虐待のニュースが世間を騒がせて久しいが、虐待について語る際、一点、区別すべきことがある。
それは、「虐待」と「愛憎」は別だということだ。
これを混同すると、親子間のねじ曲がったものは何でも「虐待」と解釈され、加害者と被害者の関係になってしまう。
そうではなく、「愛憎のもつれ」による精神的・肉体的暴力もあり、それが「虐待」とは決定的に違うのは、「お互いが求め合っている」という点にあると思う。
ここに紹介するエミネムのヒット曲「Cleanin’ Out My Closet」は、母親との屈折した関係を生々しく歌い上げたものである。
ビデオクリップに登場する母と子のシーンは、恐らく、エミネム自身のものだろう。
息子の目の前でクスリをあおり、怯えてクローゼットに隠れている息子の身体を暴力的に引きずり出し、息子が想いを込めて作った「お母さん、ごめんなさい」のHappy Cardさえも、「なによ、こんなもの」と足元に投げつけてしまう……。
普通に考えれば、こんな母親は最低で、思い出す必要もないだろうに、成人して、何十年とたった今でも悪夢のように子供の心に取り憑き、このような歌を作らせるところを見ると、母親というのは腐っても「母親」であり、腐った母親でも慕い、求めずにいないのが「子供」という気がしてならない。
実の母親の愚かさを暴露しつつも、「ごめんよ、あんたを傷つけるつもりはないんだ」と心を添える――。
これが子供の優しさであり、多くの親が救われている慈悲深さである。
これほどまでに思われ、これほどまでに赦されながら、まともに愛を返せない母親というのは、何と罪深い存在なのだろうか。
これがエミネムに限った話ではなく、普通の親の、普通の日常にも、こうした愚かさと赦しのやり取りは必ずやあるはずで、そうとは気付かず、子供の愛の上にアグラをかき、我が物顔で生きているのが真実ではないか……と思うと、このビデオに登場する鬼のような母親が決して他人には思えないのである。
これは誰が歌っても哀しい歌だ。
こんな哀しい歌を子供に歌わせてはいけない。
§ エミネム公式サイトより
1972年10月17日生まれ。本名マーシャル・”ブルーズ”・マザーズⅢ。 12歳までカンザス・シティとデトロイトを母親と2,3ヶ月ごとに転々とし、友達もできず、トラブルの絶えない生活を送る。 「唯一の安らぎがラップだった」というエミネムが繰り出すそのライムには幼少の頃からの環境/リアルな経験が刷り込まれ、 結果的に過激に響くそのライムは類まれなる強烈な世界観を生み、全世界の若者達の熱狂的な支持を得ている。
/video/closet.flv
日本語訳はこちらのサイトからお借りしました。
Cleanin’ Out My Closet – Eminem
http://plaza.rakuten.co.jp/lyricsmusics/diary/200711140000/
憎まれたことがあるか、差別されたことがあるか
俺はあるぜ
抗議もされたし、デモもされた
デモのプラカードは俺の邪悪な詞に向けられた
タイムズを見てみろよ
この騒動の裏には
心が病んでいるいまいましい奴がいる《翻訳困難》
心の動揺は深いぜ。海の底での爆発のように
親からぶつけられた癇癪は無視して前に進むだけ
誰からも何も奪うつもりはない
ただただ息が続く限り与え続けるぜ
朝からひたすら尻を蹴り続け、夜にはブラックリストに載る
やつらの口を酸っぱくして後味の悪い思いをさせ
ほら、やつらは俺に向かって引き金を引くことはできるが、俺を理解することはできないんだ
さあ今の俺を見てくれ、
きっとあんたは俺にうんざりしているんだろうけどな
そうだろう、母さん、
今度はあんたを笑いものにしてやるぜ
ごめんよ、母さん
あんたを傷つけるつもりは全然ないんだ
あんたを泣かせるつもりは全然ないんだ
でも今夜は、クロゼットに隠されていたものを全部ぶちまけるんだ
やりきれない思い。
憎みきれない憎しみ。
読むだけで、とても切なくなる。
ここにあるのは、怒りでも恨みでもなく、超えようのない愛憎だ。
この傷が、「親」の立場にある人に分かるだろうか。
§ Video
こちらは私が大好きなエミネムの大ヒット曲。
映像はぎりぎりセクシーですが、メロディアスで、SnoopyDoggとの掛け合いがとってもクールです。
映画「羊たちの沈黙」をモチーフとしたパワフルなVideo。
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ポップ・アイコンにして、レイシスト、セクシストのレッテルを貼られた社会の脅威…ポジ、ネガ両方の意味で、まさに時代の寵児(ちょうじ)となった白人ラッパー、エミネムの伝記だ。政治と経済に見捨てられたデトロイトのスラム街でいじめられっ子として育った少年時代から初の主演映画『8マイル』までの軌跡を、本人及び家族、関係者のインタビューをもとにたどっている。
しかし、これはサクセス・ストーリーではない。貧困と人種差別の中で育ったマーシャル・マザーズという少年が、自分を育てた社会に復讐(ふくしゅう)するためにスリム・シェイディ、そしてエミネムになるまでを描いた復讐の物語だ。スキャンダラスという意味では興味深い。けれど、真実と虚構の境界線は曖昧(あいまい)だ。なぜなら、インタビューが著者によるものではないからだ。インタビューをもとにしていると書いたけれど、実は著者は本書を書き上げるにあたって、さまざまなメディアに発表されたインタビューを再構成している。よって、著者が描きたい「物語」にあう発言だけを選んでいる可能性は否定できない。もちろん、冷静な分析や筆致に、でっちあげの匂いは皆無だ。しかし、その点に留意しつつ読みすすめる必要はあるだろう。皮肉っぽい言い方をすれば、著者にそのつもりはなくても、本書もまたエミネム伝説、つまり虚構を作り上げることにひと役買ってしまうことになるんじゃないだろうか?
ラストは、社会を戦慄(せんりつ)させることによって、復讐を遂げたエミネムが表現活動のモチベーションを失ってしまうんじゃないか? と、彼の未来に一抹(いちまつ)の不安を投げかけ、しめくくられている。(山口智男)
過激な言動で知られるエミネム。
ポップ・アイコンにして、レイシスト、セクシストのレッテルを貼られた社会の脅威…ポジ、ネガ両方の意味で、まさに時代の寵児(ちょうじ)となった白人ラッパー、エミネムの伝記だ。政治と経済に見捨てられたデトロイトのスラム街でいじめられっ子として育った少年時代から初の主演映画『8マイル』までの軌跡を、本人及び家族、関係者のインタビューをもとにたどっている。




