『DEATH NOTE』 なぜ人を殺してはいけないのか

大変遅ればせながら、『DEATH NOTE』を見ました。

2003年から2006年にかけてブームだったそうですが、その頃、私は、妊娠→出産→授乳期→妊娠→出産→授乳期の繰り返しだったから、全然、気付きもしませんでした。

ネットもほとんど見なかったし。

最近になって、古本サイトでタイトルを知り、Googleで検索してみたら、いろいろ面白い関連記事があったので、YouTubeにアップされていたアニメの動画を見たところ、「やめられない、とまら
ない」状態になり、最初の晩は、夜中の3時まで、次の夜は、明け方6時までかけて全編通して見て、私の方が疲労と睡眠不足で殺されそうになりましたワ^_^;

原作を読んでないので何ともコメントできないんですけど、アニメ版を見た限りでは、
『なぜ人を殺してはいけないのか』という問いかけに1つの答えを提示したように感じました。

というか、そもそも、そんな問いかけがあること自体、おかしいんですけどね。

そしてこれは、多くの人が既に指摘されている事ですけど、これは現代の『罪と罰』でもあるな、と思いました。

参照記事;
ドストエフスキーの名作『罪と罰』 米川正夫・訳の抜粋 / 『謎とき 罪と罰』江川卓

*

ドストエフスキーの名作『罪と罰』では、頭脳明晰な青年ラスコーリニコフが、貧しさと世の不条理から(母と妹の献身的な愛がかえって彼を追い詰めてしまう)、

「すべての人間は、『凡人』と『非凡人』に分かれ、ナポレオンやニュートンのような『非凡人』は、ある一線を踏み越え、新しい法律を創造する権利を有する」

という考えを持つに至り、

「“無知で何の価値も無いような意地悪な婆”は生きていても仕方が無い――そんな婆はいっそ殺して、その金を万人の福祉に役立てた方がよっぽど有効ではないか」

という理由から、顔見知りの金貸し老婆を斧で打ち殺してしまいます。

しかし、偶然その場に居合わせた善良な大女のリザヴェータまで殺害してしまった事から良心の呵責に苦しむようになり、ついには信心深い娼婦ソーニャの愛にうたれ、警察に自首します。

「非凡人は、法をも踏み越える権利を持つ」と主張するラスコーリニコフに対して、判事ポルフィーリィは言います。

一体どいういうところで、その非凡人と凡人を区別するんです?
生まれる時に何かしるしでもついてるんですか。
さもないと、もしそこに混乱が起こって、一方の範疇の人間が、自分はほかの範疇に属してるなどと妄想を起こして、あなたの巧い表現を借りると、『あらゆる障害を除き』始めたら、その時は、それこそ……

「それこそ……」に続く言葉は、「人を殺したってかまわない」ということです。

それでも自説を曲げようとしないラスコーリニコフに対し、ポルフィーリィが投げかける言葉、

「では、その男の良心はどうなるのか?」

その時、初めて、饒舌だったラスコーリニコフの論調が鈍り、結局、その『良心』ゆえに自主するのですが、『罪と罰』で描かれている『良心』とはキリスト教における宗教的感情であり、この
物語の主旨は、「神の教えから離れた(原罪を犯した)人間が、再び、神の教えに立ち返るまで」にあるわけですね。

*

一方、『DEATH NOTE』にはいかなる「神」も登場しないし、信仰心をもったキャラクターも登場しません。

『L』や警察、Lの死後、KIRA捜査に当たるニアを動かしているのは、人間としての正義感であり、いわば法治国家に生きる社会人としての当たり前の感覚から、個人的判断で人を裁く夜神ライト
を批判しているように感じました。

ゆえに、ライトの行き着くところは社会的破滅であり、「その死は何も残さない」というオチが待っています。

最初から最後までいっさい良心を痛めることなく、一方的に裁きを続けたライトも「無宗教な現代人」なら、追い詰める方も、宗教的救済の感情は持ち合わせない(人間としての情愛からそれで
もライトを思いやる気持ちはあるけれど)「無宗教な現代人」で、そのあたりが『罪と罰』と大きく異なる点かな、と思います。

どちらが良いとか悪いとかの問題ではなく、宗教的・文化的背景の違いです。

*

私が、『DEATH NOTE』に好感を持ったのは、最初から最後まで「ライト(KIRA)は悪である」という姿勢が一貫していた点です。

「ライトの行いはこの世に必要だ」と主張するシンパは登場しますが、それは物語の枝葉の部分であって、根幹にあるのは、「どんな理由があろうと、一方的に人を殺すことは許されない」とい
う主張です。

ライトは、「僕が好ましいと思う、心の正しい、優しい人間だけが存在する世界」を作ろうとして、自分が「許せない」と感じる人間を片っ端から排除=殺害していくわけですが、『罪と罰』の
判事ポルフィーリの言葉を借りれば、

