英国王室が分かる3部作「エリザベス」「ゴールデン・エイジ」「ブーリン家の姉妹」&「クイーン」

その昔、世界中のタブロイドがダイアナ妃の不倫&離婚報道で賑わっていた頃、お昼のワイドショーで映し出されたウィリアム王子のポートレートを見た時、それまで「夢の王子様」だったレオナルド・ディカプリオ(「タイタニック」に出ていた頃の)のことなど、どこのお山にか飛んでいって、「うわー、ディズニーのプリンスが息して歩いてるぅ」と、その美しさと気品に嘆息したものだった。

顔だけのレオ様とは違う、由緒正しき王室の血脈。

ダイアナ妃の生き写しのようなスウィートな顔立ちに、イギリスでは紳士の証とされる真っ直ぐに伸びた両脚。

「あー、本当に『王子様』っているんだなー」と、溜め息がこぼれた。

ついでに、ロンドンに旅行した時、土産物屋に、ハリウッド・スターを思わすような素敵なプリンス・ウィリアムの絵葉書がいっぱい売られていたのも印象的だった。対して、チャールズ皇太子は、テニスの最中に股ぐらを搔いてる写真とか、ヘンな吹き出しがついてるのとか、「よく不敬罪に問われないな」と思うようなトホホな絵葉書ばかりが目に付いたが。

あれから十数年。

こんな素敵な王子様のハートを射止めるのはどんな女性だろうと思っていたら、これまたモダンでハイセンスなお嬢様、ケイト・ミルドンさん。嫌みのない溌剌とした美貌と、スーパーモデルも顔負けの知的な着こなしに、嫉妬ゴウゴウになりそうな同世代の女性も甲を脱がざるをえず、それこそディズニーの決まり文句「They lived happily ever after(二人はそれからいつまでも幸せに暮らしました)」を確信せずにいないほど。

それを考えると、エリザベス一世やアン・ブーリンの生きた時代のなんと血なまぐさいことか。

王族、とりわけ王女にとって、結婚とは政治の道具に他ならず、恋愛などとんでもない話で、ひとたび政情が傾けば、あっけなく首を撥ねられ、人質として幽閉される。スーパーセレブのイメージとは裏腹に「今日生きているのが不思議なくらい」の運命を背負い、権謀術策の翻弄された彼女たちの生き様を思うと、ウイリアム王子とケイト嬢の結婚は、法や人権に守られた現代社会の象徴であり、著しい歴史の進歩を感じずにいないのである。

そんな英国も、エリザベス1世が即位し、強国スペインを撃破して「ゴールデン・エイジ」を迎えるまでは、ヨーロッパ列強に翻弄される小さな島国に過ぎず、吹けば飛ぶような軍隊をやっと囲って、細々と食いつないでいるような状況だった。

しかも国内はカトリックとプロテスタントの宗教的対立に二分し、エリザベスの父王ヘンリー6世の死後、王位に就いた娘のメアリー1世は、熱心なカトリック教徒であったことから国内のプロテスタント勢力を片っ端から血祭りにあげ、「ブラッディー(血まみれ)メアリ」と呼ばれた。

政治的理由から、スペインのフェリペ2世と結婚したものの、夫婦仲は冷え切り、世継ぎもない。

そんなメアリの後ろに控えているのが、義妹にあたるエリザベス。

ヘンリー6世の2番目の妻で、不倫の恋の末に、先妻の王妃キャサリン・オブ・アラゴンを追放し、王冠を手にしたアン・ブーリンの娘で、世間からは「淫売の子」と呼ばれている。

母のアン・ブーリンは、ヘンリー6世の不興を買ったこともあり、結婚後わずか2年で「魔女」の烙印を押され、ロンドン塔で首を撥ねられた。

そして、娘のエリザベスも、淫売と呼ばれた母と同じ運命を辿るのは明らかだったが、美しく聡明で、女王メアリに反発する多くの支持者を味方に付けたことから、生と死の綱渡りのような幽閉生活を見事に乗り切った。

一度は謀反の疑いでロンドン塔に捉えられ、義姉である女王メアリの前に呼び出されるが、何の感情からか、女王はついに死刑宣告の書類にサインをすることなく病に没し、王位をエリザベスに譲ることになる。

とはいえ、国庫は空っぽ、軍隊とは名ばかりで、国を守る要塞も砲弾一つで砕け散るような状態。にもかかわらず、海を隔てた向こうでは強国スペインとフランスが虎視眈々と英国の王座を狙っており、国内では、依然としてエリザベス暗殺を目論むカトリック派の反勢力が暗躍を続けていた。

