書籍と絵画

姉妹という半身 ~萩尾望都の傑作マンガ『半神』

2011年10月24日

少女漫画に興味のない人も一度は読んで欲しいのが、萩尾望都、竹宮恵子、山岸涼子の作品。
中には、あまりに抽象的で理解しがたいもの、その世界観について行けない作品もあるけれど、総じて『天才の仕事』を感じるから。

そう、この人たちは、本当に「天才」と呼ぶにふさわしい天才だ。

作家や映画監督になっても成功しただろう。

表現の手段が「マンガ」というだけで、独創性や芸術性においてはルネッサンスの巨匠に並べたいぐらい。

この方達の作品をライブで楽しめた──というだけでも、この世に生まれた価値があると思う。

私、すっかりオバサンですけど、ことサブカルチャーにおいては60年代生まれであることを自慢したいぐらい、幸せなんだよね。

そんなお三方の作品の中でも、特に際立っているのが──いや、それを書き出せば途方もなく長いリストになるので──今回は、姉妹がいる人向けに『半神 (小学館文庫)』について書きたいと思う。

*

これは腰と腰がくっついた、シャムの双子の物語。

一人は天使のように美しいユーシー。もう一人は、美しい妹に全部栄養を吸い取られて、カピカピのおばあさんみたいになってしまったユージーだ。けれど知性や能力はユージーの方がはるかに優り、無知で赤ん坊のようなユーシーを傍らでずっと世話しなければならない。

にもかかわらず、周囲の関心や愛情はユーシー一人に注がれ、ユージーはいつも貧乏クジ。何をしても美しい妹と比べられ、ユージーには居場所がない。

だからユージーは決して表に出さないけれど、心の奥底にこんな苦悩を抱えている。

わたしは一生 こういう目にあうのか
一生 妹への褒め言葉を聞き
妹をかかえて歩き 妹にじゃまされ
一生 このいらだちとともにすごすのか
いっそ妹を殺したい 
私の不幸はそれほど深い

そんなユージーの苦悩も、13才になったある日、ついに終わりを告げる。
ドクターが二人の分離手術を申し出たのだ。
このままだと十分に栄養が行き渡らず、いずれ二人とも死んでしまう、というのがドクターの見解だった。

危険な手術だったが、二人はついに分離され、ユージーは徐々に体力を取り戻してゆく。
だが、元々、身体の弱かった妹のユーシーは……。

まるで鏡で自分の半身を見るような結末だ。

*

ユージーの気持ちは、年の近い姉妹、あるいは、あまりに容姿や能力で差のある姉妹が居ると、大なり小なり経験する気持ちではないかと思う。

姉妹って、いい時はいいけれど、いったん比較の対象になると、もう一方は精神的に死ぬしかないもの。存在できない──とでもいうのか、内側で押しつぶされるような体験だ。

だから、ユージーのように「あんなヤツ、いなくなってしまえばいい」という気持ちにもなる。

でも、それは決して「呪い」ではなく、自分という存在を認められたいという、血を吐くような叫びなのだ。

ユージーは、念願がかなってユーシーから切り離され、「一人の女の子」として謳歌する人生を手に入れるが、その時、自分の半身だったユーシーは、まるで光と闇が入れ替わったように、彼女の目の前から消えて無くなる。

『半神』は20数ページの短編だが、覚えのある人なら心に突き刺さるような、恐ろしくも切ない秀作である。

萩尾望都のお気に入りコミック

双子の姉妹ユージーとユーシー。神のいたずらで結びついた2人の身体。知性は姉のユージーに、美貌は妹のユーシーに。13歳のある日、ユージーは生きるためにユーシーを切り離す手術を決意した……。異色短編「半神」、コンピューターが紡ぎだす恋の歌と夢「ラーギニー」、植物惑星オーベロンでも男女4人の一幕劇「真夏の夜の惑星」など香気あふれる傑作ストーリー全10編。

