Notes of Life

『神は死んだ、俺たちが殺したのだ』 ニーチェと愛の処方箋

2010年11月3日

ニヒリズムが蔓延しだした19世紀末、ドイツの哲学者ニーチェは言いました。

『神は死んだ』と。

『神』=すなわち「人間を導く超越的真理」「時を超えて人間を導くもの」「道なるもの」「理念」「世界軸」。
著しい科学の進歩や、多様な価値観や個人主義、溢れかえる情報が、それに代わるものを見いだせぬまま、私たちの『神なるもの』を殺したとニーチェは主張し、それゆえの人間の不幸と社会の混乱を指摘し続けました。

身近な例を挙げれば、教師の権威が失墜して、学級崩壊をきたしたような状態。
「教師の言うことなんか聞いてられるか」
「授業中に携帯かけて何が悪いの? 誰にも迷惑かけてないじゃん」
従うべきルールや人を導くものが無くなれば、皆、好き勝手しだしてメチャクチャになる。
そのくせ、「何の為に勉強するの?」「将来、何をすれば良いの?」
「友達付き合いに悩んでます」となった時、何処に答えを求めれば良いのか解らない。
指針となるものもない。
だから迷う。空しくなる。

――そういう状態。

そこで、ニーチェは『現代人の処方箋』について考えました。

人間の生の本質は、欲求とそれが満たされないことのギャップに生じる苦悩にある。
つまり、人間にとって苦悩は避け難い本質として存在する、ということになる。
人間がこの避けがたい生の苦しみの中で、そこから逃げる道筋は三つしかない。
宗教、芸術、道徳である。
これらだけがそれぞれ独特の仕方で、人間に生の苦悩から脱却し得る可能性を与える。

ニーチェ (FOR BEGINNERSシリーズ イラスト版オリジナル 47) 竹田青嗣 著

要約すれば、【 現実世界の超え難い矛盾にもかかわらず、いかに生を是認し、肯定できるように考えるか 】

これがニーチェの哲学の根幹であり、処方箋への道筋なんですね。

世の中には、美人もいれば、そうでない人もいる。
ステータスの高い人もあれば、ネットカフェで寝泊まりしているような人もいる。
宝くじで3億当てる人もいれば、事業に失敗して1億の借金を作るもいる。

個々の違いは厳然と有るし、すべて公平とはいきません。

皆、それぞれに、何らかのルサンチマン(怨念)を抱えて生きているのが現実です。

「生の肯定」とは、ありのままの自分を認め、受け入れる所から始まります。
貧乏なら貧乏、不器用なら不器用、その事実を自分の現実として、そっくり受け止め、そんな自分に「YES」というところ
から始まるのです。

ニーチェは言いました。
「自分の価値は自分で見出せ」と。

それは自分自身に「YES」という気持ちから始まるのです。

そしてひとたび、自分の価値を見出したら、自分の良さを最大限に発揮できるような生を築き上げていこう。
神や他人に頼るのではなく、両足を大地にしっかと踏みしめ、自分の力で上へ上へ登っていけ、というのがニーチェの教えでした。

ところが人間はそんなに強くない。
迷いもすれば、過ちもする。
どうしたって救いが欲しいし、道を説いてくれるものも欲しい。
ニーチェの言う通り「自分」を基軸に生きていたら、何処かで無理が生じるし、行くべき道を見失ってしまいます。
また、彼は「超人」になれ、「自らを超克して強くなれ」と説きましたが、誰もがそんなに強くなれない時もあるんですよね、現実には──。

となると、やはり人間には『神なるもの』が必要。

じゃあ『神なるもの』て何だろう?

人間にとって、
「人生の指針となるもの」
「世界の基軸となるもの」
「人間を導く道となるもの」
「時を超えて生き続ける真理」
とは、一体、何?

与えてくれるのは誰?
教えてくれるのは誰?
どうやってそれを伝えていくの?

私はどうしてもニーチェの先にあるものが知りたくて、背伸びもしてみましたけど、今のところ、コレと納得行くものは見つかっていません。

最後に――

新作『ジャンヌ・ダルク』を完成させた、映画監督リュック・ベンソンの言葉。

Q:なぜ世紀末のヒロインに、ジャンヌ・ダルクを選ばれたのですか?