そんなエリザベスの安全を保証する手段はただ一つ。結婚して、世継ぎをもうけることである。

即位と同時に、エリザベスのもとには他国の王族から様々な縁談が持ち上がるが、彼女は話すらまともに聞こうとしない。

なぜなら、彼女の心は、ハンサムな貴公子、ロバート・ダドリー興に釘付けだったからである──。

*

1998年、アカデミー作品賞にもノミネートされた映画『エリザベス』は、死刑宣告と背中合わせに幽閉生活を送る王女時代から、「処女王」を宣言し、名実ともに英国女王として玉座に就くまでの前半生を現代的な味付けで描いている。

エリザベスを演じたケイト・ブランシェットは、「ロード・オブ・ザ・リング」で森の奥方・ガラドエリルを演じ、最近ではインディ・ジョーンズ最終章で悪役の女将校や、「ロビンフッド」のヒロイン、マリアン役などで、若い層にも広く知られる個性の強い演技派。

キャサリン・ゼタ・ジョーンズやジュリア・ロバーツのような、いかにもハリウッド女優らしい華やかさこそないけれど、抜けるような知性と気品、意志の強さが感じられ、私が強く惹かれる女優さんの一人である。

映画「エリザベス」では、ケイト・ブランシェットの瑞々しい美しさが、25歳の「駆け出し女王」の戸惑いや恋心を等身大で映し出しており、従来の「王室もの」とはまったく違う、モダンでスタイリッシュな作品に仕上げている。

たとえば、恋人ダドリー興と愛し合った後、ベッドでぼんやりまどろんでいたら、いきなりノーフォーク公にカーテンを開けられ、スコットランドが挙兵した事を告げられる。

初めての国政。

ぼさぼさ頭で、ドレスの胸元も乱れ、まるで新卒の女子大生のごとき頼りなさ。それでも「女王らしく」意見を述べ、英国の重鎮を前に英断を下そうとするが、老獪な側近を威圧してでも自らの意志を貫き通す強さはまだない。

異議があるにもかかわらず、枢密院に押し切られる形でスコットランドに出兵したイギリスは、案の定、大敗を喫し、その中には少年兵も多数含まれていた。

その事実を、スコットランド女王メアリ・オブ・ギースからの「血にまみれたフラッグ」で初めて知ったエリザベスは激しく動揺し、自らの弱さに打ちのめされるが、そんな彼女をじっと見守る一人の男があった。フランシス・ウォルシンガム興。後にエリザベスの腹心として、ゴールデン・エイジを支える老練な政治家である。

強くならねばならない──。

この失敗を教訓に、英国の指導者としての責務を心に刻んだエリザベスは、強硬なカトリックの司教を相手に一歩も引けを取らず、まずは国内最大の問題である宗教対立を礼拝統一法によって収める。

そうして、自らの権力を意識し、女王としての道を一歩ずつ歩き始めるエリザベスではあるが、一方で女性としての幸福を望む彼女に衝撃の事実が打ち明けられた。

自尊心を激しく傷つけられたエリザベスは、公の前で「私は男妾を一人もつことにします。結婚はしません(オリジナルでは I have no Master. 誰にも仕えぬ、誰の者にもならぬ、という強いニュアンス)」と宣言し、揺るぎない英国の絶対君主としての道を駆け上ってゆく……。

いわば「現代のキャリアウーマン」の苦悩ともいうべき演技と作風に、共感する若い女性も多いだろう。

非難が渦巻くのは必至の礼拝統一法をはかる議会で、女王としてリーダーシップを執るために、私室で何度も何度も演説の練習をするエリザベスの姿は、まるで社運を賭けたプレゼンテーションを前にした女性管理職のようだし、望まぬ結婚を押しつけられ、「政治か、恋か」を迫られる場面も、ばりばり働く現代の独身女性なら我が事のように感じるのではないだろうか。

歴史の教科書で、「独身主義のコワイおばさん」ぐらいのイメージしかなかった人も、この映画を見れば、エリザベスもまた一人の恋する乙女であり、女性らしい葛藤や心の傷を乗り越えて、与えられた責務をまっとうしようとする姿にきっと共感するはずだ。

その時、彼女は25歳。

現代の日本なら、恋に、お洒落に、OLライフを楽しんでいる年頃である。

そんな細身に、今にも滅亡しそうな「英国」を担わされ、なおかつ、暗殺の不安に怯えながら、女王たらんと道を切り開いていったエリザベスの心中を思うと、男でなくても彼女を抱きしめたくなるだろう。

