわれるな』という、失楽園作家ならでは(?)の自由な感性が面白い。

【Amazon レビューより】
反常識とは、常識を知ったうえで、それにチャレンジすること。「鈍さこそ才能」「もの知り馬鹿になるな」「無知がオリジナリティを生みだす」など、誰もが常識として信じている概念を、著者独自の理論で覆す。

凛子と久木はお互いに家庭を持つ身でありながら、真剣に深く愛し合ってゆく。己れの心に従い、育んだ“絶対愛”を純粋に貫こうとする2人。その行きつく先にあるものは……。
人間が「楽園」から追放された理由である“性愛=エロス”を徹底的に求め合う男女を描き、人間とは何かを問うた、渡辺文学の最高傑作!

言わずとしれた何とやら。
しかし、原作を読んでいると、メディアが作った不倫ブームは本質からハズれているのではないかと思ったりもする。
まあ、黒木瞳タイプが好きな人にはこたえられんでしょうなあ。

【Amazon レビューより】
要は、渡辺淳一の作品をどう読むかということにつきます。
文学作品として読めば、バカバカしいという感想があり、金を返せということになりましょう。
氏の作品はほとんどが「サラリーマンの童話」でしかないし、本人もそう思って書いていることでしょう。
ハードコア・ポルノならぬソフトコア・ポルノといっては語弊があるかもしれませんが、サラリーマンは「見果てぬ夢」をこの男性主人公に投影しているのだと思いますよ。エンタテインメントとして読めば素直に面白い小説だと思えるのではないでしょうか。

男と女・この永遠に変らぬ愛と哀しみ桐壷の更衣・儚なげさで男の愛をひきつける藤壷(前半)・母の面影をとどめる憧れの人源氏と頭中将・立派すぎる妻をもった夫の苦渋女性論・貴族の男たちが好む女性とは光源氏・さまざまな女を口説く手練と手管空蝉・愛を拒むことで自らの存在を示す
永遠の憧れの人「藤壷」、男を容易に受け入れる「夕顔」、プライド高い「葵の上」、嫉妬に苦しむ「六条御息所」、慎ましく控えめな「明石の君」、理想の女に育てられる「紫の上」等、不朽の名作「源氏物語」に登場するヒロインたちの愛のありよう。
光源氏と彼をめぐる女たちの「愛する理由」「愛される理由」を、恋愛小説の大家が説く。千年の時を超えて現代によみがえる、男と女の愛の指南書。

源氏物語に登場する女性達を『愛の対象』として見つめて、詳しく分析している。どんな女性も、いずれかのキャラクターに当てはまるのではないだろうか。
源氏物語を楽しむ上でも興味深い一冊。

【Amazon レビューより】
人生には色々な恋愛の可能性が残されている。しかし、その全てを経験することは通常不可能である。
一人の男性を取り巻いた女性のそれぞれの愛の形を分析し、古典から受け継がれる恋愛論・女性論として発展させている。
愛されるコツをもう一度考え直したいときにお勧め。

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著書で語っているように、中学・高校で教わる「源氏物語」は肝心な部分をぼかして曖昧なかたちで教えるので、その良さがわからなかった。この本を読んでから古文や古典の勉強をすれば、やる気も出ただろうと思う。

自分よりもはるか年若い霧子を理想の女に変貌させるべく、ひたすらに愛を注ぐ秋葉。その献身を受け入れながら華麗に成熟、化身していく女。
霧子に訪れる新しい旅立ちを見守りつつ、とまどい揺れうごく男。愛しあいつつも、歳月とともに垣間みえてくる男と女の本音と、性の深淵を描き、現代の愛の小説の頂点をきわめた渡辺文学の代表的長編小説。

黒木瞳主演の映画も製作された、渡辺氏の代表作。
設定はいつも通り、銀座系のオヤジと無垢で美しい独身女性の不倫話だが、一方、自立を求める若い女性の心理も巧みに描かれ、共感する部分は多い。
ラスト、霧子が秋葉に宛てた、別れの手紙の内容は秀逸。

【 映画版はこちら 】

中年文芸評論家の愛人となったヒロインが、男との付き合いによって徐々に変身を遂げ、さらには自立へと目覚めていく過程を描いた作品。宝塚出身のヒロイン・黒木瞳が大胆なヌードを披露して話題になった文芸エロス大作。
脇役の阿木燿子の美しさも絶品。女優を眺めるだけでも、面白いかも。

東京の会社社長・遊佐は、京都の料亭「たつむら」の女将・菊乃と深い関係にあった。が、その年の桜見物に菊乃の代役をつとめる娘・涼子の初々しさに惹かれるものを感じた遊佐は、もう一度一緒に桜を見に行こうと約束する――。
母娘(おやこ)丼の不倫劇の真骨頂。

あまりに男の側に都合の良い結末に唖然とさせられるが、まあ、渡辺作品だから仕方ない。
とはいえ、京都を舞台にした作品を描かせると、渡辺氏は実に上手い。
京風の言い回しも、京女の気性も、よく知っていらっしゃる。
京都人もびっくりの精通ぶりです。

【 映画版はこちら】

岩下志麻さんの京女っぷりが最高。
和服も似合うし、京都弁も上手だし、これ以上の適役はない。
オバサンとはとても思えない、熟女の色気が満開です。

整形外科医の冷めた眼と、作家の温かな眼で男と女の心と肉体を見つめ、つねに最も新しい愛の形を文学に昇華してきた渡辺淳一。その全著作から、華麗な愛の世界をつむぎだす名文句、あるいは現代の愛の諸相に対するしゃれた警句、そして数多くの死に立ち合う中から育まれた生と死への考察の言葉など334をセレクト。
渡辺淳一の豊熟な世界をまるごと収めたアフォリズム集。文庫オリジナル。

前出の『男と女』より一世代古いアフォリズム集。『失楽園』が大ブームになる前に出版されたもの。
内容的には『男と女』と似たような感じだが、こちらには『生』や『死』にも触れた断片が収載されている。渡辺淳一って、どんな感じ? という初心者にオススメ。

恋の痛手から、アムステルダム支社に転勤した女のもとに、かつての不倫相手から電話が入る。
「パリにいる。もう一度、君に会いたい」と。
行くべきか、否か、フライトぎりぎりまで迷い、揺れる、女の心理を巧みに描いた表題作、他、短編集。

短編とは思えないほどスリリングな話の運びに引き込まれた。
会いたい、でも会うべきではない、せめぎあう心の動きを追うように、過去の出来事が次々にフラッシュバックする。
女性なら、自分を捨てた男に対する愛憎はよく理解できるのでは。
話がどうこうというより、「この短編は上手い!」と思わずうなってしまう、氏の筆致が冴える秀作。

最近の作品は全然読んでないです。

やっぱ、昔のエッセー、特に医療ものが良かった。

もう一度、「公園通りの午後」や「無影灯」みたいなのを書いて欲しいけど、押しも押されぬ性愛小説の大家になっちゃった今、それは叶わぬ望みなんでしょうかねえ。。。

ああ、悔しい。。。

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