「では、正しい人と正しくない人を、どこでどう判断するのですか?」

となりますよね。

その基準となるものが『僕』であり、僕自身が絶対的存在であろうとするところに、ファシズムがあるのです。

作品の中でも『L』が「子供っぽい」と指摘しますが、まさにその通りです。

「自分の感覚こそが正しい」この思い込みの恐ろしさです。

もちろん、普通の社会人として、「世間に迷惑をかけるような人間はなくなればいいのに」と感じるのは誰しものことでしょう。

だからといって、生命まで奪うような権利は、誰にも与えられていない。

その一点において、捜査陣の態度は最初から最後まで一貫していました。

「ライトの正義感も分かるけど、でも、その行いは間違いなのだ」という強い姿勢があればこそ、読者も嫌悪感を抱くことなく、最後まで付いて行ったのではないかと思います。

まあ、「殺す」の「死ね」のと、感覚がおかしくなるくらい、「死ぬ、死ぬ、死ぬ」の連発で、私自身はこういう描写はあまり好きじゃないんですけど、作者の意図するところは、十分伝わった
と思いますよ。

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ちなみに、物語に登場する「死神」はリンゴが大好物でした。

「リンゴ」の意味するところは、『原罪』。

原罪とは、人間が神の教えから離れて、勝手に一人歩きすることを意味します。

「この果実を食べてごらん。神のように賢くなるよ」と蛇にそそのかされて、禁断の実をかじったイブは、それをアダムにすすめ、二人は、突然、自分たちが裸であることに気付き、神から身を
隠します。

ひたすら神の教えに身を委ね、心を合わせて生きていれば、いつまでも楽園に暮らせたのに、神の知恵を授かったような気分で神から離れ、自分勝手に生きるようになったが為に、迷い、苦しむ
ようになってしまった、それが『楽園追放』であり、再び、楽園に生きたければ、今一度、神の教えに耳を傾けましょう──というのが、キリスト教の流れなのですけどね。

現代の日本に置き換えれば、それに代わるものを必死に探している……とでも言うのですか。

あれがカリスマだと言われればそれに従い、こっちが勝ち組と言われればそっちに行きたがる、ふらふらと、ホントに腰の定まらないことです。

この世のこと──人間には答えられないことは『宗教的感情が解決してくれる』──と口にすることは、恐らく、今の日本では考えられないことなのかもしれません。

原作では、捜査陣に敗北したライトが、「死にたくないィイイ~」とみっともない醜態をさらした挙げ句、死神にデスノートに名前を書かれてジ・エンドとなるそうですが、この『救いのない終わり』は決してライト一人のものではないですよ。

その苦しみをどこに昇華すべきか、分からない人の方がうんと多いんですから。

*

この作品を読んだ人は、何か一言言いたくなる気持ちにさせられるものですが(私もこうしてレビューを書いちゃったし)、作品の評価がどうこうというより、『人間の生命』というのはそれだ
け語る価値がある──という事でしょう。

『なぜ人を殺してはいけないのか』。

でも、この世のことは、「絶対的な答え」を出すのが目的ではなく、『なぜいけないのか』を考えることに意味があるのだと思います。

*

『DEATH NOTE』が1つの答えを示して、それを受け取る読み手がいる。

そして、そこから始まる問いかけがある。

そこに、この作品の本当の価値があるんじゃないかな、と。

*

そんなこと、考えてもくだらない。

わかりきっているじゃないか。

*

──で終わらせるのは簡単なこと。

でも、その一点を考え抜いた時、人は、確かに、扉を一枚超えるものです。

『なぜ人を殺してはいけないのか』の問いかけに右往左往するのは、「正しい答え」を与えようとするからで、大事なのは、それについて考えさせること。

私としては、『DEATH NOTE』の愛読者には是非とも『罪と罰』を読んで欲しいけども。

その前に、教養としての宗教を身につけるのが先かもしれませんね。

§ あとがき

最近、日本とのタイムラグが著しいです、ハイ。。。

この話もネタとしては終わってるんだろうな、と思いつつ、でも、やっぱり、書いてみました。

私はやはり、今こそ若い人に『罪と罰』を読んで欲しい──と思うから。

それに宗教のことも、正しく勉強して欲しいですよね。

無宗教がダメとは言わないけれど、やはり「人間の知恵」では応えられないものがありますからね。

自分たちの知恵だけで何とかしようとする、そのあたりに現代社会の限界があるんじゃないか、と思ってもみたり。

「神様が見てるよ」

この一言が通用しない。

それがどれほどやりにくいか、ちらりとでも考えて下さったら有り難いです。

『DEATH NOTE』に関連する本

私が超おすすめしている米川版。
クラシックで格調高い名訳です。
昔ながらの文学作品がお好きな方におすすめ!

とにかく小畑健さんの絵が上手い!
素晴らしい表現力だと思います。
ストーリーは馴染めなくても、小畑さんの絵を見るだけでも十分価値があります。

超人気コミックに秘められた謎、主要キャラの心の内側を心理学的見地から徹底解剖。
DEATH NOTE完全心理解析書

「難しいけど面白い!」その魅力を詳しく易しく解説する。
完全解読“DEATH NOTE”NOTE

話題を席巻したアニメ版。ライトを演じた宮野真守さん、『L』を演じた山口勝平さんも名演でした。

そんでもって音楽が素晴らしい。このサントラはおすすめです。
ホルモンのオープニングも良かったですね。

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