エリザベスは現代にも存在する。そして、彼女の宿命は、重い責務を担う女性たちへの力強いエールなのではないだろうか。


英国王ヘンリー8世と愛人の間に生まれたエリザベス。腹違いの姉、メアリー女王の死後、弱冠25歳で英国王女に即位。側近でさえも誰が敵か見方か分からない中で、恋人のダドリーが唯一彼女の心の支えだった。スキャンダルの的となりながらも、毎晩逢い引きを重ねる中で、国内の宗教争いは激化し英国史上最大の危機に直面。彼女を失脚させようと、時の権力者ローマ法王をはじめ、全ヨーロッパから忍び寄る暗殺指令と陰謀の影――。アカデミー賞7部門にノミネートされ、様々な主演女優賞を総ナメにした歴史ロマン。

出演のケイト・ブランシェットの知的な演技もさることながら、娘時代の情熱のすべてをささげた恋人・ダドリー興を演じたジョセフ・ファインズ(同じ英国時代もの「恋におちたシェイクスピアも秀逸)」のスウィートな雰囲気も素敵。この方は現代風のハンサムでありながら、カボチャ・パンツや襟巻きトカゲのようなコスチュームが似合う。
また、反対勢力の諜報活動や暗殺を一手に引き受け、エリザベス政権を支えたウォルシンガム興を演じるジェフリー・ラッシュの怪しくも逞しい存在感。(私の大好きな俳優さんの一人。数奇な運命を辿った名ピアニストを演じた「シャインも素晴らしかった。最近では「英国王のスピーチ (コリン・ファース 主演) 」で再び熱い注目を浴びている)
保守的で、お節介オヤジのようにエリザベスの世話をやく忠臣ウィリアム・セシルを演じたリチャード・アッテンボローの好々爺ぶりも見逃せない。
ついでに、この映画には、バチカンから遣わされた暗殺者として若かりし日のダニエル・クレイグが出演している。人気のない聖堂を、黒いマントを翻しながら、殺意を秘めてエリザベスの方に向かってくる場面があるのだけども、あの迫力はさすが「21世紀のジェームズ・ボンド」と納得させられる。拷問の場面も、カジノ・ロワイヤルみたいだった。

華麗にしてスタイリッシュな演出は、時代もの苦手な女性もきっと気に入ると思う。必見。

ヘンリー8世と愛人アン・ブーリンとの娘エリザベスは、3歳で母が処刑され、私生児の烙印を押された。21歳の時には、反逆罪の疑いでロンドン塔に幽閉された。しかし数々の陰謀や暗殺の恐怖に怯えながらも、鋭い判断力と英知で男たちを操り、25歳で自ら女を捨て、国家のために生きることを決意する──。華麗な筆致で綴られた映画の原作。

いわゆるノベライズ本。解説にもあるように、ここに描かれたエリザベス1世はドラマティックに味付けされており、史実というよりは小説として楽しんだ方がいい。とはいえ、実在のエリザベスからまったくかけ離れているわけではなく、「きっと、こんな思いだったろうな」と納得できる内容。映画では描ききれない繊細な心の内や政情などが丁寧に綴られているので、ぜひ合わせて読んで欲しい。翻訳も素晴らしいです。

エリザベス・ゴールデンエイジ

数奇な運命を背負いながらも、25歳でイングランド女王に即位したエリザベス。女王として国を愛し、ひとりの女性として男を愛した彼女は、イングランドの黄金期を築いていく。しかし、その道程は波乱と混乱に満ち溢れたものだった。エリザベスの転覆を狙う者だけではなく、ヨーロッパ列強のイングランド占領を狙う者達の策略や陰謀が渦巻いていた・・・

「エリザベス」の続編として2009年に公開された。さらに成長したケイト・ブランシェットの魅力が随所に光る。
ヴァージン・クイーンの道を選んだエリザベスが、心惹かれる男に出会って、女性らしい葛藤を見せる場面はちょっと少女漫画チックだが、本物の女王と見まごうばかりのノーブルかつ力強い存在感はさすが。
制作サイドはエリザベスの後世を描いた最終章を企画しているそうで、ぜひ実現していただきたい。


これが有名な『ティルベリーの演説』。Youtubeで字幕も出ていますが、日本語訳や歴史的背景もネットにたくさん情報が出てますので、ぜひ検索して下さい。


ケイト・ブランシェットのファンには必見。
ただ、隠れて結婚した若い侍女を平手打ちするシーンは不要だったんじゃないかと、そこだけがマイナス・ポイント。ヒステリーのおばさんみたいだ。。

世界中で大ヒットした「エリザベス」から9年、遂に続編が完成。生涯独身を貫いたエリザベス1世と探検家ローリー卿との恋愛、スコットランド女王メアリーとの確執などエリザベスの波瀾万丈の人生を描く。

