ショスタコーヴィチ・ピアノ協奏曲とディズニーアニメの美しい融和

クラシックの名曲に共通して言えること──それは、「音楽的=絵画的」ということだ。

スラブを渡る風や、鐘に包まれた古い町並み、橋の上にたたずむ人の哀しい翳りが、まるで一枚の絵のように目の前に浮かぶ。

あの名曲を絵画にしたい──頭の中に広がる音のイメージを形にしたい──という思いは、きっと音楽が生まれた時から人の憧れだったろう。

そして、それを美しいアニメに仕上げた人がいる。

Magic Kingdom の使者、ウォルト・ディズニーである。

アニメ史に残る傑作、『ファンタジア』は、第二次大戦前夜、1940年に制作された。

日本軍が、慰安に向かう米軍の飛行機を撃ち落としたら、その中に2本のフィルムが搭載されていた。1つは、『風と共に去りぬ』。もう1つがこの『ファンタジア』である。

フィルムの内容を確かめるために極秘の上映会を開いた日本軍の上層部は、その余りの素晴らしさに「敗北」を覚悟したという。

日本人が今日食べる物にも事欠き、ぼろぼろの姿で堪え忍んでいる時に、アメリカ人は、たった一本の娯楽映画を作るために何万ガロンという石油を燃やし、こんな高度なアニメを作って楽しんでいたのだから。

『風と共に去りぬ』は言うに及ばず、『ファンタジア』も芸術性においては白眉のものである。

「禿山の一夜」「魔法使いの弟子」「くるみわり人形」など、個性的でメロディアスな名曲を1つのストーリーに見立て、ディズニーらしいリズミカルな動きで表現したこの作品は、一音一音に至るまで、完璧なまでに視覚化したものだからだ。

子供でなくても、「ああ、この音は、確かにこんな動きをするだろうね」と思わず納得してしまう。

曲への深い理解と豊かな感性に裏打ちされたカラフルかつチャーミングな世界観は、頑ななクラシックマニアの心をも溶かしてしまうだろう。

そんなウォルトへのオマージュとして、2000年には新しいバージョン『ファンタジア/2000 [DVD]』が作られた。

ここで紹介するのは、クラシックファンでなくても心が躍る、片足の兵隊と美しいバレリーナの恋物語である。

アニメ化されたのは、『ショスタコーヴィチ : ピアノ協奏曲 第2番

クラシックのみならず、ジャズ風のお洒落な作品も多い、20世紀ソビエトを代表する作曲家ショスタコーヴィチ。

ショパンやリストなど、「クラシックらしいクラシック」に親しんでいる人からすれば、ちょっと調子が外れたような彼の旋律は、収まりの悪いクッションみたいに、モゾモゾと落ち着かないことだろう。

だが、何度も聴いていると、その壊れた部分が妙に耳について離れなくなる。

そんなに好きじゃないんだけど、「もう一回」と思う。

不思議な音楽だ。

だが、この「ファンタジア」に関しては、これ以上ないほど完璧に絵とマッチし、まるでこのアニメの為に作曲された音楽のよう。
本来ならストーブに焼かれてしまうアンデルセンの「すずの兵隊さん」をハッピーエンドでまとめたのはさすがディズニー。
バレリーナの動きも本物そっくりだし(これは非常に研究していると思う)、雨の戸外に叩き落とされてからの冒険もスリル満点だ。
片足の兵隊さんがどんどん素敵な騎士に見えてくる、とてもロマンティックな演出である。

私も軽い気持ちで見始めて、途中からグイグイ引き込まれてしまった。

ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲って、こんなヒロイックだったけ?と思うほど。

今まで理解していなかった名曲の一面を、改めて思い起こさせてくれる「ファンタジア」。

動画を見ていると、無性に子供時代が懐かしくなった。

※ 最初にちょっとナレーションが入ります。演奏は1分10秒頃から。


ショスタコーヴィチに関連するCD・DVD

本作でピアノソロを演奏しているブロンフマンのCD。
ジャケットもしっかり「すずの兵隊さん」。
クリスタル感あふれる現代的な演奏である。

本作が収録されているDVD。
ジェームズ・レヴァインの指揮というのがいかにも2000らしい。
「威風堂々」「火の鳥」「ローマの松」といった選曲も、とってもビジュアル。
聞き流しても楽しめるおすすめの一枚だ。

1940年に制作されたとは思えないクオリティの高さである。
とりわけミッキーが魔法のホウキに振り回される『魔法使いの弟子(デュカス)』は、「誰もが見たかった世界をついに映像化した」といっても過言ではない。
何よりクラシックに対する深い理解と愛情が感じられ、羨ましいほどの気持ちになる名作だ。
 
ちなみに、ショスタコーヴィチというと、カクカクした音楽ばかり作っているような印象がありますが、こんな素敵なメロディもあるんですよ。

「二人でお茶を Tea for Two」。誰でも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

晴れた日に庭先にテーブルを出して、ウェッジウッドのカップでお茶をしたくなるような曲です。あ、もちろん紅茶はアールグレーでね♪

「二人でお茶を」をはじめ、ノスタルジックな「ジャズ組曲」、クラシックの「ピアノ協奏曲」が収録されています。
江戸川乱歩の「黒蜥蜴」なんかが出てきそうな、大正モダンの世界です。

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