ベンソン: 現代は、信じられるものがない。だから、何かを信じぬいた少女を描きたかった。

ジャンヌが「信じぬいたもの」って何だと思います?
私は、「神の声」そのものではなく、『私は神の声を聞いた』という「自分自身」だったと思います。

記: ‘99.12.16

ニーチェに関するその他の記事

要は、『愛の問題』と結論づけたら、どつかれるのかな(笑)

でも、結局のところ、それしかないんじゃないか、と私は思うのだけど。

女性に縁のなかったニーチェ。

『自己超克』などしなくても、不完全な自分を支えてくれる人を見つければいい。

不完全な人間同士、温め合い、助け合い、そっと寄り添って生きていけばいい。

それで万事、解決するんじゃないか、と。

ニーチェに手紙を書きたくなったのが、1998年末のこと。

強く生きるのは、私も好きだ。

でも、強く生きられない人のために、愛の処方箋も要る。

神は死んでも、愛は生き続ける。人の世のある限り、きっと永遠に。

今は、書を閉じて、バレンタインを君と祝おう。
私の青春を支えてくれた、「ツァラトゥストラ」と共に。

『のぼれ、のぼってこい、お前、偉大なる正午よ──』

その陽の中に、ハート型の輝きがある。

ニーチェ おすすめ書籍

数ある翻訳の中でも、一番読みやすかったのが、手塚富雄氏によるもの。
以下のレビューにあるように、詩のようにさらさら読める。
「哲学」と構えずに読めば、すっと心に入ってくる名言ばかりだ。

【Amazonレビューより】
でも、ニーチェは詩人でもあった。というより、私は彼が論理的なものを軽視したとは思わないが、彼はそれ以上に詩人だったのだと思う。「ツァラトゥストラ」などはまさに詩人の手になるものだ。
「超人」だの「運命愛」だのなかなかのキャッチコピーだし、ちょっと劇画調すぎてこちらが気恥ずかしくなるくらい。
専門の哲学者たちはともかく、ニーチェの文学者たちからの受けはいい。これは文学書ではない、とわざわざ註を入れて「ツァラトゥストラ」を必読書に挙げている文学者の数は知れない。 「ツァラトゥストラ」は文学書として読んで一向に構わないと思う。
それに、–こんなことを書くと怒られそうだが、ニーチェほど読みやすい哲学者はいない。

この本はイラストだけでも十分面白い。
60年代のサイケデリックなスタイルで、今風のイラストしか知らない人には興味深く読めるのではなかろうか。
解説も分かりやすく、悩める青年向き。
きっと納得できる、ニーチェ入門編です。
参照記事→『『超訳 ニーチェの言葉』と FOR BEGINNERS『ニーチェ』 ルサンチ野郎の心の出口

【Amazonレビューより】
1967年初版で、当時は大学生・高校生を対象としていたはず だからさぞかし古めかしいニーチェ論かと思いきや、ニーチェを 深く読んで理解し、初心者にも偏りの無い入門書である。
入門書とは言え、参考になる写真も豊富である。
自己流ニーチェ理解を読者に披瀝するものでも、あたりさわりない 知識を羅列するものでもなく、ニーチェをいとおしみながら冷静に書く筆者の姿勢を高く評価したい。
ニーチェを齧って「ニーチェは いい」あるいは「こいつは何なんだろう?」と感じている方にも すすめられる。

ニーチェの名言と現代人の生き方を照らし合わせながら、一つの生きる方向を示唆する人生読本。
といっても、お説教くさい内容ではなく、人間や社会の真実を真っ向から見据え、いかに戦い抜くか、といった、地に足のついたお話がメイン。
入門編としてもおすすめです。

ビジュアル系ならこちらもおすすめ。
永遠回帰、神の死、超人、権力への意志、ニヒリズム…既成の価値を攻撃し、学問の範囲を越えて多大な影響を及ぼしたニーチェの哲学を分かりやすく解説。
マンガ伝記を読むような感覚で楽しんで欲しい。

平成になってからにわかにベストセラーとなったニーチェの名言集。
読みやすい1節=1ページ形式で、気に入った箇所から手軽に読めるのが特徴。
初めての方に特におすすめです。

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