こちらもノベライズ。すっかり女王としての貫禄を身につけたエリザベスだが、女の身には重すぎる責務もある。
スペインの無敵艦隊が刻々と迫る中、彼女は歴史を味方に付け、英国を守ることができるのか──。
これも読み応えのある作品。

ブーリン家の姉妹

そんなエリザベスの出生を知りたければ、ナタリー・ポートマン&スカーレット・ヨハンソンが恋の火花を散らす「ブーリン家の姉妹」がおすすめ。

時代は、ヘンリー8世の治世。スペイン王室から嫁いだ女王キャサリン・オブ・アラゴンがまたも男児を死産してしまう場面から始まる。
いずれ国王には愛人が必要になると読んだノーフォーク公は、若く美しい姪のアン・ブーリンを差し出すが、王の心を惹いたのは、優しく控えめな妹のメアリーの方だった。
王の公認の愛人として床を共にするようになったメアリーは程なく妊娠するが、彼女の身体から遠のいた王は、妖艶なアンの魅力に取り憑かれるようになり、待望の男児を授かったにもかかわらず、メアリーとその子を宮廷から遠ざけてしまう。

そうして王の寵愛を一身に集めるようになったアンだが、彼女の野望はそこで終わらない。本当に愛しているなら「愛人」ではなく「正妻」として迎えることを王に強く迫り、ついにはローマ・カトリックに背いて、正統な女王キャサリン・オブ・アラゴンを離縁させる。

念願の王冠を頂いたアンだが、国民からは淫売と呼ばれ、彼女の背後では次なる愛人の座を狙うジェーン・シーモアの存在もあり、その地位は決して安泰ではない。王の愛を保証する道はただ一つ、男の世継ぎを産むこと。だがアンが授かったのは女子エリザベスであり、次の子は流産してしまう。

男の世継ぎを産めない焦りと王の心変わりからアンは追い詰められ、ついには実弟と交わることまで考えるが、最後の最後にようやく理性を取り戻したアンは、もう一度、王の慈悲にすがることを決心する。

だが、そうするには遅すぎた。

すでに心も冷え切った王は、アンを魔女として裁きの場に突き出したのだった──。

この映画の見所は、女として対照的な生き方をするアンとメアリーの個性を、ナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンソンがそれぞれの持ち味を生かして、そつなく演じているところ。

ヘタすればドロドロの愛憎劇になりそうなところをあまり深く突っ込まず、二大女優の雰囲気だけで葛藤を表現しているので、全体に重くないし、見終わった後もけっこう爽やか。

ベストセラーとなった原作の方は、アン、メアリー、そして王妃キャサリン・オブ・アラゴンの思いや生き様を非常に詳細に描いており、読んでいてしんどくなる箇所も多いが(文章がダメという意味ではなく、アンの思い込みの激しさに疲れてしまう)、映画は三角関係のトレンディ・ドラマのようなノリで、一気に物語が運ぶという感じ。

それだけに、重厚な歴史ドラマを期待している人は肩すかしを食らうかもしれないが、二大女優の華麗なコスチュームや大奥のようなシチューエーションを楽しみたい方にはおすすめ。

英国の歴史って、やたらと「メアリー」が登場するので、どれがどのメアリーなのか、訳がわからないが、この作品を観れば、エリザベス誕生の背景が手っ取り早く理解できるはずだ。

どちらかといえば女性向けの作品だが、二大女優の色気を堪能したい男性ファンにも強くおすすめ。


愛したのは同じ“一人の男”。妹はただ王を愛し、姉は王妃という地位を望んだ・・・

最初から狙う気ムンムンのアン=ナタリー・ポートマンよりも、慎ましい主婦の顔をもつメアリー=スカーレット・ヨハンソンの方がやはり好感度が高い。
とはいえ、アンの象徴的なグリーンのドレスは素敵だし、ヘタないきみでルークとレイアを出産した作品より演技としては上等ではなかろうか。
ヘンリー8世を演じたエリック・バナのセクシーな眼差しも見逃せない。
ドラマとしての深みは少々物足りないが、濃度の高い原作を上手にまとめていると思う。

16世紀イングランド。新興貴族ブーリン家の姉妹、アンとメアリーは、たちまち国王ヘンリー8世の目を惹く存在となる。立身出世を目論む親族の野望にも煽られて、王の寵愛を勝ち取る女同士の激しい争いが幕を上げた!王の愛人となったのはメアリー。その座を奪ったうえ、男児の世継ぎをつくることのできなかった王妃までもを追い詰めるアン。英国王室史上、最大のスキャンダルを描いたベストセラー。

