映画

上質な大人のラブロマンス ジェイソン・ステイサムの『ハミングバード』

2017年2月9日

ジェイソン・ステイサムって、アクションは上手いし、顔も上等だし、どこをとっても申し分のない、いい役者さんだな……とは思っていましたが、長い間、いまいち好きになれませんでした。

理由は、ジェイソン・ステイサムは、アクション映画に『薔薇とワイン』を持ち込むからです。

アクション映画というのは、零下10度の雪山を半袖でサバイバルしたり、マシンガンを持った相手を素手で殴り倒したり、どう考えても10回ぐらい死んでそうなシチュエーションを、何の臆面もなく演出する作品をいいます。
激しい銃撃戦になっても、シルベスタ・スタローンの周囲だけは着弾せず、敵側のボスもさっさと起爆装置を押せばいいのに、「なぜ、ジェーンが死んだか教えてやろうか。シンジケートの黒幕は、このワシなんだよ。ジェーンが死んだのは、それに気付かなかったお前の落ち度だ。恨むなら、自分の愚かさを恨め……」……etc、べらべら喋りまくってる間に、ブルース・ウィリスが手首の縛めをガラスの破片で切断し、一気に形勢逆転する、あの白々しさが醍醐味なんですね。(さっさとボタン押せよ、みたいな。「喋りは身を滅ぼす」の典型)

ところが、ジェイソン・ステイサムは、本来、マッチョで、馬鹿馬鹿しくあるべきアクション映画に、『薔薇とワイン』を持ち込んでしまう。

ランボー』と『ダイハード』で育った私には、ジェイソン・ステイサムの知的でダンディな雰囲気があまりに眩しすぎて、しまいに腹が立ってくるんですね。カッコよすぎて。

で、長い間、ジェイソン・ステイサムの作品は避けて通っていたのですが、2013年公開のイギリス映画『ハミングバード』にはメロっときました。

どれくらい心惹かれたかというと、ブルーレイを買っちゃったよ。。

ハミングバード

物語はいたってシンプル。

アフガニスタンで五人の仲間をコロされたジョゼフ(=ジェイソン・ステイサム)は、その報復として、現地の民間人を独断で殺害し、軍法会議にかけられる。逃亡したジョゼフは、ロンドンでホームレスに紛れて暮らしていたが、ある晩、ギャングに追われ、偶然、高級アパートメントに転がり込む。オーナーが半年ほどニューヨークに滞在することを知ったジョゼフは、『男の恋人のルームメート』を装い、中華料理店で働き始める。中国人系オーナーに腕前を見込まれ、汚れ仕事も引き受けるようになるが、一方で、ホームレスに炊き出しをするポーランド系の修道女、シスター・クリスティーナと心を交わし、彼女のボランティア活動を陰ながら支えるようになる。
そんな折り、知り合いの女性が殺害されたことを知り、ジョゼフはギャングのネットワークを利用して、復讐を試みる。
そんな中、ジョゼフとクリスティーナの絆はいっそう深まるが、、、、。

対象との程よい距離感

アメリカ映画も、イギリス映画も、たいてい主音声が『英語』で作られていて、よほどの通でなければ、その違いは分かりにくいと思います。
『ハミングバード』も何も知らずに見ていたら、多くの人は「ハリウッド映画」と思うでしょう。
でも、イギリス映画は、ハリウッド映画と違って、『対象(あるいはテーマ)』から、ちょっと距離を置くところがありますね。
ハリウッド映画が直裁的でゴテゴテの芸風とすれば、イギリス映画はどこかぼやけた風景画という感じ。
ラブシーンでも、ハリウッド映画はお約束のようにヒロインと主人公が激しく絡むけど、イギリス映画は「そういう情事がありましたよ」と背景で語ることが多い。

たとえば、私が一番好きなのは、互いの気持ちを確かめ合ったジョゼフとクリスティーナが一夜を共にする場面。
直接的な絡みは一切なく、二人が身に着けていたものが点々とテーブルに置かれる演出。
それでも、徐々に距離が縮まり、一枚ずつ服を脱いで……という情景が目に浮かんで、エロティックでしょう。
池上遼一の劇画にも、こういう演出がありますけど、下手にその場面を描くより、よほど上品で、印象的です。

ハミングバード

ハミングバード

ハミングバード

二人が初めて口付けを交わす場面も、中学生のファーストキスみたいで、どきどき♪

お堅い修道女のクリスティーナに赤いドレスをプレゼントし、写真家のパーティーに招待するジョゼフ。
軽く酔ったクリスティーナとついついショーウィンドウ・チューしてしまう。(「ショーウィンドウの前でキス」は恋愛映画の定番ですね)

ハミングバード

ここに至るまで、ジェイソン・ステイサムにしては、ずいぶん喋りで、おどおどして、初めてキスする中学生みたいで、すごく可愛いんだよね。
こういう演技もできるんだなあ、と見直しました。

