映画

リプリー船長が最も美しいコメディ映画『デーヴ』

2010年5月21日

シガニー・ウィーバーは不思議な女優さんと思う。

絶世の美女でもなければムキムキマッチョなグラマラスな女性でもない。

カワイ子ちゃんでもないし、妖精でもない。

なのに、知的で優しくて、女性らしい魅力にあふれている。

それはマシンガンを片手にエイリアンと戦っても同じこと。

ほっそりした方なのに、全身から気迫が漂って、強さの象徴みたいに見えるんだな。

そんなリプリー船長(正しくはリプリー二等航海士)が最も美しく輝いて見えるのが、大統領の替え玉をテーマにしたハートフル・コメディ『デーヴ

秘書と不倫中に脳溢血を起こし、意識不明の重体に陥った大統領の身代わりをつとめることになった、物真似上手のデーヴ。

人材派遣事務所を経営する彼は、人を喜ばせ、幸せにすることが大好きな男だ。

冷淡で鼻持ちならない大統領と極秘に入れ替わったデーヴの心温まる言動はたちまち大衆を魅了し、支持率もぐんぐん回復する。

しかし、この活躍を喜ばない者がいた。

入れ替わりを画策した大統領補佐官ボブ・アレクサンダーである。

しかるべき時に大統領の重病を公表し、後釜を狙うボブにとって、デーヴの存在はまさに目の上のタンコブ。

大統領執務室に勝手に入って、予算を決める大事な書類に大統領としてサインした事実をめぐってデーヴと対立したボブは、大統領の汚職をを暴露し、デーヴを社会的に葬ろうと目論む。

初めて大統領の替え玉として公衆の面前に立つデイブ。そこで大統領夫人とは私生活において完全に破綻していることを知る。

しかし、デーヴには強力な協力者があった。

シガニー・ウィーバー演じる、大統領夫人エレンである。

度重なる浮気や横暴で、夫である大統領にすっかり愛想を尽かしていたエレンは、デーヴが替え玉と分かっても、彼を追い出したりはしなかった。

むしろ、夫にはない優しさと誠実さに惹かれ、本物の大統領たらんとするデーヴを心から応援する。

そして、デーヴの掲げた雇用政策は国民の高い支持を得て、すべては順調に行くかと思われたが、業を煮やしたボブの告発により、絶体絶命の窮地に立たされる──。

大統領の替え玉とか、どう考えてもあり得ない話なのに、破綻なく話が進んでいくところがこの作品の面白いところ。

しかも、ファーストレディを演じるシガニー・ウィーバーの上品で美しいこと。

ウェーブのかかったショートヘアや知的なメーク、膝丈のスタイリッシュなスーツ姿など、どれをとっても本物のファーストレディに肉迫するものがある。

こんな女性がファーストレディなら、国民もどれほど幸せだろうと思わずにいないほど。

豪奢なホワイトハウスの一室で、椅子に腰をかけTVを見る場面があるのだけども、上品な膝丈のスーツからすらりと伸びた足がすばらしく綺麗で、シガニーという女優さんの育ちの良さや洗練された暮らしぶりが垣間見えるようだ。


私のDVDコレクションにコメディは数少ないのだけども、「デーヴ」は一等に位置する作品で、繰り返し見ることが多い。

話の筋も台詞も分かっているし、どこといって抜きん出たところもないのだけれど、シガニーの知的な美しさや、この作品でゴールデングローブ賞主演男優賞を受賞したケビン・クラインのハートフルな演技を見ていると、人間の素晴らしい一面とハリウッドの良心を感じずにいないのだ。

物語は、デーヴの見事なパフォーマンスによって意識不明の大統領と難なく入れ替わり、「大統領の死」という悲しい結末で終わるが、最後に素晴らしい愛のギフトが用意されている。

もしかして、エレンは再びファーストレディに? なんて想像を掻き立てられる見事なサプライズだ。

また、デーヴの活躍を喜ばない大統領補佐官ボブ・アレキサンダーを演じるフランク・ランジェラも素晴らしい。
近年では、ウォーターゲート事件で失脚したニクソン大統領のインタビューをテーマにした作品『フロスト×ニクソン』(詳しくはこちら『フロスト×ニクソン』アメリカ国民を釘付けにした伝説のTVインタビュー)で、数々の主演賞を受賞しただけあって、いやらしくも愛嬌のある演技に釘付けになる。

主演デーヴを演じたケヴィン・クラインもしかり。

「自分が演じる大統領」を演じる、という、二重演技が要求される役柄ながら、実に自然に入れ替わった。

くだけた印象ながらどこかノーブルな雰囲気を漂わせる笑顔も素敵。

こういう人を夫にすると女性は幸せだろうなぁ、なんて思わせる温かいキャラクターだ。

確かにあり得ない、ご都合主義なコメディと言われればそれまでだが、この作品には大きなテーマが二つある。

一つは、行動すること。

もう一つは、政治にあるべき姿だ。

どんな高い理想を掲げても行動しなければ意味がないし、行動したからといって必ず上手く行くとは限らない。

でも、行動することによってしか物事は変わらない。

誰にでも出来る小さな革命、それは「行動すること」。

もしかしたら、その行動は、世界の歴史さえ変えるかもしれない、ということだ。

そして、行動を起こしたデーヴは、最後の演説でこう語る。

「大統領は国民の雇われ者だ。大統領が執務室で元気に仕事をしていると思えばこそ、国民も安心して暮らすことができる」

政治とは何か。それは実にシンプルな話だ。

本質は、国民を幸せにするためのシステムに他ならない。

政治は政治家のものではなく、国民のものであるということ。政治家が国民を食わせてやっているのではないのだ。

それを「雇われ者」という言葉で表したところに、制作側のメッセージがあるように思う。

ともあれ、リプリー船長は何を演じても美しい。

こちらはデーヴの正体を知った二人が共にホワイトハウスを去ろうとした時、警察官に呼び止められ、とっさのパフォーマンスで「大統領&大統領夫人の物真似コンビ」の振りをするもの。

普通の乗用車が降りてきたのが「本物の大統領&大統領夫人」とあっては警察官もビックリ、周囲も騒然となるところ。

しかし、デーヴの熱演とエレンのぎこちない歌唱によって事態は収束。


シガーニー・ウィーバーに関するアイテム

再版が待たれる上質なハートフル・コメディ。
最後のワンショットで「あっ」と驚く展開があり、最後の最後まで楽しませてくれる。
ホントにおすすめです!

シガニーの存在を一躍世界に知らしめた出世作。
映画監督リドリー・スコットの代表作でもあり、SF史に残る傑作でもある。
乗務員の腹の中から飛び出した残忍かつ凶暴なエイリアンに次々に襲われる宇宙船ノストロモ号の船員たち。
あえて有名なアクション俳優を起用せず、最後まで誰が生き残るか分からない演出にしたスコット監督の目論見は見事成功した。
まさかシガニーが生き残るとは思えなかった本作だが、ラスト、「幸運の星よ、お願い、守って」と、宇宙服姿で息絶え絶えにキャビンの開閉スイッチを探る迫真の演技が素晴らしい。

高まる期待を一身に集めてジェームズ・キャメロンが挑んだ『エイリアン2 [DVD]』も、リドリーとはまったく異なるスピーディーなタッチで楽しめる。シリーズ第二作として大成功した数少ない作品の一つ。
巨大かつ無慈悲なエイリアン・クイーンと対峙するリプリー様はまさに宇宙の戦士。
Avatar アバター』も悪くはないけど、やっぱりリプリー船長が一番でしょう。

Photo : http://www.rogerebert.com/reviews/dave-1993

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