これは予想以上に面白かった。翻訳も上手い。
男性読者には、女同士のドロドロがかったるいかもしれないが、女性が読めば、どれもこれも納得するはずだ。
とりわけ、王の寵愛を得て、王妃キャサリン・オブ・アラゴンを追放するまでの5年間、「もう疲れたわ! 世界で一番幸せな振りをするのは、もうたくさん!」とメアリーに八つ当たりするアンの叫びは、愛が手段にすりかわった女の嘆きそのものである。
王冠を賭けた略奪愛は、一人の女が支配するには、あまりに重すぎたのではないだろうか。

クイーン

時代は一気に現代へ。

王室と言えば、皆さん、頭のてっぺんから足の先まで、金銀宝石、絹のドレスで眩いほどに輝き、いつも頭のてっぺんに大きなダイヤのついた王冠をかぶっていて、着替えも食事も、すべて召使いまかせ……というイメージがあるけれど、現代にもなれば、それはお伽噺の世界。

現代のロイヤルファミリーは、家族で川辺にでかけ、グリルを楽しんだり、ベッドにもぐってTVを見たり、女王さまは自ら四駆を運転してお出かけになったり、普通の庶民の暮らしぶりと構わない。

しかも、大衆は王族相手にも言いたい放題、今では女王より首相の方がはるかに多くの実権を持ち、議会の決定には女王だって逆らえない。

そんな現代において、女王は何を想い、何に悩むのか。

その断片を切り取って描いたのが、ダイアナ妃の葬儀を廻る女王の葛藤を描いた『クイーン』だ。

エリザベス2世を演じたヘレン・ミレンは、本物と見まごうばかりの容姿もさることながら、知的でエレガントな演技が高く評価され、幾多の主演女優賞を獲得した。

ダイアナ妃の事故があった時、メディアの大半はダイアナの側から事実を伝え、王室側の葛藤にまでは踏み込んでいない。

それを如実に描いたのが本作であり、よく英国王室がOKを出したな、と思わずにいないほど。

ダイアナ妃の死は、チャールズ皇太子と正式に離婚が成立し、王室を抜けてからの出来事なので、なるほど、王室としてはその位置づけに悩むところだ。
生前から、ダイアナ妃の存在は腫れ物のようでもあったから、王室側の困惑や葛藤も頷ける話である。

それにしても女王とはなんと孤独な存在なのか。

大衆に罵倒されても、ぐっと堪えて、ひとり涙を流すしかない。

「私だってこんなに苦しんでいるのよ」と情に訴えるわけにもいかず、女王として世間が、歴史が納得するような、賢い決断を下さなければならない。

王として、謝罪も撤回もできない、絶対的な決断。

それも世界中がじっと見守っている。

心がどれほど苦悶しても、王者の威厳を忘れないクイーンの姿に、「律する」ということを改めて考えさせられた。

女王になるのは宿命だが、「女王でいること」は強い意志なくして出来ない。

現代には現代の王の務めがあり、苦悩があることを感じさせる秀作である。


1997年5月、労働党のブレアが選挙で勝利をおさめ、エリザベス女王はブレア首相を承認する。同年8月、チャールズ皇太子との離婚後も国民的人気を誇っていたダイアナが、パリ滞在中、交通事故で急逝。ニュースはロイヤルファミリーにも伝わり、チャールズ皇太子は王室機でパリに飛び、ダイアナを英国に連れて帰ろうとする。離婚したとはいえ、将来、国王となる息子にとって、彼女は母親なのだ。最初は「ダイアナは民間人。国事ではない」と王室機の使用を禁じた女王も、チャールズの説得に折れた。しかし、彼女は決して、ダイアナの死について公的なコメントを出さず、これが国民の反感を買った。国民は女王は冷徹だと非難し、彼女は孤立。そんな女王を救ったのは、新首相ブレアだった。

ヘレン・ミレンの気高い演技もさることながら、若き首相ブレアを演じるマイケル・シーンの軽やかな存在感もいい。
相手が女王であることを十分に意識しつつも、民意の代表としての立場を貫き通すブレア。
その駆け引き、人間としての触れ合いが、本作を見応えのあるものにしている。
ロイヤル・ファミリーの私生活や、ダイアナ妃をめぐる王室の葛藤など、興味のある方におすすめ。

ちなみにヘレン・ミレンの作品はこちらもおすすめです。
エセ文化人が美と知性を滅ぼす 映画『コックと泥棒、その妻と愛人』

Photo : http://www.simbasible.com/elizabeth-movie-review/elizabeth-movie/