ハミングバード

そうかと思えば、マッチョなジェイソン。この方は、こういう立ち回りを演じさせたらピカイチですよね。
トム・クルーズが「オレって、カッコよくね?」という、計算されたノリであるのに対し、ジェイソンのアクションは日本の殺陣のようにスマートで、そつがない。若山富三郎や柳生十兵衛の剣術を見ているような感じ。

もう一つのポイントは、ポーランド系の女優、アガタ・ブゼクの可愛さ。アガタの話す英語は、もろポーランド人の喋り。アクセントがね。
ああ、うちの同胞だなあ、と。親近感をおぼえます。

そのくせ、役柄においては、けっこう大胆で、ちゃっかりしてて、必ずしも完璧な『天使』でないところが魅力。

クリスティーナにとっても、ジョゼフにとっても、二度と戻らない至福の時で、まさに現代版『ひと夏の恋』です。

リデンプション 償い

アメリカ版のタイトルは『Redemption』(償い)。

罪なき民間人を殺したジョゼフと、正当な理由があったとはいえ、体操教師を殺してしまったクリスティーナの、それぞれの償いを描いています。

罪を負った人間に共通するのは、「償いをする人間は決して幸せになってはいけない」という刷り込みの観念でしょう。

本人がそれを自分に課している場合もあるし、世間が幸せになることを許さない場合もある。

では、罪を犯した人間は、正しく生き直すことも、人を愛し愛されることも、真っ当な暮らしをすることも許されないのか……と問われたら、決してそうではない。

そこに贖罪の気持ちがある限り、どんな罪人も、人間らしく生き直す機会を与えられるというのが、世界共通の認識かと思います。

でも、一度でも罪を犯してしまえば、もうそれ以前には戻れないというのが、普通の良心をもった人間の感覚でしょう。

傍が許しても、自分で自分を許せない、自分みたいな人間は幸せになってはならないのだ、という自責の念から、幸せになるチャンスにもわざと背を背け、再び破滅に走ってしまう人も少なくないと思います。

本作でも、クリスティーナは、ジョゼフと手を取って幸せになることもできたし、ジョゼフもギャングの力に守られ、たとえ裏社会でも、それなりに恵まれた立場で生きていくこともできたでしょう。

それでも、やはり自分で自分を許すことができない。

贖罪の立場にある者は、一生、自分に厳しい課題を課し、笑うことも、休むことも献上して、世のため人のために奉仕しなければならない。

一種の強迫観念の中で、自分にそれを義務づけた人たちです。

ただ、その強い観念の中にも、淋しさや甘えといった隙間のような部分があり、本作はその奥底を上手に描いています。

語りすぎず、近づきすぎず、互いに贖罪の誓いを恐れるように遠くから寄り添う。

その距離感が、(なかなか、そうとは分かりにくいけども)、この映画の脚本と演出の上手さなんですね。

恐らく、地上に生きている限り、彼らの救いは永遠にない。

アフリカに赴任したクリスティーナには大変な苦労が待ち受けているだろうし、ジョゼフも今度は軍だけでなく、ギャングにも追われ、どこにも安住の地などありません。

それでも、人間らしく働き、愛し合ったひと夏の思い出に支えられ、再び悪事に手を染める事はないでしょう。

もしかしたら、本物の救いは、『神』や『天国』ではなく、すぐ側にいる人の真心であり、触れ合いなのかもしれません。

移民とギャング

移民の犯罪組織といえば、『映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』~中国の台頭と移民コミュニティ』でもリアルに描かれていますし、オーソドックスなところでは、やはり『ゴッドファーザー』が有名でしょう。

本作にも、中国系移民の犯罪組織が登場します。派生のプロセスは、コルレオーネ・ファミリーとは全く異なるでしょうけど、元々、同胞を守る集団だったのが、次第に暴力や裏金と結びつき、一帯を支配する一大勢力に成長したんでしょうね。

どこへ行っても、人種差別、移民差別は当たり前。文化も言語も違う、外から入ってきた人間が地元民より成功することは、まずない。
まして、人種的に下の方だと、まともに暮らすのも困難だったりします。

中国系幹部が口にする「ここで成功して、白人を雇うのがオレたちのステータス」という言葉が全てを物語っています。

そんでもって、本作に登場する「ボス」が凄い。

どこからこんな強面のオバチャン役者を連れてくるのか、海外の映画界は、ホント、奥が深い。

どうやって、ここまでのし上がったのか、スピンオフで描いて欲しいですよね。『ハミングバード外伝』とか。

ハミングバード

人身売買(密入国)の現実も取り入れています。

ハミングバード

DVD

まさか買うとは思わなかった、ジェイソン・ステイサムのブルーレイ。これだけは私にとって特別な存在。
どこがそんなにいいの? と問われたら、「いつものジェイソンと、ちょっと違うから」
この作品に限っては『薔薇とワイン』で許す。

HuluやNetfilixなどにも出回っているので、機会があれば、ぜひご覧下さい♪

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