望都さんのスゴイところは、短編を描かせても、長編を作らせても、まるで一個宇宙を生むような、創世の才能に満ちあふれている点。同業者でもカリスマのように崇める人がいるのも、もっともな話。
特にこの「半神」は本当に短い話なんだけど、「腰で繋がった双生児」という独創的な設定に「姉妹」の葛藤が見事に凝縮され、これ一作だけでも圧倒される。この話に救われる人もあるかもしれない。

宇宙大学受験会場、最終テストは外部との接触を絶たれた宇宙船白号で53日間生きのびること。1チームは10人。だが、宇宙船には11人いた! さまざまな星系からそれぞれの文化を背負ってやってきた受験生をあいつぐトラブルが襲う。疑心暗鬼のなかでの反目と友情。11人は果たして合格できるのか? 萩尾望都のSF代表作。

これも傑作中の傑作。ハリウッドで映画化すれば脚本賞取れるんじゃないかしら。
萩尾さんの作品読んでると、ジョージ・ルーカスやジェームズ・キャメロンもかすんでしまう。
ネタバレになるけど、「11人いる!」というのは単なるタイトルではなく、「この世で起こりうる事」の象徴でもある。
その「11人目」に対してどう対処するか……というのが、合否のポイントなのね。
男性が読んでも引き込まれること請け合い。
しょーもないアニメやゲームの原作漫画が翻訳されて世界の市場に出て行くより、こういう作品こそ翻訳されて「日本のマンガ文化」として紹介された方がポイント高いと思うワ。
どうでもいい話だけど、寺沢武一さんのSF傑作漫画「コブラ」がフランスで実写化されるのが待ち遠しいです。

ぼくたちはロケットが大好きだった。土曜日の朝の宇宙空港、爆音とともに大空へ消えゆく光点。いつかあのロケットで星の海を渡っていくことを、ぼくたちはずっと夢みていたのだった…。少年たちの宇宙への憧れに満ちた表題作をはじめ、深海の闇にまどろむ恐竜を100万年の時を越えてよびさます「霧笛」、万聖説の宵は妖魔たちの饗宴「集会」など、レイ・ブラッドベリの傑作短編を萩尾望都が描く、珠玉のSFポエジー全8編。

世界広しといえど、レイ・ブラッドベリの短編をカンペキに視覚化できるのは望都さんぐらいではないかと思う。
詩のように美しい中に、脆さ、はかなさ、淋しさといったものがちりばめられて、まるで夜空にきらめく星座のよう。
ブラッドベリの同名小説「ウは宇宙船のウ【新版】 (創元SF文庫)」も、よかです。
宇宙船のパイロットである夫がもし星の彼方で死んだら、夜空を見るのがきっと辛くなる……という母の元に届いたのは、船が太陽に落ちたという訃報。それから母と僕の生活は──。この短編がすごく心に残っています。

一角獣種(といっても頭に角があるわけではなく頭に盛り上がった部分があり、そこの髪が赤い)のヒロイン、アディ(A)は未開の惑星プロキシマの研究中に事故死し、そのクローン(A’)が再生されてコンピューター・プロデュースの仕事を続行する。アディのオリジナル(A)に恋していたレグはクローンにオリジナルに対するような愛情を抱けない、いや、抱いているのかもしれないが、レグとの記憶のないクローンに身を引き裂かれるような感情を抱いてしまわざるを得ない。クローン羊ドリーの誕生や、理論的に人のクローンを作ることが可能となってしまった現在、科学が抱える問題を作品化(=SF)すると言う野心的な作品であるが、なんといっても萩尾 望都が一番描きたかったのは、やはり深い人間愛である。

これは佳作に分類されるんだけども(佳作といっても、他の作家なら名作と呼ばれる域)、ポエジーな恋愛感情とシャープな未来世界がミスマッチで、何とも切ない読後感がある。最後は「あっ」と驚くようなオチで、あれを見てしまったレグが、○○○○する気持ち、本当に理解できる。大人向けの作品だよねー。

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